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第十話 森力丸の記憶          其の六『戦国の魔術師』

りっきゅんの

生い立ちが明かされましたねー

今回はというと

^ ^

 石巻に来る前、一人の子供と出会っていた。


 杉谷善住坊を匿い、修行をする地。

目的地、石巻。

 だが――直には行けない。


       転移魔法。

 前々世、グレン・テミストクレスの力。

使えるが、条件がある。


 “知っている場所にしか、行けない”


 視たことがある。 立ったことがある。

記憶に、残っている場所。

 そこだけだ。

だから――まずは、米沢。


 魔法も使えなかった、前世で訪れた。

ただの人間として、歩いた場所。

 だが――刻まれている。

           ならば、使える。


   試す。


 座標を、掴む。

現在地と目的地。 

記憶をなぞり、風景を、固定する。


 跳ぶ。 歪む。 一瞬。

          景色が、変わる。

          土の匂い。

          空気。

          温度。

 米沢だ。


    隣で、男が固まっている。

「……おい」

    遅れて、声。

「……今、何をした」


「移動だ」


「……見りゃ分かる」


 だが、分からない。

忍びの技ではない。   理の外。


    男の目が、変わる。

「……化け物か」


「便利だろう」

    それで、済ませる。

       説明する気は、無い。

 使えると分かれば、それでいい。


 ここで、寄る場所がある。



◆米沢


 この時代は、伊達の勢力下のはず、

代は、たしか輝宗。あの頃の筈だ。

 城下を視察しておく。

知識の中の歴史。それと肌の感覚。

擦り合わせておく。

 その中で、一人の子供と出会った。

まだ小さい。

 だが――気になる。

視界に入った瞬間、分かる。


 (似ている………私に)


    顔。 骨格。 雰囲気。

 まるで――鏡だ。


 名を聞いた。「竺丸」というらしい。

臆さない。目が、まっすぐだ。


 (良いな。この手の人間は、残る)


 視線を、合わせる。


「力丸………私の名だ」


 短く、交わす。それだけでいい。

だが――残す、記憶に。

         鮮烈に。

子供の記憶は曖昧だ。だが、強い印象は残る。


 ならば――演出する。

    言葉。 間。 視線。

 “忘れない出会い”にする。


「また会うだろう」

    そう言って、去る。


 理由は、いらない。 残ればいい。

これで――種は、蒔いた。

            気付かぬ形で。


 遅れる。

だが、問題はない。本命は、石巻だ。

 今度は、歩く。転移は、使わない。

   使えない場所へ、行くために。

    距離。 地形。 人の流れ。

 全て、体で覚える。時間が、かかる。

足も、鈍い。体は、子供だ。

 それでも――進む。男は何も言わない。

 だが、見ている。測っている。

    この異常なガキを。

 やがて――着く。


◆石巻。


 何もない。 だから、いい。

作れる、足掛かりとなる場所を。

 地下にある資源。

     石炭。 鉄。

 場所は、分かっている。

    感覚で。 魔力で。 掴める。

 ここに――作る。

最初の拠点、いや、隠れ家。

    基盤。未来の起点。


 そうして、辿り着いた。



    力丸

「杉谷善住坊、私の同志になれ」

    近づく。 触れる。



 回復そして治癒。


    杉谷善住坊

「……いいだろう」

    吐くように。

「付き合ってやる」


「ただし、途中で死ぬなよ」


    力丸

「その力、存分に使いきってみせるさ」



    男に、告げる。

「やることは三つ」

    指を、立てる。


「掘る」


「作る」


「集める」


     単純。

        だが――重い。


「石炭と鉄を掘れ」


「武器を作り……………船を作る」


    男の眉が、動く。

「船だと」


「この歳で、何を言ってやがる」


 当然だ。 だが――続ける。


    力丸

「刀と槍だけでは足りない」


「それ以外を作る」


      間。


    善住坊

「……何をだ」


    力丸。

「全て」

    簡潔に。


「銃。防具。大砲。この世に無い物」


「今は、な。それらを船に積む」


 男が、黙る。

理解が、追いつかない。

      だが――本気は伝わる。


    力丸

「無いものを作るのだ、この時代に」

    言い切る。

    迷いなく。

    そして――渡す。

  知識を。 構造を。 作り方を。


 鍛治の延長ではない。

別物だ。だが――繋がる。

 理解できる形に、落とす。


    善住坊

「そこまでして、何が欲しい」


    力丸

「創るのさ」


「それを望んでいる、貴様も」


 男の目が、変わる。 再び。あの目に。


    善住坊

「……面白ぇ」

    呟く。


 生き返った顔だ。 完全に。 これでいい。


 任せられる。 人も、要る。 集める。


 選ぶ。 使う。


 そして――撒く。 “草”の種。


 広げる。 静かに。 誰にも知られず。

   魔力。 精度。 量。

      まだ足りない。

          全てが、足りない。

 だが――時間はある。

積む。 ひたすらに。


◆やがて――八歳。


 区切り。 離れ過ぎた。

   家から。 親兄弟から。

これ以上は、良くない。 戻る。

 ここは――任せる。 男に。


「任せた」

    短く。

       それでいい。


    男は、笑う。

「言われるまでもねぇ」


 力丸は背を向ける。

石巻を、後に。


 ここは――生きる。

         後に。

 必ず、意味を持つ。



◆家に戻る。


 日常。 兄弟。 母。

        崩さない。

 ここは、基盤だ。



 だが――止まらない。



 転移魔法で、米沢、石巻と繋がる。



 定期的に、跳ぶ。

   視る。 確かめる。



 石巻。


人員。隠れ家。資源。武器。

 掘れている。 積まれている。

         形になり始めている。



 男は、もう“終わる側”ではない。

      動いている。

人を集める。

 採掘の為、“草”にする為。鍛治の為。

作っている。

 隠す場を、鍛える場を。人を。武器を。

繋いでいる。

 資源と鍛冶場。人と隠れ家。情報。



 十分だ。 任せられる。



◆米沢。

     こちらも、同じだ。


 竺丸。

変わらない。

 だが――変わっていく。


    竺丸

「また来たのか」

    顔を、上げる。

 笑うでもなく、警戒でもない。

   そのまま。


    力丸

「来ると言ったろう」


    竺丸

「……本当に来るとは思わなかった」


 素直だ。 いい。 並ぶ。

子供同士の距離。

 だが――違う。


    力丸

「今日は何する」

    問う。


    竺丸

「何でもいいぞ」


    力丸

「じゃあ、話」


      選ぶ。


    竺丸

「話?」


    力丸

「ああ」

    頷く。

「人は、何で動くと思う」



     唐突。



 竺丸は、考える。 少しだけ。



    竺丸

「……腹が減るから」

    答え。


    力丸

「良いな、だが半分」


「もう半分は」


    力丸

「欲しいから」



 続ける。



    力丸

「何を」



    竺丸

「分からないけど……欲しいから」



 (良いな、感覚がある)


 (素地はある)


 (育てれば、使える)



    力丸

「では、その“欲しい”を

        どうやって手に入れる」


    竺丸

「……奪う」



     一拍。



「か、もらう」



     修正。



    力丸

「それも半分。もう一つ」

    誘導する。



    竺丸は、黙る。 考える。 長く。

「……交換?」



   出る。頷く。



    力丸

「良いな」


「奪えば、恨まれる」


「もらえば、借りができる」


「交換すれば、続く」

    静かに、落とす。



 竺丸は、聞いている。 真剣に。



    竺丸

「続く方がいい」


    力丸

「私もそうだ」

    短く。

(分かるか。なら、伸びる)



 会話は、軽い。だが――積む。



 名前。 顔。 声。 思考。

全て、刻ませる。



(忘れさせない。この関係を)



 別の日。


    竺丸

「力丸」

    呼ぶ。


    竺丸

「兄が、元服する」

    声に、棘。


(たしか政宗は、私と同じ。十歳で元服か)

(この時代、子供に優しくないな)


    力丸

「出るのか」


    竺丸

「出たくない」

    即答。

「兄者は………苦手だ」

    視線が、逸れる。



 理解する。 家庭。 序列。 摩擦。


 竺丸の兄といえば、

梵天丸。こと

 伊達藤次郎政宗。


(伊達の当主足らんとする長兄か、

          察するは容易だな)

 

(これは……利用できる)


    力丸

「代わりに出ようか」

    軽く言う。


    竺丸

「……は?」


    力丸

「私が」

    指を、自分に。


    竺丸

「無理だろ」


    力丸

「出来るさ」



 事実。二人は瓜二つ。

    竺丸は、黙る。見ている。顔を。

「……確かに」

    納得してしまう。


(押せる)


    力丸

「話し方も出来る」

    やってみせる。

「癖はないか。家族といる時の」


「仕草も」


 条件を、出す。

子供通しの他愛の無いやり取り。


    竺丸は、迷う。

「……バレたら終わりだぞ」


    力丸

「バレないって」

    笑う。


    (実際、問題ない)

 細部を、詰める。言葉遣い。間。視線。

覚える。 一度で。

    (再現は、容易い)


 (それに、この子供は

兄のいる場では、己を出さないだろう)



 当日。

場。 人。 空気。

 竺丸として、立つ。違和感は、無い。

だが――

    (話し方が浅い)


    (癖が、甘い)


 内側で、修正する。


    (課題だな)


 表では、問題ない。 通る。 終える。



 戻る。


    竺丸

「どうだった」


    力丸

「問題ない」


    竺丸

「……本当か」


    力丸

「次は、もっと似せる」

    淡々と。

「お前の兄さん、思ったより大した事無かったよ」


    竺丸

「なんだと。兄者は凄いぞ。強いんだぞ」


    力丸

「ハッハッハッ」


    竺丸

「どうした」


    力丸

「本当は好きなんだろ」


「苦手とか言ったくせに」


    竺丸

「笑うなよ。自分でもよく分からんのだ」

    竺丸は、苦笑する。

「お前、本当に何なんだ」

    問い。


「力丸だ」


「それ以上でも、それ以下でもない」



(伊達小次郎か、やはり使える)


(繋いでおく。必ず)



 こうして。

表では、友。 内では、布石。

 静かに、組み込まれていく。


 この頃ついに実用化の目処がついた。

蒸気機関。そして、回転式拳銃。

 今はまだ粗い。だが使いようはある。


◆艦の建造は、

本拠点、釜石で行うことにした。

 ここでは手狭なのと、鉄。

釜石のほうが、より集まる。

 そこで、釜石に拠点を移す。

建造するのは、鋼鉄製蒸気戦艦だ。

 この時代、まだ運用されていない技術。

蒸気機関を動力とし、

武装も“それ”に準じたものを搭載する。

 石巻は、以降隠れ家として使う。

最低限のものを残し、離れる。

 新たな拠点。

ここでは、航海術も学ばせることにする。

 波を読み、風を読み、位置を知る。

来るべき時、この艦は大いなる航海へ。


◆拠点。


 石巻から釜石へ。

掘る場所。作る場所。分かれている。

 だが――繋がっている。


 採掘場。 工房。 形になっている。

     人も、いる。

 集めたのは――あの男だ。

      選び。 試し。 残した。

 質は、悪くない。むしろ――良い。



 竺丸からの話も、使う。


 流れ。 人。 噂。

点が、線になる。

   足りないものを、埋める。



 次に用意するのは、戦うための、集団。  

    忍び。   だが――違う。


潜むだけではない。消すだけでもない。


 影。

諜報は勿論。荒事あらごとこなす。


 純然たる戦闘力。機動力。隠密性。


 “草”と、混ぜる。


  情報。 潜入。 撹乱。

そして――制圧。


 一つにする。

静かに。  だが、確実に。

       形は、整いつつある。


◆艦


 試す。

海に出す。 鋼の船。

 蒸気を吐き、進む。

     波を割る。

       風に抗う。

         沈まない。

           壊れない。

      戻る。


 それだけで、十分だった。



 十二歳になった。

竺丸の兄が、婚姻するという。


 また、代わってやることにした。

 顔。     声。     間。

もう、崩れない。

少し話す程度では――見抜かれない。

 場を、こなす。違和感は、無い。

          視線も、流れる。



(精度は上がった)


(使える)


       あとは――使い方だ。



◆杉谷善住坊。

本当に良くやっている。だが、このままでは、

潰れてしまう。

 そこで、一人の人物を思い出した。

奴ならば、この策。飛躍的に伸びる。



◆播磨。


 人物を求めて、この地へ飛んだ。

この年、この時期。

 奴は、病の身で陣中にいるはず。


  夜。


 陣は、静まり返っていた。

         風が、幕を揺らす。

 遠くで、焚き火が、爆ぜる。

 それだけが、生の音だった。



 そこに、床に伏す男がいた。


     竹中重治。


 今孔明。二兵衛とも称された竹中半兵衛。


 その姿は痩せ細り、呼吸は浅い。

だが――顔は、穏やかだ。



(ここまでか)



 自覚は、ある。

己の終わりを、知っている。


 眠りに落ちる。 浅く。 沈むように。



 ――気配。



 目を、開ける。   いる。


 子供の姿。

場違いなほど、小さい。

 だが――違和感は、そこではない。


      “静かすぎる”


 気配が、無い。

立っているのに、存在が揺らがない。


    半兵衛

「……何者だ」

    声は、弱い。だが、芯はある。


「森力丸」

    即答。


    半兵衛

「……森」

    一瞬で、繋がる。

          織田家中。

             森家。



    半兵衛

「なぜ、ここにいる」


    力丸

「迎えに来た」

    短い。

「私について来い」

    命令。

 だが――押し付けではない。


    半兵衛は、わずかに笑う。

「……随分と、傲慢な童だ」


「嫌いではないが」

    息を、整える。

「断る」

    はっきりと。

「この身は、ここで終わる」

    事実。

「主君に、尽くした」


「策も、尽くした」


「これ以上は、望まぬ」

    静かな、諦観。


    だが――

「終わらせない」


    半兵衛の目が、細くなる。

「……理由を聞こう」



    力丸

「新しい世界を創る」


      間。


「寒さを殺す」


「飢えを消す」


「流れを作る」


「人が、奪わなくていい形を作る」

    淡々と。

 だが――揺らがない。


    半兵衛

「……夢物語だ」



     否定。 当然。



    力丸

「だが――」


 半兵衛の目が、動く。


    力丸

「策はある」

    続ける。

「流通を繋ぐ」


「環境を制御する」


「知を回す」


「人を、依存ではなく循環で縛る」



     沈黙。



 半兵衛は、見ている。

子供ではない。

 理を語る者の目。



(……面白い)

    口元が、わずかに緩む。

「それが、可能ならば――」


      一拍。


「見てみたいものだ」

    素直な本音。

「だが」



     現実が、戻る。



「この身は、永くない」



     確定した未来。



    力丸

「知っている」

    即答。

「だから、私が来たのだ」



    半兵衛の目が、わずかに見開く。

「……ほう」


「ならば、どうする」

    問い。



 力丸は、近づく。 手を、かざす。


魔力。静かに、満ちる。


「戻す」

    短い。



 触れる。読み取る。


 流す。力。深く。内側へ。


 壊れたものを、組み直す。


 腐りかけた流れを、正す。


 命を、引き戻す。


 光は、無い。音も、無い。

ただ――変わる。


やがて、呼吸が、深くなる。


 脈が、戻る。血が、巡る。



    半兵衛の目が、見開かれる。

「……これは」



 起き上がる。 身体が、動く。

      軽い。


「……馬鹿な」

    自分の手を、見る。震えていない。


    力が、戻っている。

「……あり得ぬ」

    呟く。


「あり得るさ、私にはな」

    即座に返す。



    半兵衛は、笑った。声を出して。

「はは……ははは……!」


「なるほど」


「これは……」


 うつつの事とは思えぬ状況。

これを突き付けられては


「面白い」

    目が、変わる。

 死を受け入れた男の目ではない。


      生きる者の目だ。


「いいだろう」

    決める。

「私も乗ろう。その策に」



 一歩、踏み出す。



「だが」

    視線が、鋭くなる。

「中途で潰れるならば」


「その時は、私が斬る」



     条件。



    力丸

「良かろう」

    即答。



     成立。



 その夜。

竹中半兵衛は――死んだ。


 表向きは。

病により、静かに息を引き取ったとされた。

 半兵衛の偽装工作。


 だが――その実。 男は、歩いている。


夜の中を。子供と共に。

   向かう先は――釜石。


 鉄と火と、未来の地。


歴史に名を残す軍師は、ここで一度、死んだ。



 そして――

別の戦に、生まれ変わる。


 

◆十三歳になった。


 この年、人材を得る機会を思い出す。

あの、武田氏が滅ぶ。



  炎。 煙。 崩れる音。


 武田が、終わる。

かつての最強も、主を失い代が替わり。

最強ではなくなっていた。


 旗は、折れた。 名は、地に伏す。


  勝者の足音。 敗者の沈黙。



 その狭間。



 縄を掛けられた少年がいる。

              真田信繁。

 十三。


 俯いてはいない。

だが――前は見ていない。

 視線は、遠い。

(ここまでか)

    諦観。 だが、折れてはいない。



 その時。


 “風”が、変わる。誰も、気づかない。

だが――そこに、いる。



 子供。



 音もなく。影のように。

信繁の前に、立つ。



    信繁

「……誰だ」

    低い声。 警戒は、解かない。


「森力丸」

    名乗る。


 その名に、反応はない。当然だ。


    力丸

「来い」

    短い。

「ここを出る」

    命令。



    信繁の目が、細くなる。

「……戯れか」


「我は、人質だ」


「逃げれば、どうなるか」



 分かっている。 全て。



「分かっている」

    即答する力丸。

「だから、連れ出す」

    揺らがない。



     沈黙。



 信繁は、見る。 目の奥。

子供ではない。


「……何故だ」

    問う。



「新しい世界を創る」



     間。



    信繁は、わずかに息を吐く。

「また、それか」

    嘲りではない。呆れでもない。

ただ――遠い。


「終わったのだ。武田は」


「我らは、敗れた」



     事実。



「終わっていない」

    重ねる。

「まだ、何も」

    一歩、近づく。

 手を伸ばせば届く距離。



「君は、自分の手で――」

    視線が、ぶつかる。

「歴史の歯車を、回してみたくないのか」



   静かに。だが――深く。



 信繁の目が、揺れる。

      その言葉は、刺さる。

         ただの誘いではない。

 否定しきれない“何か”。


(……歯車)



 思い出す。


戦。 策。 父の背。

       才は、あると言われた。

 だが――

      今は、縄の中。

  人質。


(このままか)



未来が、見える。誰かの為に、生き。

           誰かの為に、死ぬ。


 それで、終わる。

     それで――いいのか。



     沈黙。



    信繁

「……世界、と言ったか」

    問う。

「織田が天下を獲る」


「いや、別の意味か」


「世界」


「回せるのか」

    真っ直ぐに。



「回す」

    即答。

「獲るのではない、私は」


「その為に、動いている」

    嘘は、無い。



 信繁は、目を閉じる。



     一瞬。

         開く。


    信繁

「……いいだろう」

    縄を、見る。

「乗ろう」

    顔を上げる。

「その戯れに」

    わずかに、笑う。



     次の瞬間。



 縄が、落ちる。音もなく。気配もなく。

世界から、二人が消える。

 残るのは―― 空。


 誰も、気づかない。

ただ一つ。

 確かに、歯車が――

           回り始めていた。


◆拠点。


 杉谷善住坊。竹中半兵衛。真田信繁。

彼らが軸となり、備えは加速し進む。


 家と、拠点の往来も慣れ、

入れ替わり、何度も伊達へも視に行った。 

時は、満ちる。流れは、止まらない。

 そして、名を連ねる。

       織田の下に。


 力丸。

まだ、子。だが――遅れてはいない。


 蘭兄。 坊兄。

その言葉で、足りる。情報は、揃っている。


(戸惑いは、無い)


 場の空気。 人の癖。 主の気質。


 知っている、既に。



 思う。

傳兄様。 あの背。 あの強さ。


(届いたか)


     否。


(まだだ)

    足りない。全てが。



筋。 骨。 動き。 魔力。 精度。 量。



 剣。 体。 間。



 どれも――完成ではない。



 だが。

届いている。最低限。


 戦える。 生き残れる。


 それで、いい。


(間に合った)



 準備は、終えている。



 石巻。 釜石。


 人。 物。 流れ。

    全て、繋がっている。



 そして――逃げ道。

            用意してある。

 抜ける為の道。消える為の手。


 いつでも、動けるように。


 視る。 先。 炎。 裏切り。 崩壊。

   来る。 必ず。


(史実通りだ)

ならば――

    使う。その流れを。飲み込む。

そして――

    変える。 静かに。 確実に。



 森力丸。

ここより――

        出る。





       つづく


はい。

りっきゅんの、前々世のお話から、

前世のお話。そして、力丸としての半生。

人格形成というか、元々の人格に上積みされてきてます。そこら辺が描けていないとすると、私の技量の問題だと認識しております。

m(_ _)m

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