第十話 森力丸の記憶 其のニ『乳飲み児の決意(おもい)』
さあさあ、りっきゅんの前々世でしたねー
魔法が使えるって、こういうワケ
前々世の能力使えるってチートや
チーターやあ
私は、初めから
他人とは違っていたようだ。
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暗い。 音が、 近い。
鼓動が 一定。 自分ではない。
だが――離れない。
温い。満たされている。
何も、要らない。
何も、出来ない。
ただ、在る。そういう場所。
やがて――光 眩しい。
冷たい。 空気が、刺さる。
肺が動く。 勝手に。
息。 声。 暗。 音。 近。
鼓動。 一定。
意図しない。
泣く。 止まらない。 身体が、小さい。
思うように、動かない。
手。 握る。 開く。
それだけで、精一杯。
重い。 遅い。 不自由。
理解した。
――赤子だ。
名も、役も、まだ無い。
ただの、始まり。
時間が、流れる。 速くはない。
遅い。
一つ、一つ。 積み上がる。
音。 声。
意味は、まだ無い。
だが――残る。
繰り返し。
同じ音。
同じ顔。
同じ手。
結びつく。
少しずつ。 少しずつ。
形になる。
視界。 ぼやけている。 輪郭だけ。
光と影。 動くもの。 止まるもの。
区別が、付く。 触れる。 確かめる。
口へ。 運ぶ。 味。 温度。
違いが、分かる。
蓄積。 繋がる。 遅い。
だが――確実。
やがて。
声が、音になる。
音が、意味になる。
断片。 単語。 繋がらない。
だが――知っている。
どこかで。
前に。
使っていた。
はずだ。
違和感。 残る。 消えない。
そして――滲む。別の、記憶。
光。 炎。 空を裂く雷。
崩れるもの。 焼ける匂い。
声。 名を、呼ばれる。
グレン。
多民族。 飛行機。 銃火器。
潜むもの。 硝煙の匂い。
声。 名を、呼ばれる。
甲斐。
断片。 繋がらない。
だが――重い。
自分のものだと、分かる。 理屈ではない。
確信する、己の経験。
同時に、おこる疑問。
違う、なにかが。
今の身体、動き。
小さい、届かない。
未熟、ぎこちない。
何も、出来ない。
知っているのに、出来ない。
焦りは、ない。
ただ――差がある。
それを、認識する。
繰り返す。音を、聞く。意味を、拾う。
形を、覚える。身体に、覚えさせる。
ゆっくり。 確実に。
森力丸。
一歳。
区切り。
この頃には――揃う。
全てではない。 だが、十分。
前世の記憶。 前々世の記憶。
記憶の断片が、繋がる、線になる。
次第に理解する。自分が、何であったか。
何を、見たか。何を、失ったか。
そして――今。何であるか。
赤子。
だが――中身は、違う。
思考は、止まらない。
周囲を観測する。
人、 言葉、 仕組。
まだ、動けない。
だが――見ることは、出来る。
考えることは、出来る。
違う。
空気が、違う。
匂いが、違う。
音が、違う。
ここは――“あの世界”ではない。
石も、鉄も、積み方が違う。
人の装い。言葉。振る舞い。
全てが、遅い。だが――荒い。
整っていない。均されていない。
だから、分かる。
あの時代とは、違う。
戦国時代。
国中が争いの只中。安定も守りも、無い。
暴力。 謀略。 そして、裏切り。
力が支配する世界。
そして、自分は。武家の子。
逃げ場は、無い。
弱ければ、終わる。 選べない。
ならば――作れば良い。
生きる形を。
身体を、動かす。
遅い。
重い。
思うように、いかない。
一歳の身体。
出来ることは、限られている。
だが――やる。
指。 握る。 開く。
出来ることを、繰り返す。
脚。 踏む。 力を、込める。 崩れる。
それでも、繰り返す。
無駄ではない。積み上がる。少しずつ。
確実に。
それで、埋める。そうやって埋める。
時間をかけ、いくらでも、やり直す、
積み上げる。
前とは、違う形で。
同じには、ならない。
ならせない。
だから――作る。壊れない形を。
この小さな身体で。
もう一度。
⸻
前世の知識は、使える。
この世界が、甲斐正義の知る、
あの時代なら。
だが――足りない。
この身体では、追いつかない。
時間が、かかる。その間に、来る。
いつでも。どこからでも。
暗殺。
理解している。経験している。
あの哀しみを、あの憐れさを。
一度ではない。
二度。
前々世。
そして、前世。
いずれも――同じ。
正しくあっても、力があっても、
意味がない
時代に、殺されてしまう。
ならば――別の力が要る。
抗う思考の繰り返しの中。
ある時、感じる。
違和感(この感覚)
身体の奥(解る)
熱ではない(暑さ寒さ)
重さでもない(いや違う)
流れ(巡っている)
触れる(有る)
意識を向ける(使える)
応じる(事象)
微かにだが――確かに。
動くぞ 使える 理解する 知っている
この“力”は――
魔力。
前々世の記憶が、繋がる。
断片ではなく 一気に
術式 構築 干渉 理が、戻る。
あの時の感覚。
世界を、書き換える側の力。
この身体に 小さいが 未熟
だが――在る。 それで、十分だ。
方向が、決まる。
鍛えるのだ、身体ではない。
まずは、この“力”を。 見えない力を。
増やし、蓄え、隠す。
悟られてはならぬ。気づかれてはならぬ。
使わない。見せない。充分になるまで。
徹底する。
同時に。
集める。
情報。
家。 血筋。 立場。
場所。 柵。 リスク。
誰が、何を握るか。どこに、刃が向くか。
どこが、空くか。
全て。 観る。 記す。 繋ぐ。
急がない。
(慌ててはならない)
急げば、露見する。
(知られてはならない)
露見すれば、終わる。
(繰り返すものか)
だから――隠れる。
(仮面をつけるのだ)
今は、何者でもない。
(偽り)
それでいい。
(潜む)
地位は、要らない。
(賞賛も)
名も、要らない。
(羨望も)
得れば――狙われる。
(身の丈に)
知っている。
(合わせる)
もう、同じにはならない。
(出る杭は)
ならせない。
(打たれる)
決める。
(自覚しろ)
いつ、いかなる時も。
(常在戦場)
暗殺だけは、されない。
(背後を取らせるな)
そのために、作る。
(壁を背に)
そのために、生きる。
(観測者となり)
力を。
(結束した)
構造を。
(組織を)
逃げではない。
(纏う)
最適解。
(操る側)
この時代で。
(その時に)
この身体で。
(備えて)
出来る、唯一の形。
(籌を)
矢面に出ず。
(帷幄の中に)
静かに、積み上げる。
(運らす)
まだ、誰も知らない。
(千里の外に)
この赤子が――
(勝つ事を)
何を見ているかを。
(決す)
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やがて、見えてきたもの。
どうやらここは、森家らしい。
那古野あたりか
父は、森可成。五男坊か、悪くない。
織田の家臣。重用されていた筈だ。
このまま、育って信長の小姓あたり。
つまり、
幼少期に暗殺される事は無さそうだ。
刻は、まだある。
来たる時まで、備えておく。
出来るか?
やってやるさ
二度目の転生者。三つ目の名。
過去の記憶、過去の想い。そして、力。
この時は、まだ同じ轍を踏まぬ為の
小さな子供の小さな決意でしかなかった。
つづく
前世、前々世が今世に及ぼしてる影響が
スッゴい大っきい
そして、今世は
どう生きてきたか
そして、いつ………




