彫刻のような男
ぎゅっと身体を竦めて殴られる衝撃に備えてから一寸してもそれが自分を襲ってくることはなかった。
不思議に思いブルーメが薄目を開けると、広い大きな、大きな背中が目の前にあった。
あの貴族の子息風の男が何か喚き散らしている。どうやら目の前の男に腕を捻り上げられて痛いだの離せだの俺は貴族だぞなど言っているっぽい。ウザすぎだろ。
眼前の男が何かを耳打ちすると、喚き散らすのを止め顔を青くして、キッとブルーメを睨むと小走りに逃げていった。
俺にだけ強気な上から目線で何かムカつくな。
「すみません、助かり…」
改めて眼前の男に礼を言うために顔をあげたブルーメは、振り向いた男をしばし惚けたように見つめてしまった。
その大きな、大きな背中の男があまりにもイケメンだったからだ。
背は小柄なブルーメより頭2つほど大きく、綺麗に筋肉がついた体躯の肩は広く腰は締まりおまけに脚がすこぶる長い。
漆黒に少し青みがかった濡れたような黒髪にすっと通った鼻梁、厚すぎない形の良い唇、翡翠の目元の美しさたるや、この国で信仰されている光の神バルデュール様の彫刻のようだった。
何かいい匂いもするし。
眼前のバルデュール様がその綺麗な眉を少し寄せたのを見てハッとしたブルーメは慌てて頭を下げた。しまった、あまりに見つめ過ぎて不審がられたのか。
「あの、本当に助かりました。お礼をしたいんですけど今無職なのでたいしたことができなくて…」
するとバルデュール様はそれはそれはイケメンな神々しい顔をくしゃりとさせて笑った。
「じゃあ分割払いで」
それが、転職先の同僚ライモンド・バルツァーとの初めての出会いだった。




