第7話:浪費家のATMになるつもりはない
護愛と出会ってから3日目のダンジョン探索。
俺はいつものようにダンジョンへと踏み入れる。
ダンジョン1階。
「っ!?」
いつもとは明らかに違う何かを感じた。
「ギャーッス!」
「キュキューン!」
明らかにいつもと違う魔物たちの声が聞こえる。
俺は警戒しながら、その声が発生源へと近づいた。
黒い毛並みに赤い目。
一本の大きな角と、左右の折れた二本の角。
あの姿はイビルホーンラビットだ。
可愛らしい魔物として親しまれるホーンラビットの最終進化形である。
普通のホーンラビットよりもやや大きいが、三回の進化を経ても可愛らしい姿はそのままだ。
ただ、その実力はホーンラビットと比べ物にならない。
最終進化に必要なレベルは140以上と言われており、俺がどうにかできる相手ではない。
どうしてこのダンジョンにイビルホーンラビットがいるのか?
その答えは簡単だ。
相当高レベルの魔物使いが訪れている、もしくは捨てられたかの二択だ。
どちらにせよ一度離れたほうがいい。
身の危険を感じた俺はイビルホーンラビットに悟られぬよう、一度ダンジョンの外へ出た。
すでに護愛はダンジョン内にいるかもしれないが、最優先すべきは自分自身の命だ。
一緒に殺されてしまったら元も子もない。
俺は近くのコンビニへ向かいジュースを買う。
あの場に高レベルの探索者がいたのなら、イビルホーンラビットも引き連れてどんどん奥へと進むはずだ。
ジュースを飲んでいる間にいなくなるのは間違いない。
戻ってもまだ1階にいたのなら、捨てられた可能性が高い。
その時は警察署へ相談だ。
ジュースを一本ゴクッと飲み終えた後、俺は再び宝塚ダンジョンの入り口へと向かう。
「あれ?」
入り口付近には護愛の姿があった。
どうやら無事だったみたいだ。
その隣には見知らぬ女性の姿もある。
露出が目立つ服装で、小さなアクセサリーをたくさん身に付けている。
年齢は20代後半だろうか?
誰かは知らないが、護愛を連れ回しているとは思われたくない。
ここは無視してダンジョン探索を再開するに限る!
「あーっ!」
俺の姿を見た護愛が声を上げた。
ダンジョンの外では話しかけるなって伝えただろ!
ふざけんな!
「フェルザーくんって君だよね?」
護愛と共にいた見知らぬ女性の言葉に俺はぞっとした。
フェルザーというハンドルネームは護愛しか知らない。
つまり、護愛が俺のことを話してしまったのだ。
「はっ?」
「いやー、護愛ちゃんがお世話になっているみたいだから気になっちゃった」
「……」
友好的な話しかけ方だけど、警察を呼ぶまでの時間稼ぎか?
「ああ、そうそう。私は護愛のママ、魔乃 亜炉麻よ。文句を言いに来たわけじゃないから安心して!」
……こいつ、護愛の母親かよ。
子持ちとは思えない格好だな。
見るからにギャルっぽい格好で母親になりきれていない雰囲気がぷんぷんする。
第一、その高そうなバッグはなんだよ。
魔乃家が貧困に陥ってるのは、絶対こいつの浪費癖が原因だろ!
「ねぇねぇ、フェルザーくんって護愛ちゃんに興味あるんだよね!」
護愛はどこまで話したんだよ。
この感じだと逮捕されることはなさそうだけど、別の意味でめんどくさい。
「何の話ですか?」
「照れなくてもいいのよ!」
亜炉麻は俺を誘惑するように顔を近づけ、こっそりと耳元で囁く。
「私たち、三人で一緒に暮らさない?」
甘い誘惑。
母娘丼を要求しても快諾されそうな雰囲気だ。
非モテをこじらせた童貞だったら一瞬で落ちてしまうこと間違いない。
「あっ、お断りします」
でも俺は即座に断った。
亜炉麻の金銭感覚は絶対やばい。
ATMにされる未来しか見えない。
「えー、なんでよ! 二人のお付き合いはママが公認するよ!」
お前はエロ同人に出てくるシンママかよ!
「亜炉麻さんの浪費癖に巻き込まれたくないんで!」
「ちょ、ちょっと待って! フェルザーくんは私の何を知ってるのよ!」
亜炉麻は明らかに動揺している。
「だってそのバッグ、ブランドものの高級品じゃないですか」
「こ、これは護愛ちゃんが生まれる前に元彼からプレゼントしてもらったのよ!」
生活に困窮しているなら売れよ!
「じゃあ護愛にも質問しよう」
「何?」
「ママの従えていた魔物の特徴を教えてくれ」
「んーっと、黒いウサギさん。二本足で歩く緑色の猫さん。もこもこしてて可愛い羊さん。色白でカッコイイイケメンの人。あと……」
「もうそこまででいいよ」
やっぱりあのイビルホーンラビットは亜炉麻の魔物か。
亜炉麻は恐らくレベル150以上の元探索者だ。
専業探索者としてやっていけるだけの実力があるのは間違いない。
「亜炉麻さん、魔物たちの餌代が大変じゃないですか?」
「えっとそれは……」
亜炉麻は口籠る。
浪費癖を認めたも同然だ。
魔物に過剰な愛情を注ぎ込んだ挙句、貧困に陥ってしまう。
そんな才能がない魔物使いの典型だったようだ。
「ママをいじめないで!」
護愛が俺を止めようとする。
親子関係は良好なようで何よりだ。
「そのつもりはないから安心しろ」
そもそも法律的には俺の方が危うい立場なのだ。
下手に亜炉麻を追い詰めたら、俺の方こそ社会的に抹殺されてしまう。
「亜炉麻さん」
今度は俺から亜炉麻に顔を近づけ、その身体を抱きしめた。
「えっ、フェルザーくん?」
亜炉麻が女として見られたいのは明らかだ。
だったらアルファオスを演じて、積極的に押していく以外にあり得ない。
「俺はこれからも護愛を連れ回す。その代わり、稼いだ額の一部をあなたにも還元すると約束しよう」
肝心なのはお金を出さないことじゃない。
意思決定の主導権を自分で握ることだ。
受け身の弱々しい男は搾取されるだけだからな。
「い、いいの?」
「ああ、母娘丼を楽しませてもらう条件付きでな」
「受け入れるに決まってるじゃない! 私も楽しみにしておくね」
護愛の意思確認はなしかよ。
関係は良好みたいだから大丈夫だろうけど、何かと問題の多い母親だな。
とはいえ、俺としては理想的な展開を描けたわけだ。
たっぷり楽しませてもらうに限る。
今日は探索を終えたら、帰りにゴムを買っておこう。
うっかりこの浪費家を孕ませてしまったら、収入の安定した定職に就けと言われてしまうからな。
自衛は大事だよ。




