第十二話 共生と支配と 其の一『大空と広い大地』
源次たちは、いったい何処に?
新しい地で、何から始めるのか?
楽しみデス
(-.-)y-., o O
◆新大陸
空が、広い。
どこまでも高く、澄んでいる。
乾いた風が、草原を撫でる。
波のように、うねりながら続く大地。
森は深く、川は静かに流れ、
遠くには白く連なる山々。
人の手で切り分けられた形跡はない。
だが――生きている。
獣の気配、風の匂い、水の音。
すべてが均衡の中にある。
奪われず、壊されず、ただそこに在る世界。
源次たちは、その大地に立っていた。
沈黙。
誰もが、言葉を持たない。
ヒョードル
「……何もねぇな」
吐き捨てるように言う。
だが、その声は小さい。
押し潰されている。空の広さに。
源次は、答えない。
視線を巡らせる。
――違う。
何もない、のではない。見えないだけだ。
風が、変わる。 ほんの僅かに。
源次の足が止まる。
源次
「……来るぞ」
低く。
次の瞬間。
気配が、現れる。
草の陰。 木々の間。 岩の影。
――人。
音もなく、現れていた。
弓。 槍。
だが、構えは静かだ。
殺気が――無い。
ヒョードル
「囲まれてるぞ」
歯を鳴らす。
手が、無意識に武器へ伸びる。
源次
「待て」
短く制す。
源次は、見ていた。
彼らの目を。
敵意ではない。測っている。
値踏みでもない。
――見ている。
こちらを。
そのまま、時間が止まる。
風だけが、流れる。
やがて。
ひとり、動く。
群れの中から。
ゆっくりと、前へ。
足取りは、軽い。 だが、迷いが無い。
源次は、その顔を見る。
――見覚えは、ない。
だが。
その男は、こちらを見て笑った。
クラ
「あんたが、紅蓮の言うとった男やな」
空気が、揺らぐ。
ヒョードルの手が止まる。
源次もまた、動かない。
男は、さらに一歩、近づく。
その背後で。
子供が、ひとり。男の袖を引いた。
男は軽く振り返り、何かを言う。
子供は、頷く。
そのやり取りは、あまりにも自然だった。
――異物ではない。
そこに、居る者の動き。
さらに。
老いた者が、男に視線を送る。
男は頷く。
それで、十分だった。
周囲の弓が、僅かに下がる。
ヒョードル
「……なんだ、こいつは」
低く、呟く。
クラは肩をすくめる。
「構えんでええ」
「ここは、そういう場所やない」
静かに。
だが、断定するように。
源次は、その言葉を受け止める。
――命令ではない。
だが。
従うべき“何か”がある。
周囲を見る。
武器はある。
だが、争いの気配は無い。
距離はある。 だが、拒絶も無い。
奇妙な均衡。
クラ
「来いや」
顎で、奥を示す。
「見せたる」
振り返る。
背中を、見せる。
無防備。
だが。誰も、動かない。
源次は、一歩、踏み出す。
ヒョードルが舌打ちする。
「……チッ」
だが、続く。 他の者たちも。
誰一人として、武器を抜かないまま。
その場を、進む。
視線を感じる。
無数の目。
だが――刺さらない。ただ見られている。
やがて。
草原を抜ける。視界が、開ける。
そこに。
人の営みが、あった。
火。 住まい。 笑い声。
そして。
その中に――
見覚えのないはずの光景がある。
異なる衣。
異なる動き。
だが。
違和感が、無い。
そこに、溶けている。
源次は、足を止める。
理解が、追いつかない。
ここは――
敵地ではない。
だが、味方でもない。
そのどちらでもない場所。
クラが、振り返る。
「ここが、そういう場所や」
短く。
それだけ。
風が、吹く。
新しい世界の、匂いがした。
火の匂いが、鼻をかすめる。
乾いた木の燃える音。
肉の焼ける音。
――生活の音だった。
源次は、足を止めたまま、周囲を見る。
誰も、慌てない。
誰も、隠れない。
だが。 無関心ではない。
視線は、常にこちらにある。
測っている。受け入れるか、どうかを。
クラは、その中を歩く。
自然に。 迷いなく。
女が、声をかける。
言葉は分からない。
だが、響きは柔らかい。
クラは短く返す。
笑う。
それで、通じている。
子供たちが駆け寄る。
ひとりが、クラの腕にぶら下がる。
クラ
「こら、引っ張ったらあかん」
軽くあしらう。
だが、その手は乱暴ではない。
ヒョードルが、小さく呟く。
「……なんでだ」
誰に言うでもなく。
ヒョードル
「なんで、あいつが“中”にいる」
⸻
源次も、同じことを考えていた。
⸻
侵入者ではない。 客でもない。
“構成の一部”として、そこにいる。
クラが振り返る。
「まだ分からんか」
⸻
源次は、答えない。
⸻
代わりに、見る。
ひとりの女。 子を抱いている。
その傍に、別の子供。
さらに、その後ろに、年老いた女。
クラが近づく。
何かを受け取る。それを、子供に渡す。
⸻
当たり前のように。 役割のように。
誰も、驚かない。
そこに、上下はない。
命令もない。
ただ、流れている。
源次
(……違う)
頭の中で、言葉が形になる。
統べている者が、いない。
だが、乱れていない。
奪う者が、いない。
だが、満たされている。
その時。
視線を感じた。
⸻
ひとりの女。
⸻
静かに、こちらを見ている。
年は、分からない。
若くも見え、老いても見える。
装飾は、少ない。
だが、周囲の空気が違う。
彼女の周りだけ、わずかに静まっている。
クラが、わずかに姿勢を正す。
ヒョードルが、眉をひそめる。
ヒョードル
「……あいつが、頭か?」
クラは、首を振る。
「ちゃうちゃう」
短く。
クラ
「でも、話は通る」
⸻
源次は、その女を見る。
⸻
女もまた、源次を見る。
⸻
測るでもなく。 拒むでもなく。
ただ、見ている。
そして。
ゆっくりと、口を開いた。
言葉は分からない。
だが。
意味は、伝わる。
――“なぜ来た”
源次は、わずかに息を吐く。
ここで初めて。
問われた。
力でもなく。 名でもなく。
理由を。
ヒョードルが、口を開きかける。
ヒョードル
「俺たちは――」
源次
「待て」
制す。
源次は、一歩前へ出る。武器は持たない。
ただ、立つ。 視線を合わせる。
源次
「……作りに来た」
短く。
女は、瞬きひとつ。
⸻
沈黙。
⸻
風が、吹く。
やがて。
女は、わずかに首を傾ける。
そして。
静かに、言葉を返す。
意味は、分からない。
だが。
はっきりと、伝わる。
――“何を?”
源次は、言葉を失う。
初めてだった。
答えを、持っていない問い。
その時。後ろから、声。
???
「言い繕っては、いけません」
振り返る。 そこに、いた。
女。 静かな目。 柔らかな所作。
つき
「この人たちには」
源次の隣に立つ。
つき
「“一緒に生きられるか”それだけ」
⸻
源次は、言葉を飲み込む。
理解が、少しだけ進む。
“作る”では足りない。
“支配する”では論外。
⸻
では、何か。
答えは、まだ出ない。
だが。
ここには、それがある。
既に。
クラが、笑う。
「せやから言うたやろ」
「ここは、そういう場所や」
⸻
風が、また吹く。
⸻
源次は、初めて。
“この場所で考える”ことを、選んだ。
沈黙が、続く。
風の音だけが、場を満たす。
⸻
源次は、言葉を探していた。
“作る”では足りない。
“奪う”は論外。
では、何か。
⸻
答えが、出ない。
⸻
女は、待っている。
急かさない。 だが、逃がさない。
⸻
その時。
ひとり、進み出る影。
足音は、ほとんど無い。
気配も、薄い。
いつの間にか、そこにいた。
⸻
源次の視線が、わずかに動く。
⸻
女。 若い。
だが、その佇まいは、場に溶けている。
装いは簡素。
だが、隙がない。
彼女は、先住の女の傍に立つ。
言葉を交わす。 短く。
その声は、低く、静かだった。
通じている。 通訳ではない。
“理解している者”の声。
やがて。
こちらへ、視線を向ける。
源次と、目が合う。
揺れがない。
測るでもなく、拒むでもなく。
ただ、見ている。
つき
「……言葉、要る?」
小さく。
源次は、首を振る。
「いや……通じている」
つきは、わずかに頷く。
それ以上、踏み込まない。
距離を守る。だが、場からは外れない。
クラが、肩を竦める。
「難儀やな」
「最初は、みんなそうや」
ヒョードルが、舌打ちする。
「で、どうすんだ」
「何も言わねぇのか」
苛立ち。
つきが、わずかに視線だけを動かす。
つき
「……言えば、終わる」
短く。
ヒョードル
「は?」
つきは、それ以上言わない。
源次は、その言葉を拾う。
(……言葉で決める場所じゃない)
理解が、形になる。
女が、再び口を開く。
ゆっくりと。
静かに。
⸻
意味は、やはり分からない。
⸻
だが。
感じる。
“どう生きる”と問われている。
源次は、息を整える。
一歩、踏み出す。
武器は持たない。
手は、空。
⸻
視線を合わせる。
⸻
源次
「……共に、生きる」
選んだ。
言葉は、足りない。
だが。
それでも、出した。
⸻
風が、止まる。
⸻
女の目が、わずかに細まる。
周囲の空気が、変わる。
緊張ではない。
“見極め”が、一歩進む。
つきが、ほんの僅かに息を吐く。
気づく者は、いない。
だが。
その肩の力が、ほんの少しだけ抜けた。
クラが、小さく笑う。
「……ええやん」
「ようやっとやな」
ヒョードルは、まだ納得していない。
ヒョードル
「それで通るのかよ……」
だが。
弓は、もう上がらない。
誰も、敵として見ていない。
まだ、味方でもない。
それでも。
“ここに居ること”は、許された。
つきが、静かに背を向ける。
「……来て」
それだけ言う。
導くでもなく。
命じるでもなく。
ただ、歩く。
源次は、続く。
ヒョードルも、舌打ちしながら続く。
その背後で。気配が、揺れる。
見えない位置。
確かに、誰かがいる。
ヒョードル
「……まだいるな」
低く。
クラが、振り返らずに答える。
「おるで」
軽く。
それ以上は、語らない。
源次は、前を見る。
火。 人。 営み。
そして。
その中に、自然に混ざる者たち。
ナギ。
弥七。
月叟。
荻。
忠太。
つぐ。
それぞれが、役割を持ち。
それぞれの場所にいる。
誰も、支配していない。
だが。
崩れていない。
(……これが)
源次は、理解する。
(共に、生きる、か)
その言葉の重さを。
ここから先。
試されるのは、力ではない。
“在り方”だ。
⸻
風が、また吹いた。
⸻
新しい世界は、既に動いていた。
つづく
いやあ、先達は頼もシー ^ ^
身構えていたのが、ちょいハズ \(//∇//)\




