第九話 北の大地(ニ) 其の六『気休めの報酬』
カッコイイですよね。国旗。
ざ、しんぷる。
白地は、元あった凍てつく大地。
そして、紫の雷⚡︎は、勿論
紫電。
とうとう国、出来ちまったな……
国が形を成していく
象徴は象徴として
じゃあ、オレは行くぜ……(-.-)y-., o O
◆樺太島
変わらないように見えて、変わっている。
流れは、速い。止まらない。
物が動く。人が動く。数が合う。言葉が通る。
その中心に――ある。
紅蓮商会。
受ける。渡す。揃える。
それは、今までと同じ。
だが――範囲が違う。
島全体だ。
どこで余り、どこで足りないか。
誰が持ち、誰が欲するか。
全てが、ここに集まる。
帳が、積まれる。数字が、並ぶ。
狂いは、無い。
遅れない。滞らない。途切れない。
流れを、止めない。回し続ける。
見えないところで。
名は、商い。
だが――働きは、それだけではない。
蓄える。余りを、残す。もしもの為に。
凶作。 病。 断絶。
来れば、放つ。迷わずに。
だから――崩れない。
人は、知らない。
どれだけが、預けられ。
どれだけが、残されているか。
知る必要も、ない。足りているからだ。
足りるように、なっている。
頼まれる。
「任せる」
それで、終わる。
疑わない。裏切らないと、知っているからだ。
紅蓮の名で、通る。
だが――その奥に、別の流れがある。
表に出ない帳。表に出ない配分。
動かしている者たち。
“草”。
数を見て、先を読む。足りぬ前に、動かす。
余る前に、逃がす。気づかせない。
気づく前に、整っている。
だから――混乱は、起きない。
国は、動く。
だが、誰も“動かされている”とは思わない。
自分で、選んでいると、思っている。
それでいい。
それで、回る。紅蓮商会。
表の顔。流通を担う者。
だが実際は――
この国の、血流だった。
◆独立国家シシリ。
建国して、初めて年が明けた。
雪が、緩む。固かった地が、
わずかに息をする。水が、流れ始める。
止まっていたものが、また動く。
それは――この地だけではない。
役目は、果たされた。
集め、繋ぎ、回し、形にした。
名も、持った。
シシリ。
もう、止まらない。
だから――離れる。
港。樺太南端の拠点。
影が、ある。大きい。鉄の艦。
開世丸よりも、さらに。厚い。重い。
規模的には、欧州列強の船に劣らない。
主砲。長い。太い。
この規模は、完全に圧倒している。
煙突が、低く唸る。水を押す。
ただ進むためだけに、造られている。
雪舟丸。
名が、刻まれている。
人が乗る。多くの乗組員。整っており、
無駄が、ない。
黒脛巾組そして“草”。混じる。
だが、乱れない。
その前に、立つ。紫電。遠くを、見ている。
足音は、忠太。
一歩、出る。
「……お供いたす」
短い。
紫電は、見ない。
「儂の旅じゃ」
一拍。
「邪魔は、要らぬ」
それだけ。拒絶ではない。命令でもない。
忠太は、動きを止めた。
それ以上は出ない。理解する。
残れ。支えろ。
言葉は、無い。だが――十分だった。
紅蓮が、いる。この地が、ある。
守るべきものは、ここにある。
それで、いい。
少し離れた場所。つぐが、立つ。
風に、髪が揺れる。目は、逸らさない。
近づかない。
「……兄上」
小さく。
誰にも届かぬほどに。
笑う。ほんのわずかに。
泣かない。選んでいる。見送る側を。
胸の内で、結ぶ。
――帰る場所は、ここにある。
秀雄は、動かない。視線だけで、追う。
「……行ってらっしゃい」
声には、出さない。
分かっている。紅蓮の名を返したその先。
ここからは、自分自身として。
守亮は、群れの中にいる。
気配を消し、全体を視る。
「……異常なし」
誰にともなく、内で告げる。
配置は整い、穴は無い。
だが、目は艦から離さない。
最後まで、監視する。
見送るというより――守り切る。
紅蓮。
少し後ろ。肩の力が、抜けている。
だが、目だけが鋭い。
「……面白くなるな」
独り言。
名を変えた先にある“これから”を、
測っている。
外へ向かう一手と、内に残る一手。
どちらも、見ている。
荻は、静かに立つ。
微動だにしない。
「……ご無事で」
短く。
祈りではない。確認だ。
生きて帰る者の歩き方を、知っている。
だから、余計な言葉は置かない。
トノ。モレウが、来ている。
町長たちの列の先。特別な位置ではない。 だが、中心にある。
帽を取る。風に、晒す。
「行かれるか」
問いではない。確かめでもない。
紫電は、答えない。
モレウは、頷く。
「ならば――ここは、任されよう」
短い。
十分だ。託される側の言葉として。
町の民。群衆。静かだ。ざわめきは、ない。
子が、手を振る。母が、その手を包む。
「……あの人が、やったんだろ」
「さあな」
知らない。だが、分かっている。
「シシリから、行くんだってさ」
その言い方が、残る。
紫電は、動く。艦へ。乗る。
音が、変わる。低く。重く。動き出す。
水を、裂く。ゆっくりと。
紫電
「では、気休めに行って参る」
進む艦。確実に。離れる。
地から。境へ。越える。荒れる海へ。
だが――止まらない。
雪舟丸は、進む。道は、無い。
だから、作る。外へ。世界へ。
つぐは、最後まで目で追う。見えなくなる直前、息を一つだけ吐く。
紅蓮は、背を向ける。もう、次を見ている。
守亮は、配置を解く。通常へ戻す。
秀雄は、笑う。小さく。
荻は、静かに去る。影に戻る。
モレウは、帽を戻す。顔を上げる。
誰も、追わない。誰も、止めない。
ただ――見送る。それで、十分だった。
シシリは、残る。回り続ける。
紫電は、進む。
その先は――まだ、誰も知らない。
死んだはずの男。織田三郎信長。
命を拾われ、甲斐紫電成行となった。
共謀者としての務めを終え、
夢へとの船出であった。
シシリ。
表の顔、紅蓮商会。そして、影に黒脛巾組。
国家の体制は、整い。真の地盤が出来た。
シシリの群衆は、次第に日常へと帰る。
残る者。
紅蓮、秀雄、守亮、忠太、つぐ、荻。
五人。そして、黒脛巾組。 “草”
忠太
「行きたかったか」
つぐ に問う。
「少し…な」
笑って見せる。
忠太
「あの方らしいな、気休めとは」
つぐ は、ハッとする。気付く。
“今生の別ではない”
忠太
「のう、儂らは、あとどれぐらい働けばよい」
今度は、紅蓮に問う。
笑う、紅蓮。
「ハッハッハッ」
「私に、問うということは」
「何かをご所望で」
理由を問う。
忠太
「むっ」
考えていなかった。
「何にしようかのう」
つぐ を見る。
「私は特にないぞ」
「生きてるだけで丸儲けじゃ、」
つぐ は、本心から笑っていた。
番忠太
「ならば………一国の主」
紅蓮の顔色を見る。
「そういうことなら」
紅蓮
「相応に働いていただく」
紅蓮、ニヤリと笑う。
忠太
「本当か!二言はないぞ!」
思いがけぬ朗報に緩む顔。
守亮
「なにか、興味深い話ですね」
話に入ってくる。
紅蓮
「悪いな、守亮」
笑顔のまま。
「この件は、若者には適用しない」
守亮
「それは残念です」
肩をすくめて見せた。
紅蓮
「それに、守亮には新しい任務がある」
そう言って、密書らしき物を手渡し、
何かを囁いた。
紅蓮
「皆には着いて来てもらうつもりだ」
「次の地は、桁が違う」
「覚悟してくれ」
紅蓮は、そう言い残して行った。
守亮は、米沢帰還の命をうけた。
密書の内容により、配置が変わる。
守亮は、このまま第二中隊と重定で、
伊達を補佐する。
新たな地への準備。
本土からは、
黒脛巾組第一中隊、
第三中隊、
第四中隊甲小隊、丙小隊、
を呼び寄せた。
新たな地へ。
紅蓮は、見渡す。
既に集まっている。確認。
ナギ、クラ、弥七、月叟、つき、荻、
そして、忠太と つぐ 。
紅蓮
「今回の任務が、恐らく最大の任務となる」
つづく
大きな仕事を終えて、信長公は夢の旅路。
紅蓮は、なにを見据えているのか。




