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効率厨の魔物運用論 ~人も魔物もどう扱うかは投資価値で判断する~  作者: ファイアス
第1章:幼き探索者見習いに時間を投資する

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第15話:ボス部屋のバグ?

 ダンジョン10階。

 ボスフロアだ。


 ここのボスはゴーレム。

 HP、攻撃力、防御力はかなりのものとされているが、動きはめちゃくちゃとろい。

 攻撃方法は単純な物理攻撃のみ。

 複数のサイトで似たような内容が記されており、ダンジョンインフルエンサーも同様の発信をしている。

 デマを疑う理由はない。

 各サイトで発信されている注意点は「MP残量」の一言。

 距離を取って魔法を撃ち続ければノーダメージで倒せるからだろう。


 俺の予定している攻略方法は極めてシンプルだ。

 ゴーストに攻撃指示を出す。

 たったこれだけだ。

 何せゴーストは物理攻撃が通らない。

 だから指示だけ出したら、あとは高みの見物をしていればいい。


「ここがボス部屋だな」


 階段を降りてから真っ直ぐに約20歩。

 正面には壁。

 左には大部屋が広がっていた。

 この通路と大部屋を繋ぐ間には、ちょうど扉を一つ配置できるスペースがある。

 部屋に入りボスが現れたとき、ここに開けられない扉が出現するのだろう。


 ボス部屋のギミックはシンプル。

 ボスを倒せば扉は開く。

 倒せなければそのまま殺される。

 ただそれだけだ。

 まあ、不安になることはない。

 何せ相手はゴーレムなのだから。


 俺はボス部屋に足を踏み入れる。

 部屋の中央に描かれた大きな魔法陣。

 いかにも「ここにボスが湧きます」といった感じだ。


 ボスの出現を待つこと数分。

 部屋と通路を繋ぐ扉が閉ざされ、部屋の中央に描かれた魔法陣が土色に輝き出す。

 やがてその魔法陣の地面下から這い出るようにして岩石の巨人が姿を現した。

 このフロアのボス、ゴーレムだ。

 全長6メートルにも及ぶゴーレムは、その巨体ゆえに攻撃範囲も広い。

 ただ、それ以上にボス部屋は広い。

 プロ野球の試合ができるくらい広い。

 つまり簡単に距離を取れる。


「ゴースト、お前たちだけでゴーレムを倒せ!」


 2体のゴーストは颯爽とゴーレムの元へ向かう。

 ゴーストを視認したゴーレムは太い腕をぶんぶんと振り回すが、その行動は何の意味もなさない。

 何せゴーストは霊体だ。

 攻撃を当てることすら叶わない。

 一方のゴーストたちはゴーレムの周囲をちょこまかと動きながら闇魔法を何度も放つ。

 ゴーレム目線で考えると、鬱陶しい蚊や蝿のように映るだろう。

 しかもちくちくと攻撃を繰り返すのだ。

 ダメージよりストレスで死ぬんじゃないか?


 1分。

 3分。

 5分。

 まだ戦いは終わらない。


「暇すぎる」


 暇つぶしにスマホでゴーレムを撮影したはいいものの、ダンジョン内では通信機能が使えない。

 SNSに上げることもできないわけだ。


 情報を調べる。

 ゲームをする。

 動画を見る。

 漫画を読む。

 小説を読む。

 いずれもオンライン環境ありきなので、本当にやることがない。

 護愛のインゴット生産を手伝ってやりたいくらいだ。


 というか、何でゴーレムはゴーストに攻撃を続けているんだ?

 物理攻撃無効を理解できないのか?

 頭が悪いにも程がある。

 こいつに組み込まれたコアはどんだけポンコツなんだよ。


 戦闘開始から約15分。

 ようやくゴーレムを倒すことができた。

 崩れ落ちた岩石の塊の近くで、異なる鉱物がカランッと音を立てて転がった。

 探索者の主な収入源である魔石だ。

 ボスドロップだけあって比較的サイズは大きい。

 250円くらいの価値は期待できそうだ。

 俺は魔石を拾い上げ、護愛が作業を続ける9階へ戻ろうとした。


「……」


 ボスを倒したのに、なぜか扉は閉ざされたままだ。

 念のため11階へ続く扉も調べたが、こちらも開く様子はない。

 ダンジョンの機能が故障したのか?

 こんなトラブルは聞いたことがない。


 不思議に思った俺は、しばらくボス部屋の様子を調べることにした。

 何か仕掛けがあるようには見えない。

 一体何が起こったのか?

 その疑問は解消されないまま、更なる異変に直面した。

 部屋の中央にある魔法陣が青く輝いたのだ。

 ゴーレムが出現したときは土色に輝いていた。

 ゴーレムとは違う、何か別の魔物が現れる予兆だ。


「はっ?」


 魔法陣から出てきたのは想定外の魔物だった。

 胸と局部だけを覆う布地をまとった女性の姿。

 全身が水に覆われた──いや、肉体が水そのものと表現すべきかもしれない。

 身体は宙を浮いており、足元は常に水が渦巻いている。

 そう、この魔物はウンディーネだ。


「なんでウンディーネがここに出てくるんだよ!」


 10階のボス部屋にウンディーネが現れるなんて話は聞いたことがない。

 そもそもこの宝塚ダンジョンにいないはずの魔物だ。

 全く、とんでもないバグだよ。


「スケルトンランサーは正面から突撃、リビングソードAも攻撃を仕掛けろ!」


 俺はウンディーネを全然知らない。

 種族は精霊タイプ。

 攻撃属性は水系統が中心。

 確信できる情報はこれだけだ。


 精霊タイプだから斬撃に弱い。

 全身が水だから氷、雷、毒に弱い。

 ここまでは予測できる。


 ただ、肝心のステータスが全く分からない。

 攻撃範囲はどのくらいか?

 どれだけ素早く動けるのか?

 これらが全く分からない。

 つまり一撃で殺される可能性を排除しきれない。


 だからスケルトンランサーに突撃させた。

 やられてもいい魔物で威力偵察するため。


 だからリビングソードAに戦わせた。

 回避能力に優れた魔物への対応力を確かめるため。


 カタカタカタ!

 スケルトンランサーが丸腰でウンディーネに近づく。

 対するウンディーネは手先を槍のように変形させて、スケルトンランサーに応戦した。

 水状の槍は頭部を突き刺したが、スケルトンランサーはピンピンしている。

 物理攻撃の威力は大したことないようだ。


 だが、驚くべきはその対応力だった。

 スケルトンランサーの突撃から遅れること数秒。

 リビングソードAは側面から強襲するも、ウンディーネは瞬時に水の盾を生成。

 ダメージを軽減したのだ。

 その直後、口からレーザー状の水を発射。

 リビングソードAは回避することができず、そのまま床へと転がった。


 スケルトンランサーへの対応とは違い過ぎる。

 リビングソードAに対してだけは明らかに本気の対応だ。

 つまり相手の危険性を正確に把握した上で、最適解となる行動を瞬時に導き出したのだ。

 ゴーレムとは頭の出来が違い過ぎる。


「あ、これは無理だ」


 絶対に勝てない……とまでは言わない。

 ただ、やり合えば命懸けの戦いになる。

 従えている魔物もほぼ全滅すること確定だ。

 とてもじゃないが、真正面からやり合おうとは思わない。

 ここは撤退するのが賢明な判断だ。


「ガーゴイルは俺を乗せて9階に引き返せ。スケルトンランサーを除く残りの魔物たちも付いてこい」


 出入口の扉が閉ざされたボス部屋だが、抜け出すことは難しくない。

 ボス部屋と通路を隔てる壁は3メートルほどしかなく、天井の高さは10メートル以上ある。

 飛行、浮遊タイプの魔物なら簡単に出られるのだ。

 その魔物に運んでもらえば、俺自身も脱出できる。

 浮遊しているのはウンディーネも同じだが、野生の魔物はフロア移動できない。

 逃げるのはそこまで難しくない。

 それにスケルトンランサーはまだ倒されていない。

 逃げる間の時間稼ぎくらいしてくれるだろう。


 ちなみにボス部屋からの脱出は魔法使いのスタイルで覚えられるテレポート、錬金術師の作った道具でも可能だ。

 ボスが出現する前に部屋を駆け抜ければ、戦うことなく次のフロアへ進むこともできる。

 はっきり言って、ダンジョンギミックはガバガバだ。

 ほんと笑えるくらい。


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