第十話 森力丸の記憶 其の三『異世界の狙撃手(スナイパー)』
りっきゅん。まだ一歳ですよー
かわいーねー
私の場合。
これは幸い、と言えるであろう。
武家とはいえ五男。
継ぐ位置ではない。矢面に立つ位置でもない。
目立たない。
今の私に、それが――活きる。
上から順に、視線は集まる。
名は、先に立ち。責を背負う。
刃も向き易い。
だが――五番目には、届きにくい。
今は、まだ。守られている。家という、殻に。
父が、 兄が、矢面に立つ者たちが、いる。
ならば従っていれば良い。
逆らわず、出過ぎず、沈む。静かに。
波を立てない。それが、最善だろう。
しかし――それだけでは足りない。
知っている。殻は割れる、という事を。
いつか。外から。内から。
理由は、いくらでもある。
戦。病。裏切り。ものは、壊れる。
私は知っている。経験している。
前にも見た。幾度となく。
だから――備える。刻はある。
内から、支える。小さいまま、出来る範囲で。
歪みを、見る。隙を、埋める。人を、観る。
父、森可成。
強い。だが――多忙だ。
目は、広い。だが、細部は漏れる。
兄たち。それぞれに、癖がある。
非常に興味深い。得手。不得手。
衝突も、ある。均されていない。
だから――揺れる。その揺れを、覚える。
どこで軋むか。 どこで折れるか。
記す。 繋ぐ。
小さな手で、出来ることは少ない。
だが――無いわけではない。
言葉。 タイミング。 場。
それだけで、変わる。少しだけ。
それで、いい。積み重ねる。見えない形で。
同時に。 情も、知る。 近い。 距離が。
顔がある。声がある。触れる。温度がある。
前とは、違う。
名だけではない。役だけでもない。
人が、いる。
家族。 守るべき単位。 小さい。
だが――確か。
ここが、崩れれば、全てが、崩れる。
ならば――守る。
理由は、二つある。
合理、そして――納得。
どちらもある。
だから、迷わない。大事にする。
父を。母を。 兄を。 家を。
従い、支え。崩さない。今は、それでいい。
いずれ、外へ出る、前に立つ。
その時に、壊れていては意味がない。
基礎は、ここだ。
家。
最初の、構造。ここを、保つ。
静かに。 確実に。
森家五男として。 目立たず。
だが――外さない。
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私もまもなく三歳になる。
やはり、
そういった事は容赦なく降り注いでくる。
報せは早かった。
空気が、変わる。
ザワッ
(ざわめき)
タッタッタッ
(走る足音)
声は低く、抑えている。
だが――隠しきれない。
不穏。
名が、出る。
信長様。
そして――
撃たれた。
一瞬。
思考が、止まる。
次の瞬間――回る。
速い。
傷。 浅い。 命に別状なし。
情報は、揃う。
だが――収まらない。
胸の奥。 ざらつく。
冷たいものが、走る。
私は知っている。
この感覚。 前だ。 直前。
崩れる、少し前。
同じだ。 形は違う。
だが――本質は同じ。
“届く”という事実。
守りを、越えて。
距離を、越えて。
意志を、越えて。
刃が、届く。
それが――始まり。
ここから、広がる。
穴が、開く。
見えない穴。
だが、確実に。
人は、慣れる。
次も、大丈夫だと。
運が、続くと。
違う。
一度、通った道は ―― 二度通る。
精度を上げて。 迷いなく。
だから――潰す。
芽のうちに。根から。例外なく。
思考が、冷える。
感情は、遅れて付いてくる。
憎い。
単純だ。
だが――それでは足りない。
名が、出る。
杉谷善住坊。
狙撃手か。
覚える。
音。 形。 響。
捨てない。
記す。
沈める。
表には、出さない。
まだ、届かない。手が、力が、足りない。
今は――見ているだけだ。
だが。像は、浮かぶ。距離を取る者。
風を読む。 息を、殺す。 長く、待つ。
一瞬で、決める。
外さない。外しても――次を、用意する。
そういう手合い。個ではない。
技。 習い。 流れ。
つまり――残る。
名を消しても、形は残る。
ならば――形ごと、断つ。
個を消すだけでは、足りない。
系を、断つ。技を、断つ。思考を、断つ。
そのために
動け。 備えろ。 始めろ。
静かに。 確実に。
誰にも気づかれず。網を、張る。
点ではなく。面で、捉える。
逃がさない。逃がさぬように、作る。
構造を。
思い出す。
あの時。 遅かった。
気づいた時には、終わっていた。
だから――先に、置く。
見えない場所に。届く前に、止める。
それだけを、考える。視線は、変わらない。
外から見れば――何も。
ただの子。
ただ、聞いているだけ。
だが――内側は、違う。
決めている。
もう、二度と。
同じ形では、終わらない。
名は、記す。
杉谷善住坊。
消す対象ではない。
証だ。
“そういうものが在る”という証。
ならば――用いる。
いずれ。
同じ土俵に、立たせる。
逃げ場のない形で。
その時こそ――終わらせてみせる。
つづく
りっきゅん。中身は……
色々あったんだね
そして、少しずつ
世界に影響を及ぼしていきますっ




