面接が終わったらコーメ握りを食べるつもり3
「その、君の言った“壊れる”の意味は……?」
面接官が少し困惑したように言葉を継いだ。
俺、やっぱり変なこと言ってるのか?
恥ずかしさで顔がかーっと赤くなる。
「人も、街も、設計も壊れると戻らないから…」
「壊れにくい方が、いいです」
ぽかんとした面接官。当たり前のことだろうと鼻で笑う受験生。
「…結構です」
真っ赤な顔のブルーメに、微妙な表情の面接官が話を切った。
レオンハルトだけが琥珀の瞳を見開いたままブルーメの姿を凝視し、翡翠の瞳は面白そうに口角をあげた。
「では、筆記試験の質問に移ろう。問7について。あの問題を君たちはどう解釈したのか」
筆記試験 計算問題 問7。
「あの」前提がわざと書かれていなかった問題。
思い出してヒュッと息を吸い込んだ。
指先が氷のように冷たい。
いや、ただの問題だ。みんなの答えを楽しもう。
俺は頭を軽く振って前を向いた。
問7 魔石A(魔気量100)から魔気灯へ魔気を供給する。
導管は三層構造であり、各層の損失率は以下の通り。
第1層:20%
第2層:観測者依存(0~20%)
第3層:10%
ただし第2層の損失率は「試験監督が“損失あり”と確定した瞬間に20%として扱う」とする。
有効魔気量を求めよ。
試験後、試験監督により黒板に追記。
「第2層は“観測が確定していないため計算不能”」
受験生は順番に答えていき、8人がこう答えた。
「条件に基づく魔気損失率計算問題」
それぞれにどうしてそう考えたのかも上手に説明していて、俺は聞いていて楽しくなった。
そしてレオンハルトの順。
面接官も含め周りはどんな回答なのかと固唾を呑んだ。
「問7は…観測誤差込みの高難易度同期演算問題です」
先に答えた8人にとって、この問題は「少し難しい」けれど解けぬほどではない捻った「計算問題」だった。
しかし、レオンハルトはそれを「観測によって変化する状態を制御するための問題」として見た。淡々と揺るがぬ赤銅の言葉に、受験生達は憧れのような諦めのような届かぬ高みに焦がれる顔をした。
俺はといえば、さっきからずっと香っている懐のコーメ握りの匂いで頭がいっぱいになっていた。
「受験番号47」
面接官も半ば流れ作業のような感じで、受験生達もレオンハルトの答えに満足している。
もう終わって昼休憩だという雰囲気だ。
俺は目を閉じた。
あの問題。
アレは――嫌いだ。どこに繋がってるかわからない空洞に頭を突っ込んでるような気分になる。
その瞬間、女将さんの丸い顔が浮かんだ。
閉じた目を開くと、すうっと息を深く吸い込んだ。
「あれは……答えを出しちゃいけないやつ、です」
俺が口を開くと、それまで少し騒がしかった会議室が一気に静まり返った。
「ある、と決めた瞬間に結果が決まるから…だから、あれは計算問題じゃなくて、どこで「ある」ことにしてしまうかを見る問題だと思いました」
しばらく言葉を失っていた面接官が、ハッと我に返ったように聞いた。
「では君は、どう解答したのかね」
俺は即答した。
「使わない方がいいって書きました。…だって固定したら危ないでしょ」
その瞬間、琥珀と翡翠が、銀色を閉じ込めた。




