第13話:自己責任で片づけられない
護愛と出会ってから5日目。
今日は変質者の作った水着を受け取る予定だ。
しかし、待ち合わせ場所であるダンジョン1階に護愛の姿はない。
水着を着るのが怖くなったか?
それとも俺が渡した1万円で遊び回り、その疲れで動けなくなっているのか?
はたまた亜炉麻に振り回されているのか?
理由は何であれ、護愛がいないと困る。
あの変質者は自分の作った水着を護愛に着用するよう求めた。
つまり護愛がいなければ、取引条件を満たすことができない。
とはいえ、このまま待っているわけにはいかない。
アナログのやりとりしかしていない俺たちは、直接会う以外の連絡手段を持ち合わせていないのだ。
そのため、護愛が来ていないことを告げるためにも一人で先へ進むことにした。
魔物の数がやたらと少ない。
1階と2階では一切魔物と遭遇しなかった。
3階でも数体のゾンビを見掛けただけだ。
4階。
魔物の数が少ない原因に辿り着いた。
ガシャーンッ!
ガシャーンッ!
ガシャーンッ!
何かが割れる音。
金属が地面に落下する音。
誰かがリビングアーマーと戦っているのだろう。
「はっ?」
すでに倒された3体のリビングアーマー。
その中心に立っていたのは護愛だった。
彼女が倒したと見て間違いない。
「お前、何やってるんだ?」
「色々と試したくなっちゃったんです」
まーた、衝動に駆られて勝手な行動したのか。
いい加減にしてくれ。
出会ったばかりの頃なら、その迂闊さが原因で死んだとしても何も困らなかった。
せいぜい投資した時間を無駄にされたと腹を立てて終わりだ。
だが、今は亜炉麻の許可を得て連れ回している。
契約書を交わしたわけではないが、使用者責任が発生しているも同然だ。
死んでも知らんぷりというわけにはいかない。
「何で?」
「スマホで魔物の予習していたら、素材やスタイルの情報が目に入るじゃないですか。それで色々と調べていたら、もっと色々やってみたくなっちゃったんです」
スマホで予習させたのが裏目に出たのかよ。
毎度のことながら衝動に突き動かされすぎだ。
「俺が近くにいたら検証できなかったの?」
「効率悪いことなんで……」
要は俺の許可を得られないから、勝手な行動をしたわけだ。
反抗的な態度とも言える。
少しきつめの指導をしてやるか。
「だから俺のいないところで好き勝手やっていたんだな?」
「はい……」
「で、こうしてバレても軽い皮肉を言われて終わりと学習しちゃったんだ?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「弁解しなくていいよ。そう学習させてしまった俺にも非があるから」
俺は鞭を手に取る。
痛みを与えて学習させる方法は獣が相手でも通用する。
原始的な方法ながら、その効果は大いに期待できる。
「えっ……わ、私をテイムするんですか?」
「いや、ぶっ叩くだけだよ」
テイムで人間を従えるのは無理だから。
「ま、待って……」
パチーン!
パチーン!
パチーン!
「ひぃっ、やっ、いぎゃああっ!」
いい悲鳴だ。
これは効果を期待できる。
「感想はどう? 今後の対応に反映するからフィードバックして欲しいんだけど」
「うぅぅ……私、そんなに悪いことをしましたか……?」
泣いてもいいから、まずは質問に答えろよ。
……いや、やっぱ答えなくてもいいや。
瞳に浮かべた涙を見れば、わざわざ言語化されなくても分かる。
「ああ、その説明は今からきっちりしてやる」
俺は自身に生じている責任の問題を中心に護愛の自己判断が迷惑になることを伝えた。
「そ、そんなこと今まで教えてくれなかったじゃないですか!」
珍しく怒っているな。
責任の所在を教えなかったのは間違いない。
だが、3階より先は単独行動するなと伝えている。
さらに護愛は俺の目を欺く目的で単独行動をした。
情状酌量の余地はない。
「やるなと言ったことをやったのは事実だろ」
「はい……」
「今度からどうしてもやりたいことがあった場合、その目的とメリットを用紙にまとめて俺に伝えろ。その時はきちんと審査してやる」
「じゃあ今からまとめます」
「後にしろ。あの変質者から水着を受け取る時間が迫っているんだ。のんびりしていたら遅れてしまう」
正直、水着を着用する前で良かったよ。
防御力が26もあるらしいからな。
着用していたら、鞭で打たれる痛みで学びを得られなかったわけだ。
ほんと、ちょうどいいタイミングでやらかしてくれたよ。
◆◆
「えー、こんなこと知りたいわけじゃないのに!」
web検索の経験が浅い護愛は予習に手間取っていた。
調べるべきことは分かっている。
でもどうやって検索すればいいのか?
どのサイトの情報を拾えばいいのか?
分からないことだらけだった。
それでも試行錯誤を繰り返した末、納得のいく情報に辿り着いた。
そこまでは良かった。
webは知りたい情報だけをピンポイントに出してくれない。
知りたいのは魔物の危険性と対策だけだったのに、倒し方、落とす素材、テイム情報までがっつりと記されている。
数タップすれば、全く知らない魔物の情報だって出てくる。
素材、スタイル、装備、知らなかった情報が次々と目に飛び込んでくる。
調べれば調べるほど護愛は好奇心を刺激された。
色々なスタイルを体験したい。
様々な素材で生産してみたい。
すごい装備が欲しい。
でも律文はポンポンとスタイルを切り替えるのはやめろと言っていた。
全てが中途半端になると主張していた。
「先にダンジョンに行けば色々試せるよね」
律文が認めないなら、一人で勝手にやればいい。
それくらいは許されると思っていた。
調べものに没頭した翌日。
護愛がダンジョンに入ったのは決められた集合時間の2時間前だった。
まずは魔法使いのスタイルに切り替え、2階までの魔物はボウンで一掃。
スタイルレベルは4まで上がり、ファイアボールの魔法を習得。
物理攻撃が通らない魔物への対策も整った。
「ファイアボール!」
3階へ進んだ護愛は真っ先にリビングアーマーを狙った。
数日前は歯が立たなかった魔物。
あの時は殺されると思ったからこそ、絶対に倒したいと渇望していた。
ガシャーンッ!
リビングアーマーを仕留めることができた。
魔石も自分の手で拾うことができた。
護愛は自信が湧き上がる。
「ファイアボール!」
「ファイアボール!」
「ファイアボール!」
4階へと進んだ護愛は次々と魔物を撃破していく。
すごく気持ち良かった。
「お前、何やってるんだ?」
律文がやってきたのはそんなタイミングだった。
水を差された気分だ。
「色々と試したくなっちゃったんです」
でもこれだけの魔物を一人で倒したんだから、律文だって褒めてくれる。
護愛は内心期待していた。
パチーン!
パチーン!
パチーン!
「ひぃっ、やっ、いぎゃああっ!」
その期待は裏切られた。
それどころか今までにない罰を受けた。
腕、足、脇腹。
焼けるような痛みに襲われた。
呼吸ができなくなるかと思った。
「勝手なことをして死なれたら、その責任が俺に降りかかるんだよ」
そんな説明されていない。
「そ、そんなこと今まで教えてくれなかったじゃないですか!」
護愛は怒りに任せて抗議した。
「やるなと言ったことをやったのは事実だろ」
でもすぐに言い返せなくなった。
これからもずっと言い負かされると思った。
好奇心の芽を摘まれるんだと思った。
律文は学校の先生みたいに存在しない未来を歩ませようとしない。
クラスメイトのように"普通"の檻に閉じ込めようとはしない。
その点は信頼している。
ただ、何も分かってくれない。
分かろうともしない。
それが辛かった。
もっと褒めてほしい。
もっと役に立たせてほしい。
もっと可愛がってほしい。
もっと色々なことがしたい。
何も満たしてくれないのに、心を繋ぐリードが外れない。
期待してくれたから。
たったそれだけなのに……
「わんわん」
心の整理が付かない護愛は自嘲するように犬の鳴き声を真似した。
いっそ本物のリードを自分の首に付けようかと迷いながら。




