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効率厨の魔物運用論 ~人も魔物もどう扱うかは投資価値で判断する~  作者: ファイアス
第1章:幼き探索者見習いに時間を投資する

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第3話:すれ違う想い

「骨は拾えるか?」


「わ、わん……」


 護愛は四つん這いになり、恐る恐る骨に顔を近づける。


「いや、普通に拾えるかって聞いたんだよ」


 犬らしく咥えてみろなんて一言も言っていない。


「えっ?」


「スケルトンの骨を触ることに抵抗があると思ったんだよ」


「ふぇ、フェルザーさんが私に配慮してくれている!? ま、まさか魔法を乱射したせいで脳に悪影響が……」


「失礼なやつだな」


 スケルトンの骨なんて大した価値がないんだ。

 わざわざ苦手意識を克服してまで触れてもらう必要がない。


「で、骨を拾うのは平気か?」


「はい」


「ゾンビの纏っていた布切れは?」


「むむむ無理です! 犬の糞を素手で触るよりも無理です!」


 反応の差を比較すれば、スケルトンの骨には本当に抵抗がないのは明らかだ。

 分かりやすくてよろしい。


「じゃあ何本か拾っておけ。木の枝よりは良い武器になる」


「幾つも拾う意味はあるんですか?」


「お前が加工して武器や防具にするんだよ」


 スケルトンの骨は加工しやすいので、鍛冶の練習には打ってつけだ。


「えーっと、どうやって?」


「鍛冶スキルを使えよ」


 砥石、ハンマー、溶鉱炉といった鍛冶作業に必要な道具や設備はスキルで一時的に生み出せる。

 そのため、準備するものは何もいらない。

 加工できるものはダンジョンで発生したものに限定される。

 したがって、外から持ち込んだ金属を加工することはできない。

 探索者自身も例外ではなく、スキルで生み出した溶鉱炉には飛び込んでも火傷すら負わない。

 護愛のような子供だろうと安全に作業できるわけだ。


 ちなみに魔物はダンジョンで発生した存在であるため、もちろん溶鉱炉の熱に影響される。

 従えた魔物でも例外ではないため、魔物使いと鍛冶師はトラブルになりやすいことで知られている。


「やってみます」


 スキルで鍛冶設備を生み出した護愛は、スケルトンの骨を溶鉱炉に投げ入れて加工していく。


「あっ、スライムの粘液を拾ってきてもいいですか?」


「別に構わない」


 護愛は骨同士を繋ぎ合わせる接着剤として、スライムの粘液が使えると思ったのだろう。

 発想は悪くないが、スライムの粘液は熱に弱い。

 溶鉱炉に突っ込んだら、すぐに溶けてしまうのは明らかだ。

 とはいえ、何でも事前に教えてしまうのは良くない。

 たまには失敗の体験を経て学んでもらったほうが良い。


「ならその間に俺は4階のゴーストを一掃しておく。作り終えたらそのまま4階まで来い」


「分かりました」


 さすがに今度はゴーストの処理を先に終えられるはずだ。

 慌てず着実に仕留めていこう。


 ◆◆


 ダンジョンの2階へ戻ってきた護愛は早速スライムの粘液を確保した。

 骨同士を繋ぎ合わせる接着剤として粘液を挟み、溶鉱炉に入れ込む。

 これできちんとくっつくだろうと考えていた。


「そ、そんなぁ……」


 しかし、スライムの粘液は溶鉱炉に入れるとすぐに溶けてしまった。


 そこで護愛は次のアイディアを閃いた。

 先に骨を棒状に加工して、後から粘液で繋ぎ合わせればいい。

 骨の先端を凸状、後端を凹状にして、ぴたりとはまるように形作る。

 そして最後にスライムの粘液を流し込んで、しばらく時間を置いたら完成だ。

 構想を練った護愛はすぐさま作業に取り掛かった。

 それから約30分。


「できた!」


 ついに護愛は一本の武器を作り上げた。

 護愛は出来上がった骨の棒を振り回し、魔物を倒すシミュレーションをする。

 木の枝よりずっと使いやすかった。

 すぐにでも試したかった。


 好奇心を抑えられない護愛は3階に残っていた魔物──リビングアーマーに攻撃を仕掛ける。

 コンっコンっ!

 金属の身体を持つリビングアーマーにはまるで攻撃が通じない。

 ガシャッガシャッ!

 護愛の攻撃を受けたリビングアーマーは動き出す。

 そして、身体を捻るようにして剣を振り回した。


「いやーーーっ!」


 ワンピースの一部が裂かれ、左肩がはだける。

 幸い傷は負わなかったが、倒せる魔物ではないとすぐに悟った。


「まずいまずいまずい!」


 身の危険を感じた護愛は慌ててその場から走り去る。

 リビングアーマーの動きは決して速くないが、どこまでも護愛を的確に追ってきた。

 行き止まりに道を塞がれたらおしまいだ。

 でも護愛は逃げられる確信があった。

 ダンジョンの魔物はフロアを移動すれば追ってこない。

 だから4階へと続く階段を目指して、ひたすら走り続けた。


「ふぇ、フェルザーさーん……」


 4階でフェルザーの姿を見つけると、護愛は勢いよく抱き着いた。

 逃げていたときの恐怖心が一気に和らいでいく。

 フェルザーの近くにいればもう大丈夫。

 そんな安心感があった。


「お前、俺のいないところでリビングアーマーに攻撃を仕掛けただろ?」


「な、何で分かったんですか?」


「その服の裂け方は明らかに剣で斬られた跡だ。リビングアーマーの仕業に決まっている」


 フェルザーは全部お見通しだった。

 リビングアーマーに攻撃を仕掛けたことはもちろん、作った武器を試したい衝動に駆られたことも。


「まずは冷静に考えろ。全身金属のリビングアーマーに生半可な物理攻撃が通るわけないだろ!」


 フェルザーによればリビングアーマーは中級探索者ですら魔法で処理するらしい。

 護愛のような駆け出し、ましてや生産スタイルで探索する人間が取るべき対応ではなかったのだ。


「それで武器のほうはどうなった?」


「これです!」


 護愛は骨の棒を自慢げにかざす。

 失態を犯した護愛だったが、この武器には自信があった。


「スケルトンの骨で作った棒、名付けてボウンです。どうですか?」


「上手く作れているじゃないか」


「!」


 いつもなら容赦なく罵るフェルザーが褒めてくれた。

 護愛はそれが嬉しかった。


「使いますか?」


「いや、それはお前が使え。というか、俺が依頼するときは仕事として発注する」


「……」


 何も酷いことは言われていない。

 それどころか仕事を依頼するかもしれないと言ってくれた。

 なのにすごく寂しいと感じた。


「ああ、そうそう。リビングアーマーの破片も鍛冶師にとっては有用な素材だ」


「ならリビングアーマーの素材でフェルザーさんのために何か作ります。いえ、作らせてください」


 役立ちたい。

 必要とされたい。

 与える側になりたい。

 そう願って、護愛は頭を下げた。

 魔乃 護愛という人間の価値を認めてほしかった。


「作るのは勝手だが、今後の生産作業は俺のいないところでやってくれ」


「待ってる時間が暇だから……ですか?」


「そういうことだ。それにいちいち低ランクの魔物素材で装備を作るくらいなら、その時間をレベル上げに費やしたほうが効率的だ」


「……」


 合理的で無機質な返答。

 お願いは聞いてくれたものの、何も汲み取ってくれない。

 すごく悲しかった。


「とりあえず片づけるぞ。お前はエアガンで1体につき、一回だけ攻撃しろ。後は俺が魔法で処理する」


「分かりました……」


 護愛は叫びたい気持ちを抑えながら、言われた通りにエアガンを発射する。

 ガシャガシャッ!

 リビングアーマーは動き出す。


「ファイアボール!」

「ファイアボール!」

「ファイアボール!」


 全部で8体いたリビングアーマーはフェルザーの魔法によって瞬く間に倒された。

 倒れたリビングアーマーの残骸は素材の破片だけを残して消えていく。

 散らばった破片に手を伸ばす護愛。

 その手は震えていた。


「あの……やっぱいいです」


 護愛は何も拾うことなく背を向けた。

 瞳に涙を浮かべながら。



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