奇才異才は美味そうにコーメ握りを喰む者
問7.境界固定パラドックスに関する論争について
―観測したら損失が確定するが観測しないと計算ができない導管のパラドックス―
最大値想定、最悪想定での計算の場合、損失率20%
統計的数値、平均値での計算の場合、損失率10%(期待値)
観測込み同期演算の場合、損失率 変動値
使用しない、系として不適切
◇
「あの47番、計算が解らないから適当に解答したんじゃないのか。喋ってることも支離滅裂だ。“危ない”だの“どこであることにする”だの」
「あれで筆記985点なんて訳がわからないよ」
「筆記だけ得意な田舎者かしら。それに比べて、レオンハルト様は素晴らしかったですわ。あの回答が聞けただけでも今日来て良かったですわ」
「ああ、さすが王国表彰者だ。もっと彼の理論を聞きたいものだ。悔しいが、もし彼が今回の合格者ならば諦めもつくだろう。まあ俺も最後まで頑張るがな」
面接試験の休憩時間、受験生の話題はブルーメとレオンハルトのことで持ち切りだった。
レオンハルトは受験生たちの輪に冷めた視線を送り、読んでいた本をぱたんと閉じて席を立つ。
――《《アレ》》を理解できないなら、その程度だ。
無意識に目的の色を探し視線を彷徨わせる。
――どうやって、あの考えに至った?
アレは、理論じゃなかった。どうやって?
そのころ当の銀色は、学院の庭園のベンチではむはむと美味しそうにコーメ握りを頬張っていた。
「さすが女将さん特製のコーメ握り。冷めてもモチモチでサイコー!あ、これ食堂の昼定食にいいかもな。今度女将さんに言ってみよう」
そんな銀色のサラサラな髪に影が落ちる。
「美味しそうですね」
頭の奥の奥まで響くような低いあの声。
身体がビクンとする。見上げたくない。
いつまでたっても見慣れることのない神々しいイケメンは、下を向いたままの俺の隣に当然のように腰掛けた。
そして固まっている俺の手を大きな硬い手のひらで包むと、パクリと美味しそうに手にあるコーメ握りを頬張った。
「これはいい。今度私も持ち帰りで作って貰いたい」
整いすぎた顔が至近距離まできて瞬きできない。
「…手っ、コーメ握りが食べたいならまだあるからっ」
大きな手を振り払うと、ライモンドはわざとらしく残念そうな表情を作り綺麗な形の眉を下げた。
「あの答え、良かったです。後半も、このままで」
そう言ってコーメ握りを持っていない方の指先を軽く掴むと口の端を少しあげた。
翡翠の中に俺がいる。
しばらくして手をそっと離すと耳元で囁いた。
「頑張ってください」
俺は真っ赤になったまま耳をおさえた。




