第4話:お前の気持ちは分からない
俺は護愛の気持ちがよく分からない。
装備を作らせてくださいと懇願してきたのに、リビングアーマーを一掃したら「やっぱいいです」と言って素材を拾うことすらしなかった。
もう少し一貫性のある言動を心掛けてほしいものだ。
俺はリビングアーマーの残骸を漁る。
リビングアーマーの破片には全く興味ないが、こいつは高い確率で魔石を所持している。
低ランクの魔物が持つ魔石は大した額にならないが、ダンジョンの外に出ればすぐに換金ができる。
拾っておいて損はない。
「これじゃ良くても250円だな」
収集時間は約5分間だ。
それで250円が拾えたと思えば悪くはない。
もっともこれまでの探索時間と換金の手間を込みで考えると、現時点で時給約75円だ。
護愛と折半するなら、さらに半分となる。
あまりにも終わっている。
もっと効率良く稼げるようになりたいものだ。
「これから二体ほどスケルトンを確保しておく。間違ってもエアガンで撃つなよ」
「はい……」
護愛の返事が暗い。
リビングアーマーを一掃してからずっと静かにしているけど、なんかあったっけ?
少なくとも壊れたリビングアーマーに抑うつを引き起こす能力はないんだけどな。
俺は護愛の様子を気にしながら、スケルトンの捕獲に乗り出した。
魔物によっては従えるのに特別な条件を求められるが、大半は倒してから消滅するまでにスキルを使えばいいだけだ。
弱らせてから確率で……みたいなゲームよりもずっと簡単だ。
「テイム!」
「テイム!」
スケルトンは弱くて数が多い。
優秀な特性はないし、進化してもそれは変わらない。
ただ、付いてくることはできるし、余計なことはしない。
アンデットでありながら異臭もしない。
適当に捕獲して使い捨てるには、ぴったりの魔物だ。
「あー、そうそう。先に注意しておくことがある」
5階へと続く階段の前で、俺は護愛に注意事項を告げることにした。
迂闊な行動をしがちな護愛には、事前に注意しておかなければ命が危ない。
「何ですか?」
感情の籠らない無機質な返事をする護愛。
本当にどうしたんだ?
「5階に出現するリビングソードは好戦的、かつ浮遊型で動きも早い。そして本来なら、敵を引きつけるスキルを持った戦士の力を借りる場面だ」
「じゃあ、私が戦士にスタイルチェンジします」
「いや、誰もそうしろとは言っていないだろう。何のためにスケルトンを従えたと思っている?」
そもそもスタイルレベル1じゃ引きつけるスキルもないし、今の護愛じゃリビングソードの攻撃に耐えられるはずがない。
もう少し考えてから発言してくれ。
「要はスケルトンを盾にして進む。だからでしゃばらないよう気を付けてくれ」
「はい」
スケルトンは斬撃に対する耐性が高く、リビングソードとは相性が良い。
とはいえ、スケルトンはガーゴイルを捕獲するまでの繋ぎだ。
経験値を与えるつもりはない。
当然、攻撃行動は禁止する方針だ。
ダンジョンの5階へ降りた俺は探索の危険を減らすため、まず二体のゴーストに指示を出した。
「ゴーストたちは通路上のガーゴイルに奇襲を仕掛けて始末しろ!」
石像に模したガーゴイルは狭い通路に多く存在し、周囲の仲間と一斉に動き出す特性がある。
魔物を引きつける戦士が不在のパーティには、少々厄介な特性と言える。
もっともそれは人間だけで構成されたパーティの話だ。
オブジェクト気取りのガーゴイルは、その多くが壁を背に虎視眈々と獲物を狙っている。
だからこそ壁をすり抜けられるゴーストにとっては格好の獲物だ。
「スケルトンは二体同時に行動し、リビングソードを引き連れて戻ってこい。攻撃行動は許可しない!」
指示を受けたスケルトンが動き出す。
その間、しばらく護愛と二人で魔物たちの動きを待つことにした。
「……」
護愛の表情は依然として暗い。
別に気遣うつもりはないが、原因だけは把握しておくべきだろう。
「お前、さっきからどうしたんだ?」
「私、いつになったら役に立てるの?」
「さぁ?」
生産スタイルを任せているんだ。
装備を欲しくなった時に決まっている。
ただ、その時がいつになるかは分からない。
「フェルザーさんっていつも効率効率って言いますよね?」
「だからどうした?」
「私に経験値を吸わせるのは非効率じゃないんですか?」
「お前が稼げるようになりたいって言いだしたんだろ!」
俺の矛盾を指摘する前に自分の矛盾に気づけよ。
「だ、だって……」
そもそも人的投資は成長した後のリターンに期待するものだ。
直近の効率を軸に考えるものではない。
「というより、護愛は俺に何を求めているんだ?」
「……」
「えっ、何で黙るの?」
「もっと役に立ちたいんです」
絶対に正しく言語化できていないだろ。
純度100%の本心だったら、こんなありきたりな要望を伝えるのに間を置かない。
「それなのにフェルザーさんは何も任せてくれないじゃないですか!」
「現状任せられることがないじゃん」
あるとしたら性処理係だけだよ。
そう扱われるのがお望みなら、好き放題身体を触らせてもらうよ?
「うっ……」
「下手に任せると効率が落ちるんだ。今は学びとレベル上げに専念しろ」
「……」
「生まれたばかりの子供が仕事したいと言っても、誰も任せないだろ? 同じことだよ」
「それは……」
思えば護愛はずっとやる気が空回りしていた。
弱い癖に一人で戦おうとする。
守る力がないのに庇護欲が強い。
まるで自分の身の丈が分かっていない。
貢献意欲が高いのは結構だが、危険を顧みない行動は迷惑でしかない。
俺は時間というコストを支払って教育しているんだ。
あっさりと死なれたら、支払ってきたコストが無駄になる。
本当に役立ちたいのなら、余計なことをせずレベル上げに専念してくれ。
「私を育てる価値はまだありますか?」
「見限らないうちはあると思っていい」
投資価値がないと思ったら、さっさと見限るよ。
その辺は魔物への対応を見ていたら分かるだろ。
「そもそもお前、不登校児だろ?」
「!?」
護愛の動揺する様子を見れば、図星なのは明らかだ。
「だ、だからどうしたんですか?」
「ダンジョン探索に多くの時間を費やせるんだ。普通の学生や社会人よりはずっと期待できる」
学校に通う時間。
友人と遊ぶ時間。
部活動に励む時間。
塾や習い事に通う時間。
不登校児ならこれら全ての時間をダンジョン探索に費やせる。
つまり毎日長時間、それも長期間にわたっての協力が期待できる。
人間性に致命的な欠陥があるわけでもない。
学習性無力感に陥っていることもない。
青臭い問題はあるが、十分期待できる人材だ。
「あ、ありがとうございます」
探索者仲間として迎え入れるなら不登校児のほうが好都合と思っただけだ。
感謝されること言ったか?
やっぱり護愛の気持ちはよく分からないよ。




