第6話:一緒に帰るのは途中まで
俺。
護愛。
スケルトン×2
ゴースト×2
リビングソード×2
ガーゴイル×1
現在これだけの大所帯で動いている。
きちんと魔物の選別を行っているのにこのザマだ。
無差別に従えた挙句、切り捨てられない魔物使いならどうなってしまうのか?
想像するだけでも恐ろしい。
「仲間がたくさん増えましたね」
「皮肉か?」
「何でそうなるんですか! フェルザーさんは捻くれ過ぎですよ!」
現実主義と言ってくれ。
「でも可愛い魔物も仲間にほしいです」
「極力避けたい」
切り捨てるタイミングで護愛が泣きそうだからな。
とはいえ、いずれはそういった魔物を従える日がくるだろう。
治癒魔法を幅広くこなせるヒーリングキャット。
敵を眠りへと導くネイムレスシープ。
このあたりの魔物は可愛らしい外見でありながら貢献度を重視する魔物使いにも重宝される。
俺もそのうち従えるつもりでいる。
もっとも、この宝塚ダンジョンで見掛けたという報告はない。
当分は縁がないはずだ。
ダンジョン6階。
「このフロアでは何か注意点がありますか?」
護愛からの質問が飛んできた。
探索前に予習を心掛けるとは良い傾向だ。
「このフロアにはネズミの魔物たちが出現する。大した強さじゃないが、噛まれると危険だ」
ネズミの魔物は二種類出現する。
ジャイアントラット、ゾンビジャイアントラットだ。
無駄に名前が長いからいちいち正式名称で呼びたくない。
「矛盾してません?」
「いや、してないよ。弱いのに眠らせてくる魔物とか、ゲームでも見るだろ?」
ネズミどもの与えてくる状態異常は病気だけどな。
「ゲームのことはよく分からないです。私のうちは貧乏だから……」
何で分からないんだよ!
最新のゲーム機や、課金コンテンツはともかく、ゲームはコスパの良いエンタメだろ。
貧乏人の味方だろ!
「あー、はいはい。でも、ここで寝ていたら危ないことは分かるよな?」
よくよく考えたら、ゲーム知識ゼロでも分かる話だ。
「あ、当たり前じゃないですか!」
「じゃあ眠らせてくる弱い魔物は?」
「眠らせてくる? 魔物がつまらない授業でもするんですか?」
「どうしてそうなるんだよ!」
眠らせてくる魔物がピンとこないとはな……
「とりあえず魔物の中には状態異常を付与してくるやつがいるんだよ」
「へっ?」
状態異常って言葉も上手く伝わらないのか。
とりあえず話の腰を折られても面倒だから、一旦最後まで聞いてもらおう。
「で、このフロアのネズミどもに噛まれると感染症を引き起こすんだ」
「い、医療費はどうするんですか?」
お金よりも先に感染症の心配をしろよ。
「ダンジョン由来の毒や病気は医療費ゼロで済む。治癒師や錬金術師のスキルで治すものだからな」
魔物の毒や病気は優れた医療や薬も全く役に立たない。
その一方で軽い治癒魔法や、錬金術で作った適当な薬で治ることも珍しくない。
「じゃあ、治癒師のスタイルに切り替えます!」
ネズミどもの感染症を治療するなら、治癒師のスタイルレベルをちょっと上げるだけでいい。
だが、あまり勧めたくない選択だ。
衝動的にスタイルを切り替えていては、何もかもが中途半端になる。
しかも護愛は5階への対策でも、戦士になると言っていた。
全てが中途半端になる悪いお手本のような人間だ。
あまりにも衝動的過ぎる。
「スタイルをポンポン切り替えようとするな。全てが中途半端になる」
「で、でもフェルザーさんだって、魔法使いのスタイルで取得したスキルが役立ってるじゃないですか!」
「それは否定しない」
「それに治癒師で覚えられるスキルは、他のスタイルでも活用できるんですよね?」
「全て、ではないけどな」
「じゃあいいじゃないですか」
とはいえ、今回の理屈は筋が通っている。
やらせてみてもいいか。
「じゃあスタイルレベル10までな」
治癒師のスタイルレベルが10まで上がれば、大半の状態異常には対応できる。
効き目はうっすらとしかないが、魔物側もスペック相応の状態異常しか与えてこない。
つまり雑魚が相手なら、スタイルレベル10しかない治癒師でも十分なわけだ。
「分かりました!」
作戦会議を終えた俺たちは二体のスケルトンを先頭に6階の探索を開始した。
敵のスケルトンには護愛がボウンで物理的に処理。
敵のガーゴイル相手には5階と同様、ゴーストに奇襲の指示をした。
「フェルザーさん! 向こうからすごい勢いで何かが突っ込んできます! もしかしてイノシシですか?」
魔物たちに指示している最中、護愛がこちらへ向かってくる魔物の気配に気づいた。
「ジャイアントラットだよ。慌てなくていい」
物凄い勢いで突進してくるジャイアントラットはよくイノシシに例えられる。
ただ、ダンジョン特有の物理法則が働くため、脆弱なジャイアントラットの突進に巻き込まれても大したダメージは負わない。
その強さは1階にいたゴブリンに毛が生えた程度だ。
はっきり言って3階にいたリビングアーマーのほうがよっぽど強い。
「ネズミどもの処理はリビングソードに任せる!」
リビングソードは俺の指示に従い、突進してくるジャイアントラットに狙いを定めた。
そして、近くを通過するタイミングで空中から刃の身体を振り下ろし、ジャイアントラットを一刀両断した。
「えっ……」
護愛の表情が凍り付く。
ジャイアントラットが真っ二つにされた瞬間を目の当たりにしたからだろう。
「わ、私、あんな怖い魔物と……」
今更リビングソードの恐ろしさを実感したのか。
さすがに遅すぎる。
「どこぞの誰かさんは戦士にスタイルチェンジして、私がリビングソードの攻撃を引き受けますと言ってたよなー」
「うっ……」
迂闊な発言をしたことはしっかり自覚してもらおう。
俺の支払った教育コストを無駄にされたくないからな。
あっさりと死んでもらっては困る。
「今後は頭の悪い発言をしないよう、明日以降はお前もネットで予習してこい」
「よ、予習……」
予習って言葉を聞いただけで嫌がるなよ。
絶対学校の教育が原因だろ。
体育の授業が原因で運動嫌いを発症した大人も多いし、トラウマを植え付ける指導は法律で禁止すべきじゃないか?
「予習は俺と対等に意見交換するためのものだ。どれだけ頑張っても児童生徒でしかない学校とは目的が違う」
こう言っておいたほうがモチベーションの向上に繋がるだろう。
「た、対等に意見交換って、私には絶対無理です!」
「初めは誰だって無理だよ」
ダンジョンの常識すら知らない護愛はその認識でいい。
いきなり対等な意見交換できると思われても困るからな。
「まあ、危険な目に遭いたくないとか、バカにされたくないとか、予習の目的は何でもいいよ」
対等な関係を意識させるのは、そもそも護愛の願望と噛み合っていなかった。
これは俺のミスだ。
「予習する理由……って、あれ! 放っておいていいんですか!?」
慌てる護愛の視界の先にいたのはゾンビジャイアントラットだ。
ゾンビジャイアントラットは素早いジャイアントラットと、体力豊富なゾンビ、それぞれの特性を掛け合わせたような魔物だ。
ただ、素早さはジャイアントラットに大きく劣るし、体力はゾンビほど高くはない。
足して2で割った存在と表現すべきだろうか?
なお、このゾンビジャイアントラットはすでに俺のリビングソードによって倒されかけていた。
「ああ、そうだな。経験値稼ぎのためにエアガンで一発撃っておけ」
「そ、それだけ?」
「それ以上言うことないし」
まさか俺が気づいてないと思ったのか?
キィキィ煩いんだから、さすがに戦っているのは気づくよ。
パァーン!
護愛の発砲したエアガンはゾンビジャイアントラットに直撃。
それから程なくしてゾンビジャイアントラットの身体は崩れ落ちた。
「倒せましたよ!」
いちいち報告しなくていいよ。
そもそも倒したのはリビングソードであってお前じゃない。
「ところで護愛、家の門限は何時だ?」
門限を破ったことがきっかけで、ダンジョン探索していることが家族に知られるケースは珍しくない。
我が子のダンジョン探索が発覚した家庭では、その大半がやめるよう説得、強制しているというデータもある。
※政府の公開したアンケートデータ参照。
きっと護愛の両親だって同様の判断を下すはずだ。
その未来を回避するためにも門限の情報は把握しておきたい。
「決められてないです」
「護愛の親は放任主義者なのか?」
「いえ、忙しいだけです」
……忙しくても、門限は決めると思うよ。
とりあえず決められていないなら、一般的な家庭に合わせて18時を目安にしておくべきか。
「今日はそろそろ探索を終えるんですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「分かりました」
7階は俺自身も初挑戦だ。
すでにMPの危うい状態で挑みたくない。
「よし、脱出するぞ」
6階の魔物を粗方倒し回った俺たちは、護愛と共に2階まで引き返した。
「魔物どもに報酬を与えるから、護愛は先に帰れ」
「フェルザーさんも魔物を労うんですね」
「当たり前だ」
まっ、先に帰ってもらうための嘘だけどな。
護愛はまだ小学生だ。
見知らぬ誰かが俺と一緒に出てくるところを目撃したら、どんな邪推をするか分かったものじゃない。
過保護な部外者の正義感は中途半端な魔物よりもずっと厄介だからな。




