面接が終わったらコーメ握りを食べるつもり
銀の突き匙亭の朝。
コトコトと鍋が静かな歌を歌う。
トマやオニーンのおいしい香りが湯気に乗って鼻腔から胃まで届く。
「腹が減っては戦が出来ないからね。たんと食べとくれよ」
—香辛料の利いたトマとオニーンのスープ
—半熟キチキチ目玉焼き
—茹で腸詰めのトマソースがけ
—3種の具材入りコーメ握り
—マーメを散らした彩りサラダ
—搾りたてグレープルジュース
女将さんの愛情たっぷりの朝食。
全部美味しい。
軽く平らげると、女将さんはコーメ握りを袋に詰めて渡してくれた。
「お昼に食べるんだよ。お腹がふくれないと喋れることも喋れないさね」
じわりと目元が濡れそうになるのをぐいっと袖で拭って女将さんに頭を下げた。
「行ってきます」
◇
王立学院は王城のある貴族街と商業区の中間に位置し、グリンベルクの国内最高の研究機関であり、新理論・新技術の発信地でもある。また王都に張り巡らされた魔気導線網の管理中枢としての役割も担う。その存在は国内の政治・経済のみに留まらず、周辺諸国にも大きな影響を及ぼしている。
らしい。
銀の突き匙亭の常連客のマーさんが言っていた。
筆記試験は何でか解らないけど比較的出来たみたいだ。
けど、そんな凄いところの先生なんてやっぱり俺には無理だな。女将さんの朝食とコーメ握り分だけ頑張ろう。
そんな軽い気持ちで学院に足を踏み入れた途端、四方八方から強い視線を感じた。
筆記試験はあまり人とすれ違わなかったが、今日は学内に人が多い。
そういえば正門に馬車がたくさん止まっていた。
みなピシッとした紺色の上着で襟元にバッジを付けている。
講義を受けに来た学院生だろうか。
そんな中で、やはり俺はもの凄く浮いているのか、紺の上着のやつらはジロジロと俺を眺めつつ避けるように歩いていく。
俺はいたたまれなくなって早歩きで会議室に向かった。
会議室にはすでに合格者が揃っていて、俺は最後だったようだ。入るなり全員の視線が俺に集まった。
「ブルーメ・クンツェさんですね。こちらで受付をお願いします」
筆記試験の合格発表の時にもいた柔らかな茶髪の若い男性に名前を呼ばれる。
前もそうだったがこの人は割と感じが良い。他のやつらみたいに俺にあからさまな視線を投げてこない。
受付を済ますと、空いていた椅子にトンと腰掛け周りを見回した。
年齢はまちまちだが、服も髪も綺麗に整えて暮らしぶりの良さげな感じが雰囲気に出ている。
その中でも一際目を引く若い男がいた。
綺麗に撫でつけられた髪は焼けた銅のような赤。その下にのぞく琥珀色の瞳は射抜くように俺を見ていた。
俺の顔をしばらく見ていたかと思うと、やがて興味を失ったかのように視線を外し、まるで何事もなかったかのように手元にある読みかけの本に目を落とした。
やれやれ、何事もなく早く帰りたい。
懐にあるまだ温かいコーメ握りにポンポンと触れながら息を吐いた。
息を吐き切るのが早いかどうかくらいのタイミングで面接官の声がしんとした部屋に響いた。
——面接の始まりだ。




