第二話 セラフィナ魔法教室
第2話!
広い原っぱに立った二人。
セラフィナは俺に変な形をした棒を渡す。先っぽになにか綺麗な銀色の宝石が埋め込まれている。
「いいですか、レオン。それは魔法の杖です。初心者用の杖ではありますが、やろうと思えばそれで上級魔法も扱えます。先ほど、あなたの実力を見させてもらいましたが、なかなかですね。基本4属性の初級をマスターしているのは素晴らしいです。少し中級も片足を突っ込んでいたのでコッチも教える手間が省けてよかったです。」
セラフィナは紙にペンで図を書く。
「これからの目標を教えておきましょう。一つの属性だけを集中的にやるのもいいですし、最終的にはそうするつもりです。ですが、手数が多いことは強みになります。全ての属性の魔法を最低中級まで覚えます。まずは覚えているのも覚えてないのも含めて、初級魔法を詠唱有りで全属性学び直し。その後、詠唱無しで全部マスター。そして、中級魔法も全部覚えましょう。その頃には得意な属性が分かっているはずです。その得意な属性の魔法の上級魔法、できれば伝説級魔法を覚えたら、旅に出ても死なないくらいの実力になるでしょう。」
セラフィナは紙に『初級→無詠唱→中級→上級(得意な属性)→☆応用!伝説級!』と書く。
「セラ先生、なんで無詠唱を覚えないといけないんだ?」
「『セラ先生』?なんだか、いい響きですね。気に入りました。えーっと、なんで無詠唱を覚えないといけないのか、という話でしたね。相手の不意をつけるからです。少し考えれば分かるでしょう。だから、最低限初級は無詠唱で出来るようになっておきたい。欲を言えば中級までは。」
「セラ先生は無詠唱、どこまでいけるんですか?」
「伝説級まで無詠唱でいけます。」
「えぇ?!簡単なのか?!」
「私にとっては。まぁ、才能ですかね。それと前世も魔法使いだったので、それくらい。」
セラフィナはどこか遠くを見つめるような目をしていた。
「では、授業を初めましょう。レオン、魔法の属性の数は何個ですか?」
「えーっと、6つ。『水』、『炎』、『氷』、『土』の基本4属性と『光』と『闇』の6つ。」
「そう、普通の本にはそう書いてあります。普通の本には、ね。」
セラフィナは自慢げに紙に今、俺が言った6つの属性を書いた。
「ですが、本当は違います。これを知っているのは私くらいなのでよく聞いておいてください。」
セラフィナはその6つの属性に線を引き、消す。そして下に9つの円を書く。
「魔法の属性は全部で9つです。『炎』『水』『生命』『電気』『空気』『光』『陰』『知能』。それから...『呪い』それぞれその魔法を作った大魔法使いがいて、今の魔法も半分ほどは彼らが発明した魔法です。私は前世、『陰』と『呪い』には会ったことがあります。どちらも、私の世界一大事な人を苦しめた、許せない存在...まぁ、そんなことはいいんです。レオン、この9つの中でどの魔法が今の6つの魔法に変わったか分かりますか?」
セラフィナはたしかに『陰』『呪い』という時だけ少し怒りがこもった顔になったが、『呪い』には同時にどこか悲しそうな、そんな印象も受けた。
「...『炎』、『水』、『光』はそのまんま...名前からして『陰』は『闇』になった。後は何が『氷』『土』になったか...」
「タイムアップです。では、答え合わせ。50点、といったところでしょうか。『氷』は『水』と『空気』が合わさったものです。『土』は『生命』と『空気』から派生しました。あと訂正する場所は『電気』は『光』に融合されたってことくらいですかね。それから、『生物』の魔法の一部は治癒魔法として残っています。それからそれから、『知能』は今、この世界で言うところの錬金術や召喚魔法がそれにあたります。まぁ、これらを使える人間はほとんどいないので。これらを知っておくことにはちゃんと意味があります。魔法を使う時のイメージがかわり、魔法を使いやすくなります。例えば、『氷』を使いたい時。氷魔法を一からやろうとするのではなく、頭の中で『水』魔法と『空気』魔法を合わせるんです。『氷』魔法をイメージして発動させるよりそっちのほうが簡単に出来るでしょう。」
セラフィナは分かりやすく図にまとめて教えてくれた。たまににっこりセラフィナイラストがある図だ。
「セラ先生、『呪い』はどこにいったのですか?」
唯一、説明されていない魔法。セラフィナの体が少し固まる。
「...いいですか、『呪い』は他の魔法と全然違います。なんというか、根本的に。『呪い』が使えるようになったらそれは人間でなくなったことを意味すると思ってください。『呪い』の魔法が発動できるようになるには激しい恨みが必要です。恥ずかしい話、私は前世で闇に呑まれた時、使えました。その力でどれだけの人を苦しめてきたか。なにより私の最愛の人を泣かせました。後悔しています。あの人がそれに勝てるほどの実力でなければ私は今も闇に呑まれていたかも知れません。」
セラフィナは苦しそうだ。思い出すだけでも辛いのだろう。
「...話がそれましたね。『呪い』は他の魔法より遅れて出来た魔法です。その呪いは理不尽そのもの。人が恐れることを実現させるのです。たとえば、ナイフを怖がる人間は一定数います。なので『呪い』の魔法が使える人間はナイフを召喚してナイフの雨を降らせることが出来ます。他にも、『首吊り』って怖いでしょ?それでアイツは気づいたらコチラの首に縄が絡みついており、いきなり吊るされる、といった魔法を使ってきました。私たちがどれほど苦しめられたか。私たちの仲間がどれほど殺されたか。『呪い』の魔法はいわば『恐怖』の具現化。...後にも先にも私が知っているその『呪い』の魔法使いを超えるだけの『呪い』使いは現れないでしょう。」
セラフィナの顔には憎しみの表情が出ていた。だけど、それと同時に悲しい物を見たような、そんな顔もしていた。同情に近い、そんな顔だ。
「今では、『呪い』は禁術です。使ってはダメです。そもそも、今の私は使えませんから教えることも出来ませんけど。...今日の座学はココまで。そろそろ飽きてきたでしょう。じゃぁ、魔法の練習タイムです。」
セラフィナは立ち上がり、木に向かって自分の杖を構える。
「俺の杖よりデカくない?」
「この杖が私のお気に入りの杖なので。」
セラフィナは目をつむる。そして目を開け、無言で杖を振る。すると杖の先にあった巨大な木が燃え上がる。
「上級魔法です。」
それからセラフィナがもう一度杖を振ると今度は木の上に巨大な水球...それはそれは巨大で、旅客機ほどのサイズの水が出てくる。それがどんどん圧縮され、最後は一本の線になって木に向かって当たる。すると火が消える。かわりに木が粉々になっているが。
「これは伝説級魔法です。すごいでしょ。無詠唱でこんなこと出来るの、この世界だと本当に私しかいないのではないでしょうか。」
セラフィナは自慢げだ。あの木を破壊した責任は取るのだろうか。
「まぁ、これを詠唱有りでやるのが最終目標です。いまから初級をやりましょう。まずは『炎』から。『炎』の初級といえばこれ。今回は詠唱有りでやりますよ。ファイヤ!」
セラフィナがそう唱えると杖の先から炎が出てきて飛んでいった。
「では、レオン。やってみてください。」
セラフィナにもらった杖をレオンは構える。この魔法は使える。すでに覚えている。わざわざ詠唱しなくても出来る。
「...ファイヤ!」
セラフィナと同じように炎が出て飛んでいった。
「いい感じです!じゃぁ、無詠唱で。」
今度はセラフィナが無言で火の玉を飛ばした。
レオンは神経を手に収集させる。魔力を貯めるイメージ。目を瞑って、開ける。すると同じように火の玉が出てきて飛んでいった。
「そうですね、長いですね。わざわざ目をつむらなくても出来るようになりたいところです。それなりの剣士なら目を瞑った段階でこっちの思惑に気づいて距離を詰めてくるはずですから。近距離で私たちは剣士に勝てないでしょう。」
それから、セラフィナとの猛特訓が始まった。毎日、朝ごはんを食べて少し座学。そして実戦。昼ごはんを挟んで昼は自由時間。セラフィナ曰く、遊びに行ってもいいし自主練しても良いとのこと。その間セラフィナは家事の手伝いをする。
そんな感じで日々がすぎていった。
______________________________
その日も、セラフィナと一緒に俺は魔法の練習をしていた。俺は7歳。あれから2年が経ち、中級魔法はほとんどマスター。今は無詠唱で中級魔法を使う練習だ。セラフィナが教えるのが上手いのと、セラフィナが美少女だからこっちのやる気が出てくるのでかなり順調だ。
「良いですか、中級魔法の無詠唱は初級魔法の応用だと思ってください。中級魔法とつなげるのではなく、初級魔法の無詠唱とつなげるのです。そっちのほうが幾分簡単にできます。」
「ねぇ、アンタ達何をしているの?」
「セラ先生、分かりました。あっ!先生!出来た!」
「ねぇ、何してるの ?ってうわっ!火でた!すごいわね!アンタ達、魔法使い?」
「そうですそうです!レオン、褒めてあげます!ところでレオン、聞きたいことがあるのですが...」
「ねぇ、無視しないでよ。ねぇ。」
「奇遇だな、セラ先生。俺も聞きたいことがあって...」
「「この人、知り合い?」」
俺とセラ先生の言葉が重なる。ワンテンポおいて、同時にお互い首を振る。
「......あなた、誰ですか?」
さっきから魔法の練習中にやたら近くで騒いでいる少女。青髪で、背丈は9歳くらい?髪はそこそこ長く、肩にかかっている。
「やっと反応してくれた!ふふーん、私の名前はフィーナ・ルナール!ルナール家の娘よ!」
「レオン、ルナール家ってなんですか?」
「えっと、この村の近くに住んでいる貴族の家...だったはず。」
「そうよ!私のお父さんは偉いんだから!」
フィーナは自信満々に胸を張って言った。
「ねぇ、アンタ達が今使っていたのって魔法よね!それ、私に教えなさいよ!」
フィーナは眩しいばかりの笑顔でセラフィナとレオンの顔を見る。言い方こそ偉そうだが、目は純粋そのものだ。元気いっぱいでちょっとかわいい。
「...別にいいですが...」
「やったぁ!私の家、剣術は教えてくれるんだけど魔法は教えてくれないのよね。魔法、少し憧れていたのよ!」
フィーナは溢れんばかりの笑顔だ。こんな眩しい笑顔を見るのは何年ぶりだろうか。
「じゃぁ、レオンは自主練しておいてください。行き詰まったら言ってください。アドバイスしますから。」
______________________________
しばらくして、セラフィナがフィーナに初級魔法を教え始めた。
「......難しいわね!」
「そう簡単にできるものでは有りません。詠唱を一緒に唱えましょう。ファイヤ!」
「ファイヤ!......出ないじゃない!」
「いいですか?もっと指先に集中するんです。魔力をギュッと集めるイメージで。もう一度。ファイヤ!」
「ファイヤ!......」
フィーナの指先からほんの少し、小さな炎の塊が飛び出してきた。
「出来ましたよ!すごいです!」
「...しょぼいじゃない!アンタやあっちの子のほうが大きなのやってたじゃない!アレをやりたいわ!」
セラフィナは褒めるが、フィーナは満足していないようだ。
「あなたは剣士の家系なのでしょ?ならば、まずは初級です。確かにしょぼいかも知れませんが、剣術とコレを合わせるとかなりの武器になります。」
それでもセラフィナは優しく教える。
______________________________
数時間がたった。そろそろお昼だ。
「というわけで、今日は終わりです。お疲れ様でした。フィーナさんも、いい体験になりましたか?」
「まだまだ全然だわ!もっと派手な、どっかーん!ってやつが使えるようになりたいわ!」
フィーナは頬を膨らませながら言う。
「...だから、明日も教えなさい。それから明後日も、その先も、ずーっと、私にも魔法を教えなさい!」
フィーナはセラフィナの目を見て叫ぶ。正直、可愛い。
「分かりました。明日も同じ時間に来てください。いつもここでやっているので。」
セラフィナはにっこり笑いながら言った。魔法に興味を持ってくれた少女がいて、嬉しいのだろう。
「約束ね!約束だから!」
フィーナは大声でそう言いながら走っていった。
そんなわけで、このセラフィナ魔法教室に新しいメンバーが加わった。
______________________________
「うーん、この洞窟の奥にいるであろうケイヴドラゴン、やっぱり一人で攻略は不可能か?でもでも!危険生物だっていう誤解を解かないと!この本でどういうふうに扱ったら良いかも書きたいし。好物、弱点、怒らせない方法は絶対書きたい。悩みどころだな、セラ。」
黄緑色の髪をした10歳ほどの少年は洞窟の前で座り込んでいた。ペンギンのような鳥を撫でながらなにやら地図を見ている。
「まぁ、早く旅の目的は果たしたいしね。それにもっと世界中、いろんなところに行かないと。こんなところで悩んでたら駄目だよな。よし、セラ。行くぞ。」
「ガー!」
セラと呼ばれたペンギンと共に少年は洞窟の中に入っていった。
最後の緑色の髪の少年はいずれ出てきます。彼が何をしようとしているのかもいずれ。
さてさて、次回からいよいよ冒険者ギルドに入るかな?ってくらいです。




