第九話 北の大地(ニ) 其の一『民主国家の芽』
樺太のことは、正直よくわかりません。
知識がなくて。
なので、かなり語弊があったりしそうです。
ただ、これはパラレルワールドなので、
お許し願いたいっ
m(_ _)m
北の空は、高い。
風は冷たい。
だが――
もう、“死の気配”は無かった。
◆オハ。
海は、凪いでいる。
港。舟が、戻る。魚が、揚がる。
人が、笑う。子供が、走る。
その手には、食べ物。
囲われた放牧地。白い息を吐く、羊。
その柵は、崩れない。
風を受けても、倒れない。
その傍ら。立つ、案山子。布が、揺れる。
だが――
その周囲だけ、わずかに空気が違う。
寒さが、和らいでいる。
力丸の結界。
既にーー樺太全島を護るだけの、
結界装置を設置していた。
本来の凍てつき、暴風、濃霧を軽減。
案山子。
その周囲だけ、土が違う。
いつの間にか、潤っている。
これも結界装置。
中心とした一定区画を護る保護結界。
放牧地の柵。
囲われた区画は、家畜に安らぎを与える。
その区画の牧草は、なぜか年中枯れない。
やはり、これも力丸の保護結界装置。
誰かが、言う。
「紫電様の……」
誰も否定しない。
畑。 土は、黒い。芽が、出ている。
この地では、本来あり得ぬ光景。
それでも――人は、疑わない。
「紫電様が……」
言葉が、繋がる。
道具がある。壊れない。使いやすい。
それを、持ってきたのも――
あの男だ。
紫電。
名は、静かに広がっていた。
そして――繋がる。
魚を持つ者が、穀を求める。
穀を持つ者が、鉄を求める。
鉄を持つ者が、塩を求める。
直接ではない。
その間に、いる。
紫電。預かる者。繋ぐ者。返す者。
ーーーそして、奪わぬ者。
争いは、起きない。奪わないからだ。
必要なものが、巡る。
人が、集まる。食える場所に。
壊れぬ場所に。暖かい場所に。
理由は、単純だった。
だから―― 広がる。
集落が、増える。人が、増える。
そして、関係が、増える。
それはもう、“点”ではなかった。
まだ、国ではない。
だが――確かに、“形”になり始めていた。
その噂は、海を越える。
蝦夷地。
小さな漁村。小樽。
ここには、まだ何もない。
だが――知っている者は、知っている。
北に、“違う土地”があると。
寒くない。 飢えない。 壊れない。
そんな話が、静かに、広がっていた。
誰かが言った。
「……理想郷だ」
否定する者は、いなかった。
だから――人は、動く。
荷をまとめる。家を出る。
小樽港。移民する人たち。乗り込む艦。
そこに刻まれた誰にも読めない文字。
だが——それが
“名”であることだけは、分かった。
“開世丸”
北へ。より良く、生きる為に。
流れは、もう止まらない。
それは、誰かが強いたものではない。
ただ――“そうしたくなる”だけだった。
北へ向かう流れは、止まらない。
海を渡る者。陸を伝う者。
噂を頼りに、ただ北を目指す。
◆小樽。
まだ何もない、ただの漁村。
だが――集まる。
荷を背負い、家族を連れ、あるいは一人で。
誰もが、不安を抱えている。
それでも――足は止まらない。
「本当に、あるのか」
「寒くない土地が」
「食える場所が」
答えは、誰も知らない。
だが。
「行けば、分かる」
それだけで、十分だった。
⸻
港。船が、出る。
何度も。 何度も。
小さな舟。
そして――鉄の船。
見たことのない形。
音を立て、煙を吐き、海を切り裂く。
人は、息を呑む。
「なんだ……あれは」
だが、恐れよりも――期待が、勝る。
⸻
甲板。
人が、並ぶ。黙っている者。
祈る者。
眠る子を抱く者。
その中に――紛れている。
何食わぬ顔で。
黒脛巾組の“草”。彼らは、見ている。
人の顔を。
覚悟を。
揺らぎを。
そして――選ぶ。
「……残るか」
小さな声。
誰に言うでもない。
だが、その問いに――自分で、答える。
「……ああ」
帰る場所は、ある。
だが――ここには、“これから”がある。
◆北の地。オハ。
舟が、着く。降り立つ。
冷たい風。
だが――
「……あれ」
誰かが、呟く。
思っていたほどではない。
凍てつくはずの空気が、どこか、柔らかい。
人は、顔を上げる。見える。
畑。 柵。 煙。
そして――人の営み。
「……本当、だったのか」
迎える者が、いる。差し出される。
魚。 水。 火。
そして、場所。それだけで、十分だった。
⸻
時間が、流れる。
一日。
二日。
人は、動き始める。
手伝う者。 学ぶ者。 真似る者。
やがて――馴染む。
“草”もまた、同じ。
命じられた通りではない。
だが――離れない。
「……ここでいい」
誰かが、そう決める。
こうして、黒脛巾組の忍び衆。
そして、奥州での“草”たちから、
何名かの移住者が現れた。
移住は、命令では無い。選ばせる。
奥州の忍びから、樺太の忍びへ。
新国家を支える者へ。と、役割を変える。
⸻
名を捨て。過去を、置く。
そして―― 新しい名を、持つ。
“草”にとって、それは常である。
だが、選ばせた。
北の地に、人が根を下ろし始める。
蝦夷地からの移民。そして、“草”たち。
まだ、国ではない。
だが――もう、ただの集まりではない。
それぞれが、自ら選び、ここにいる。
その事実だけで、十分だった。
樺太の暮らしは豊かになり、人が増えた。
◆港。 舟が、重なる。
着く船。待つ船。出られぬ船。
声が、上がる。
「順だ」
「先に来たのはこっちだ」
「魚が傷む」
「荷が先だ」
小さな、言い争い。
だが――数が、違った。
⸻
◆放牧地。
柵の外。或いは中。
「そこは、うちの……」
「いや、前から……」
踏み荒らされた草。 睨む目。
⸻
◆畑。
水を引く、溝。
「流れが変わってる」
「誰がやった」
どれも、小さい。
だが――消えない。
番忠太は、港に立つ。腕を組む。
「……増えすぎたな」
船も。人も。荷も。良いことだ。
だが――捌ききれない。
◆火のそば。
つぐの周りに、人が集まる。
声が、落ちる。
「揉めたくは、ない」
「でも……」
「決める者が、いない」
つぐは、聞く。遮らない。
否定しない。
ただ――受ける。
⸻
◆少し離れた場所。
守亮は、見ている。人の流れを。
言葉の向きを。
誰が、どこで止まるか。誰が、誰に寄るか。
そして――何も、言わない。
⸻
◆夜。
火が、いくつも灯る。
やがて。
自然と――集まる。族長たち。
輪。
誰も、上に座らない。誰も、仕切らない。
だが――沈黙は、長くない。
「……増えたな」
「ああ」
「良いことだ」
「だが、決めることも増えた」
「……誰が決める」
誰も、答えない。
だが――同じことを、思っている。
「一人、立てるか」
視線が、動く。迷いは、無い。
「紫電様が」
頷きが、重なる。当然のように。
「いや」
静かに、断たれる。
紫電。
炎が、揺れる。
紫電。
「俺は、外から来た人間だ」
一拍。
「この土地は、お前たちのものだろう」
誰も、言い返さない。
「決めるのも――お前たちだ」
沈黙。
だが――否定は、出ない。
風が、抜ける。 火が、揺れる。
「……持ち帰るか」
誰かが言う。それで、決まる。
話は、散る。
それぞれの場所へ。
それぞれの人へ。
家で。 火のそばで。 畑で。 港で。
名が、上がる。
強い者。 富む者。 古い者。
だが――決まらない。
“草”は、混じる。
誰の顔もして。
誰の声でもなく。
「……あの者は、どうだ」
ぽつり。
「話を、最後まで聞く」
それだけ。
別の場所でも。
「……あいつは、聞く」
また、別の場所でも。
「途中で、遮らない」
理由は、小さい。
だが――揃っていく。
名が、残る。
ステノ。
名を聞いても。誰も、顔をしかめない。
誰も、笑わない。
「……ああ」
それだけで、十分だった。
再び、集まる。族長たち。
「異論は」
無い。
ステノは、戸惑う。
「……俺で、いいのか」
誰かが、言う。
「聞くからな」
短い。
だが――それで、決まる。
ステノは、頷く。ゆっくりと。
「……分かった」
それは、命令ではない。宣言でもない。
ただ――引き受けた。
族長たちが、並ぶ。上下は、ない。
「まとめる」 「支える」 「分ける」
言葉は、少ない。
だが――通じている。
形が、生まれる。まだ、名は無い。
だが――
もう、ただの集まりではなかった。
それからは、
大きな混乱は、起きなかった。
声は、消えない。
だが――ぶつからない。
話し、決め、分ける。
ただ、それだけが、続く。
ステノは――よく、聞いていた。
それで、十分だった。
族長たちは、並ぶ。上下は、ない。
だが――止まらない。
人は、集まり続ける。
物は、巡り続ける。
争いは、起きない。
まだ、名は無い。
だが――確かに、“形”になっていた。
小さな――だが、確かな。
“まとまり”が、そこにあった。
つづく
さてさて、人が集まりました。
それでは開拓のド定番を、やっていきます
よっと
(-.-)y-., o O




