呪い師の少女は、ゴブリンの毛を抜きたい
荒野を、灰色のマントをまとった二人の少女が歩いていた。
一人は青い髪に大きな黒い瞳。背丈ほどもある杖を手にしている。
名前はランカ。十六歳。
もう一人は、漆黒の長い髪に少し垂れた目をしていた。胸には、大切そうに藁人形を抱えている。
名前はリリー。同じく十六歳だった。
「あれ!」
ランカが丘の先を指差した。
少し後ろを歩いていたリリーが、小走りで隣へ並ぶ。
丘の向こうには、巨大な城がそびえ立っていた。
◇
二人は城下町へ入ると、門兵に教えられたギルドへ向かった。
建物の中には、大勢の冒険者が集まっていた。
戦士、魔法使い、僧侶。
見たこともない装備に身を包んだ者たちを前に、ランカとリリーは目を丸くする。
自分たちの村人を全員集めても、まだ足りないほどの人数だった。
二人がカウンターに紹介状を渡すと、受付の女性が奥の部屋へ案内してくれた。
◇
部屋にいたのは、麻の服を着た中年の男だった。
「待っていたよ。どうぞ座って」
ギルド長は紹介状へ軽く目を通した。
「青い髪の君が、魔法使いのランカだね。見習いは卒業したのかな?」
ランカが緊張した様子で頷く。
「もう一人は……呪い師か。珍しいな。うちのギルドでは初めてだよ」
リリーは、照れくさそうに藁人形を抱き締めた。
「さっそく、君たちの教育を担当するパーティーを紹介しよう」
ギルド長が受付の女性へ合図を送る。
数分後、三人の冒険者が部屋へ入ってきた。
「戦士のガイルだ。よろしくな」
赤い鎧をまとった金髪の男が笑う。
「僧侶のマリアよ。よろしくね」
その隣には、白いローブを着た金髪の女性。
最後に、青い鎧の黒髪の男が前へ出た。
「勇者のアルスだ。君たちの教育係になる」
「勇者?」
ランカとリリーが同時に声を上げる。
ガイルが自慢げに答えた。
「アルスは、一人でドラゴンを倒したことがある。それで勇者の称号を与えられたんだ」
二人は目を輝かせ、ぱちぱちと拍手した。
アルスは困ったように手を振る。
「話はそのくらいにしよう。さっそく、君たちの実力を見せてもらう」
◇
城を出て、小一時間ほど歩いた。
たどり着いたのは、深い森の入口だった。
「ここから先はモンスターが出る。二人とも、俺たちから離れるなよ」
アルスを先頭に、一行は獣道を進んでいく。
しばらくすると、甲高い雄叫びが森に響いた。
「来たぞ!固まれ!」
ガイルが盾を構える。
草むらから、一メートルほどの緑色のモンスターが飛び出してきた。
ゴブリンだ。
鋭い爪を振り回しながらアルスへ襲いかかる。
アルスは剣で爪を受け流し、その体を地面へ叩きつけた。
さらに草むらの奥から、三匹のゴブリンが姿を現す。
「俺とアルスが押さえる! 二人は隙を見て攻撃しろ!」
ガイルが一匹を盾で受け止め、もう一匹を剣の腹で殴り倒した。
マリアがランカとリリーへ声をかける。
「落ち着いて。傷は私が治すから、怖がらなくていいわ」
ランカは杖を握り締めた。
目の前に倒れたゴブリンへ向け、杖を振る。
「ファイアー!」
杖の先から放たれた火球は、ゴブリンの横にある岩へぶつかった。
「外した!」
ゴブリンがランカへ飛びかかる。
アルスが咄嗟に割って入り、その胸を剣で貫いた。
「落ち着くんだ!」
だが、ランカはすでに次の魔法を唱えていた。
「ファイアー!」
先ほどより大きな火球が放たれる。
炎は二匹のゴブリンを同時にのみ込み、黒焦げにした。
「やるじゃない!」
マリアが声を上げる。
アルスも驚いた様子で笑った。
「残りは一匹だ! 次はリリーがやれ!」
「はい!」
リリーが元気よく前へ出る。
アルスとガイルは、最後のゴブリンを左右から挟み込んだ。
逃げ場を失ったゴブリンの背後へ、リリーがそろりそろりと近づいていく。
「何をする気かしら?」
マリアが首を傾げた。
リリーは突然、ゴブリンの頭へしがみついた。
そして髪を握り、力いっぱい引っ張り始める。
ゴブリンは驚き、リリーを振り落とそうと暴れ回った。
アルスたちは、いつでも助けられるよう武器を構えながら、その奇妙な光景を見守る。
「ううう……!」
リリーは必死にしがみついていたが、ついに振り払われた。
そのまま木の幹へ頭をぶつけ、気を失う。
ゴブリンは一目散に森の奥へ逃げていった。
ガイルが倒れたリリーを担ぎ上げる。
アルスは呆れた顔で呟いた。
「こいつ、何がしたかったんだ?」




