第十話 森力丸の記憶 其の四『武士たちの鎮魂歌(レクイエム)』
りっきゅん
三歳になります。かわいいデス
でも中身は全然違う
こんな子供は怖いいデスね
ようやく三歳になった。
軀を動かせると言っても、不自由この上ない。
やはり、報せは突然くる。
予兆はあった。 空気が沈む。
人が口を閉ざす。 目が合わない。
分かる。
だが――言葉にはならない。
まだ、来ていないからだ。
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兄者。 傳兄様。
傳兵衛こと、森可隆。
幼い私から見たその背は
とても大きく。強い。
前に立ち。 背中で、語る。
守護する側の人間。自分とは、違う。
そう認識していた。
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ある日。
知らされる。
淡々と。
余計なものはない。
討ち死に。
朝倉攻め。
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音が、遠のく。 理解は、早い。
言葉の意味も、重さも。 知っている。
だが――実感が、遅い。
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死。
終わり。戻らない。
よく知っている。
だが――
さっきまで、いた。そんな感覚が、残る。
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前世と、違う。 前々世とも、違う。
あれは――遠い。
これは――近い。
距離が、違う。 温度が、違う。
匂いが、残っている。
理解する。
これが――現実の死だ。
記憶していたもの。それは既に過去。
知識に変質してしまった思い出。
これは、今、突きつけられた現実。
肉親の………
思考が、動く。止まらない。
埋める。 空いた場所を。
誰が、立つ。 誰が、支える。
勝兄様。
当然だ。 最も近い。 最も適任。
だが――足りない。数が、減った。
前に立つ者が、一人減った。
これは、痛い。
戦力。 精神。 両方。
ならば――増やす。
いずれ。 自分が。 結論は、早い。
兄者より、強くなる。
感情ではない。 必要だからだ。
自分でも驚くほど、冷静に
思考が駆け巡っていた。
現状を正しく理解し、打開策をうつ。
感情に負けぬように、切り離した思考が
己を保護した。精神の防衛反応か。
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時間が、流れる。
三歳。
区切り。
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新しい命。
弟が生まれた。
小さい。 軽い。 弱い。
赤子とは、これほど頼りないものか。
初めて。
自分より下の守る対象。
理解する。
これは――役割だ。
私は、兄なのだ。
抱く。 温かい。 脆い。
「仙は、俺が守る」
力丸、言葉にする。
母上様に。
笑う。嬉しそうに。分かりやすい。
この感覚。良い、これでいい。
方向は、間違っていない。
そして、
父上様に。
伝える。はずだった。
叶わない。
この想いは、もう。
報せ。 重い。
今度は、遅れない。すぐに、来る。
父上様。
討ち死に。
理由も、分かる。知っている。
戦況も……想像できる。
延暦寺。 浅井。 数。 囲まれた。
“攻めの三左”。
鬼。 強い。
知っている。
だが――死ぬ。当たり前だ。
人は、……………。
⸻
それでも。
笑顔しか、思い出せない。
残る違和感。 消えない。
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勝兄様は、
家督を継ぐ。
当然にして最適。
だが――若い。
あまりにも。
しかし、
立つ。
迷いはない。背筋を、伸ばす。
勝兄。
ああ。
ここで、変わった。子供を、やめた。
理解した。
前々世でも見た。役を背負う瞬間。
違うのは――年齢だけだ。
立派だと思う。
年齢は、現代ならば中学生か小学生。
素直に尊敬できる。
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蘭兄は、二つ上。
まだ、五つのはずだ。
しかし、変わる。
目が。振る舞いが。
だが――やろうとしている。
兄であろうと。
母上様を、敬う。
弟たちを、気にかける。
まだ、甘えたい盛りではないのか。
覚悟が人を変える。 か。
不器用。
だが――真っ直ぐだ。
恐らくは、向いている。
別の道なら。教える側。導く側。
教師ならば、きっと。
ふと、思う。そんな世界も、あった。
だが――ここには無い。
ならば――適応する。配置が、見える。
父が消えた。
長兄が消えた。
次が、埋める。その次が、支える。
足りない。ならば――補う。
これが、武家の形か。
自分の位置は、五男。
動きやすい。縛られない。
使える。
守る。
家を。兄弟を。
迷いは、ない。静かに、決める。
この家は、壊させない。
今度は
つづく
家族を二人亡くしてしまいました。
あの時の蘭丸の決意。
それ、ちゃんと
りっきゅんに伝わってる




