試験結果 3 なんでこんなところに
あの冴えない小柄なやつが1位なんだって…?
あんな清掃員みたいな格好をしたやつが…?
…そうだ、こんなやつが自分たちを差し置いて、このグリンベルク王立学院の試験で1位なんて取れるはずがない!
まて、こいつは前にアンゲーベン商会で見たことがある!
出来損ないと評判だった移民の魔工士だ!
なんだと、移民だと!ならば不正をしたことに間違いない!
そもそもなぜ移民なんかが試験を受けているのだ!
この移民の試験結果は無効だ!
卑怯な移民は失格にすべきだ!
ざわめきはどんどん大きくなり、受付の若い男性に落ちた受験者たちが詰め寄った。若い男性はオロオロと困ったように対応している。
ブルーメは詰め寄る受験者の一人に汚い卑怯者の移民めと強く肩を押され尻もちをついてしまった。
ズキンズキンと肩に熱く鈍い痛みが走る。
本当に……バカバカしい。
こいつら貴族ってやつらは。
自分の実力不足を身分のせいにして他人を蹴落とそうとする。
……こんなやつらに人を教える資格があるのか。
ブルーメは悔しくて、本当に悔しくて血が滲むくらいに唇を噛みしめ、それでも下を向かないよう必死で顔を上げ睨むように目に力を入れた。その大きな青紫の瞳から涙が溢れそうになるのを堪えて。
「静粛にせよ」
ざわめき、混乱した場に低く、しかしよく通る声が響いた。
どこかで聞いたことのある、耳元で囁かれたらゾクゾクしてしまうだろう深みのある男性的な低音の美声。
声の主は2人の男性を従えて場の中心に姿勢を正して立った。
その一連の威厳ある美しい所作に思わず受験者たちは息を呑んだ。
ブルーメはといえば別の意味でひゅっと息を呑み、大きな目をさらに大きく見開いた。
……ライモンド?!
ブルーメを街で助け、強引に教員試験を勧め、つい先日も銀の突き匙亭で魔工具を褒めてくれた、気さくで胡散臭い、けれど神々しいほどイケメンのライモンド。
そのライモンドが、銀糸の刺繍が施された膝下まで丈のある上品な濃紺の礼服に身を包み立っていた。襟元には学院の入口にあった紋章と同じ形の銀のバッジをつけて。
「私はこの度の試験監督長、ライモンド・フォン・ヴァルツァーである。このグリンベルク王立学院の厳正なる場においてこの騒ぎは何事か」
場内は一気に静まり返る。先ほどまでのざわめきが嘘のようだ。
ライモンドは場の混乱を巻き起こした原因ともいえるべったりヒョロ男に鋭い視線を向けた。
「貴殿が何を問題としていたのか答えよ」
べったりヒョロ男はコカトリスに睨まれたフロッガーみたいにカチンコチンに固まって顔面蒼白になり、下を向いてモゴモゴと口ごもった。
「答えられぬのか。ならば他の者に聞こう。誰でも良い、答えよ。何を問題としていたのか」
しんと静まり返り誰も何も言葉を発さない。いや、ライモンドの放つオーラに圧倒されて発せられないのか。
「答えぬということは問題は何もなかったということでよいか。ならば、この件で騒ぎ立てることを以降禁ずる。受験生として品位なき行動を自戒せよ。そしてブルーメ受験生はこのあと医務室に立ち寄り治療を受けられよ。ちなみに、我がグリンベルク王立学院の教員試験は身分に関係なく意欲と能力のある者に広く門戸を開き、各受験生の試験が厳正であるかは魔法と魔工具とで個別管理されている。試験結果はその厳正なる管理のもと下される。管理体制に異議があるものはこの場で申し出るがよい」
とどめを刺された不合格者たちは下を向き押し黙った。
ライモンドは床に座り込んだブルーメをそっと立たせ、形よい唇は耳元を掠めるくらいに近く、ゾクリとする低音を小さな波のように響かせた。
「あなたが泣くのを堪えている目、誰にも見せたくないです……手は怪我していないようですね。あとで医務室に」
凍りついた空気が溶けぬまま、まだ受付を済ませていない合格者がそろそろと残りの手続きを始め、俺はといえば状況を呑み込めず、ライモンドに触れられたところに熱を感じながら履歴書の記入漏れの部分にペンを走らせた。




