表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/3

丑の刻参りしか使えません

リリーは宿屋のベッドで目を覚ました。


「いたっ……!」


起き上がろうとした瞬間、後頭部に鋭い痛みが走る。


そっと触れてみると、大きなたんこぶができていた。


「リリー、大丈夫?」


氷嚢を持ったランカが、慌ててベッドへ駆け寄ってきた。


リリーはぼんやりと部屋を見回す。


「ゴブリンは?」


「逃げていったよ。リリーは木に頭をぶつけて、ずっと気を失ってたの」


ランカが氷嚢を後頭部へ当ててくれる。


その直後、部屋の扉が開いた。


アルス、ガイル、マリアの三人が入ってくる。


三人の顔を見たリリーは、恥ずかしそうに俯いた。


アルスたちは、ベッドを囲むように立つ。


最初に口を開いたのはガイルだった。


「君は呪い師だったよな。実は俺たち、呪い師がどんな職業なのかよく分かってないんだ」


マリアも不思議そうに首を傾げる。


「後ろから仲間を支援する職業だと思ってたけど、いきなりゴブリンへ襲いかかったわよね?」


「あれは、いったい何をしようとしてたんだ?」


アルスも尋ねた。


三人から一斉に見つめられ、リリーは胸に抱いていた藁人形を握り締める。


「ゴブリンの毛を抜こうと思ったんです」


「毛を?」


アルスが眉をひそめた。


「はい。抜いた毛を、この藁人形の中へ入れます」


リリーは藁人形を持ち上げる。


「それから、丑の刻参りをして倒します」


マリアの表情がさらに険しくなった。


「丑の刻参り?」


「丑三つ時に、ご神木へ藁人形を打ちつけるんです」


リリーは真剣な顔で説明を続ける。


「夜中の二時を過ぎたら、五寸釘を使います」


部屋の中が静まり返った。


数秒後、アルスたちは一斉に吹き出した。


「夜中の二時まで待つのか?」


ガイルが腹を抱えて笑う。


「ゴブリン一匹を倒すために?」


マリアも目に涙を浮かべていた。


リリーは笑われた理由が分からず、藁人形を抱えたまま三人を見つめる。


「はい。それでゴブリンをやっつけます」


「それは面白いわね」


マリアは笑いをこらえながら尋ねた。


「ほかには、どんな攻撃スキルがあるの?」


「ないです」


リリーは真顔で答えた。


三人の笑い声がぴたりと止まる。


「……ない?」


「はい。レベルが上がっても、攻撃スキルは丑の刻参りだけです」


「呪いで敵の動きを止めたりは?」


ガイルが尋ねる。


「できません」


「弱らせたり、眠らせたりは?」


「できません」


マリアが続けて尋ねる。


「モンスターをカエルに変えたりとか?」


リリーは首を横に振った。


アルスは、念を押すように尋ねる。


「本当に、それしかできないのか?」


「はい!」


リリーは元気よく頷いた。


アルスは額へ手を当て、大きく息を吐く。


「なかなか、やばいやつが来ちまったな……」



数週間が過ぎた。


森の中へ、ランカの声が響く。


「ファイア! ファイア! ファイア!」


放たれた火球が次々とゴブリンを飲み込み、森に黒煙が立ち上る。


「本物だな」


切り株に腰掛けたアルスが感心したように呟く。


隣でガイルも腕を組んで頷いた。


「問題は、リリーか……」


二人の視線の先では、リリーが棍棒を握り、一匹のゴブリンと向き合っていた。


「えいっ!」


勢いよく振り下ろした棍棒は空を切る。


ゴブリンは軽々と身をかわし、腹へ拳を叩き込んだ。


「きゃっ!」


リリーは吹き飛ばされ、その場に倒れ込む。


ゴブリンは両手を上げて勝ち誇ったように叫んだ。


その瞬間――


「ファイア!」


十メートルほど離れた場所から放たれた火球が命中し、ゴブリンは炎に包まれた。


マリアが急いで駆け寄る。


「ヒール」


柔らかな光がリリーを包み、傷が少しずつ癒えていく。


「もう今日は限界よ……。これで何回目だと思ってるの」


疲れ切った表情でマリアは息を吐いた。


「ご、ごめんなさい……」


リリーは申し訳なさそうに俯く。


倒れた棍棒へ手を伸ばそうとしたとき、アルスが静かにそれを拾い上げた。


「リリー」


リリーは顔を上げる。


「お前には、戦闘メンバーから外れてもらう」


「……」


「何週間も見てきた。でも、このままじゃ命を落とす。俺は仲間を死なせたくない」


リリーは何も言えなかった。


ランカが慌てて前へ出る。


「アルスさん!」


ガイルが優しく口を開いた。


「安心しろ。ギルドには残れるよう俺たちから話してみる」


リリーは小さく頷いた。


「……ありがとうございます」


「戻ろう」


アルスの一声で、一行は城下町へ引き返した。



城下町へ戻ると、広場が騒然としていた。


人々が大きな檻を囲み、口々に歓声を上げている。


アルスたちも人混みをかき分けて前へ出た。


そこには、巨大なドラゴンが鎖で縛られ、檻の中へ閉じ込められていた。


体長十メートルはある翼竜だった。


「おいおい……どうしたんだ、こいつ」


アルスが目を丸くする。


近くにいた男が興奮気味に答えた。


「西の森で弱ってるところを軍が捕まえたんだ!」


ランカとリリーは檻の前まで駆け寄った。


ドラゴンは荒い息を繰り返し、虚ろな目で地面を見つめている。


「すごい……」


ランカは息をのむ。


アルスは腕を組みながら呟いた。


「これだけ大きければ、素材だけでも相当な値打ちになるな」


しばらく見物したあと、一行はギルドの宿へ戻った。



その夜。


すすり泣く声で、ランカは目を覚ました。


隣のベッドでは、布団をかぶったリリーが肩を震わせている。


「リリー……まだ泣いてるの?」


リリーは布団の中から小さな声を返した。


「ごめんね、ランカ。せっかく一緒に頑張ろうって誘ってくれたのに……」


ランカはリリーの手をそっと握る。


「泣かないで。ギルドには残れるんでしょ? またチャンスは来るよ」


リリーは涙を拭き、小さく頷いた。


その時だった。


**バリィィィン!!**


窓ガラスが震えるほどの爆音が町中へ響き渡る。


二人は飛び起き、窓を開けた。


広場の方角で建物が吹き飛び、炎が夜空を赤く染めている。


「あれ……?」


リリーが呆然と呟く。


ランカは目を凝らした。


「ドラゴン!昼間のドラゴンが逃げたんだ!」


悲鳴が町中へ響き渡る。


ランカとリリーは顔を見合わせた。


そして急いで着替えると、宿を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ