動悸ドキドキ、したくない
遠くの方から歓声が小さく聞こえる。
公開実験が始まった、声が聞こえる方向へ僅かに目をやった面接官がそう告げた。
――面接の後半は研究業績の質問から始まった。
あー休憩が休憩にならなかったな。
ライモンドにレオンハルト、あいつら何で俺に絡んでくるんだよ。
それにしても、さっきから耳奥に響いてくる魔気揺らぎは何なんだろう。――痛がってる?
面接官の声で現実に戻され、俺は聞こえないくらいの小さな溜め息をついた。
レオンハルトの軍用魔気障壁の強化改良の論文は凄かった。
文句のつけようもない完璧な理論。
あいつの思想はあの分野に向いている。
あのどこまでも技術の進歩に邁進しようとする姿は羨ましくもある。けれど――
「…47…受験番号47!」
「はいぃっ!イテっ!」
ぼんやりとしていた所を呼ばれて、また脛を椅子にぶつけてしまった。
面接官が苦笑している。
俺は赤くなる顔を両手で覆い背筋を伸ばした。
「――この保温皿だが、設計式は緻密で精度も高い。保温効率も非常に高いものだった。…しかし、B値が異常に低い。35%しかない。なぜこれで動くのかがわからない。再現性が低く評価ができない」
B値―境界固定指数。
これは魔工具の安定性や再現性を示す数値だ。
一般的に、この数値が高いほど品質が安定し量産に向くとされる。
面接官の言葉にクスクスと受験生から笑い声が漏れる。
あんな汚い皿が業績だなんて、そんな陰口も聞こえてきた。
魔工具に新しいも古いもないだろ。
俺は保温皿を喜んで自慢してくれた女将さんの顔を思い浮かべて悔しくなった。
「アイゼンフェルト君、君の魔工具の最高B値はいくつだったかね?」
「…92%です」
おお!と面接官も受験生も驚嘆の声をあげた。
量産の基準値は60~70%
俺は頑張っても75%だったなど受験生同士が興奮しながら話している。
「ブルーメ・クンツェ、君の魔工具について何か言いたいことはあるかね?」
うーん。もう言わなくてもいいかなあ。
早く帰りたいし。
ふいに、ライモンドの整った顔や低い声が思い浮かんだ。
「――後半も、そのままで」
俺はパチパチと瞬きをした。
「低B値は、魔工具の性能の高い低いを決めないし…安定性も、決めないと思います。固定が弱いほうが、揺れを逃せるから…」
面接官の眉がぴくりと跳ね、短く沈黙する。
「…それはどういう意味かね?B値は境界固定の世界共通基準値だということを知らないのかね?」
「それは知ってるけど…固定はし過ぎると却って壊れやすくなるから…やめたほうがいいと思います」
面接官がやや興奮気味に聞き返そうとした時、会議室の魔気灯が一瞬だけ点滅した。




