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第八話 北の大地(一)         其の六『一方、米沢では』

力丸たちが暗躍しておりますなあ

その頃

米沢では、

みたいな話です

 時は少し戻る。

賤ヶ岳の作戦を終えた、黒脛巾組。

米沢へ戻る道。


 足音だけが、静かに続く。


 賤ヶ岳。激戦。

だが――任務は、果たした。


 だからか。どこか、軽い。

しかし――

  胸の奥に、引っかかるものがある。


    忍び

「……小次郎殿は」


 誰かが、ぽつりと呟く。


    忍び

「戻っているはずだ」


 それ以上は、言わない。

言葉にするには、まだ曖昧だった。


 違和感。


 米沢。


 城下は、いつも通りの顔をしている。

人の流れ。商いの声。 冬の匂い。


 忍びたちは、散る。

それぞれが、“草”として。

 耳を落とす。

 視線を流す。

 何気ない会話の中に、潜る。


    町人

「聞いたか」


    別の町人

「なんだ」


    町人

「伊達小次郎様よ」


 一瞬。


    町人

「出家なされたそうだ」


 何気ない声音。

だが――

 拾う者には、重い。


    別の町人

「は?あの御方が?」


    町人

「関東の寺だとよ」


    別の町人

「名も変えたとか」


    町人

「……秀雄、だったか」


 その名。


 忍びの一人が、僅かに視線を落とす。

別の場所でも。


    商人

「急な話だな」


    農夫

「戦の前から決まってたらしい」


    商人

「ほう……」


    農夫

「なんでも、俗世を離れるとか」


 “出来すぎている”


 断片が、集まる。

忍びたちは、言葉を交わさない。

 だが――

理解は、共有される。


 賤ヶ岳。 米沢不在。 出家。

線が、繋がり始める。


   一方。


 城内。

静かな一室。


 ナギとクラが、座している。


 対面するのは――

忍び衆奉行。

 安倍重定。

     空気は、静かだ。


    重定

「……聞き及びましたか」


    ナギ

「はい」


    クラ

「城下でな」


    重定

「ならば、話は早い」


 一拍。


    重定

「その噂。事実でござる」

      余計な言葉はない。


    ナギ

「関東の寺、ですね」


    重定

「左様。弟子入りし、名を改めた」


    クラ

「……秀雄、か」


     静かな確認。


    重定

「表向きは、な」


    一瞬。空気が変わる。


    ナギ

「……やはり」


    重定

「賤ヶ岳。そして――来年」


    クラ

「まさか、政宗の家督相続か」


    重定、頷く。


    重定

「伊達の内は、揺れる」


    ナギ

「小次郎殿は、その“芯”にいる」


    重定

「左様」


      一拍。


    重定

「ゆえに、消した」


 静かな断定。


    クラ

「消えた、やない。と」


    重定

「消した、だ」


 言葉が重なる。


    ナギ

「……参戦中の不在」


    クラ

「その間に、身分ごと処理」


    重定

「そして、以後の火種を断つ」


 無駄がない。


    ナギ

「……徹底していますね」


    重定

「それだけではない」


     一瞬の間。


    重定

「盤から降りたのだ」


    クラ

「伊達小次郎、いう駒をか」


    重定

「そうだ」


    ナギ

「……では」


 視線が、重定へ。


    ナギ

「今の力丸は」


    重定

「最早、どこにも属していない」


 静かに。


    重定

「ゆえに、どこにでも打てる」


     沈黙。


 理解が、落ちる。


    クラ

「……やりよるわ」


    ナギ

「まったく」


     一拍。


    ナギ

「戦っているのではない」


    クラ

「盤そのものを、動かしとる」


 重定は、何も言わない。

     ただ、僅かに目を細めた。


 姿は無い。

だが――確実に、先にいる。


 伊達小次郎は、消えた。

   残るは、秀雄。


 そして――森 力丸。


 米沢の空は、静かだった。

何も変わらぬように見えて、

        すべてが、動いている。



 人の流れは、穏やかだった。

荷が運ばれる。樽。布。乾物。

 静かに、だが絶えず。

  忍びが、すれ違う。

   視線は交わさない。

    だが、動きだけで分かる。

     全て、滞りなく進んでいる。


 城の裏手。小さな集積所。

女たちが、町娘の姿で荷を仕分けている。

 その中に、一人。

       荻。

 言葉は、ない。 手だけが動く。

 布を畳む。紐を結ぶ。重さを測る。

 誰かが迷えば、すでに隣にいる。

 何も言わず、手を添える。

   視線が、外へ向く。


 子供が一人。 転びかける。


 一歩。


 荻の手が、伸びる。支える。


    荻

「……気ぃつけで」


 小さく。柔らかい声。

子供は、頷く。走っていく。

 その背を、ほんの一瞬だけ見送る。

 そして、戻る。何事もなかったように。


 再び、手が動く。

 周囲もまた、同じ。

 誰も止まらない。

 誰も乱れない。

ただ――すべてが、静かに回っている。

 遠く。荷が運び出される。

行き先は、北。

 まだ、誰も知らない。

 その先で、何が起きているのかを。



 米沢の朝は、まだ静かだった。

だが――空気だけが、違っていた。

 裏手の詰所。戸が、勢いよく開く。


    ナギ

「……来たか」


 差し出された文。短い。だが、十分だった。


    ナギ

「北で、病か……」


 一拍。


    ナギ

「三日と持たぬな」

        空気が、変わる。

    ナギ

「クラ」


    クラ

「聞こえとる」

        いつの間にか、背後。


    ナギ

「薬材を集める。全部だ。だが――」

       一瞬で切り替わる。

「質を選ぶ。粗悪は要らん」


    クラ

「ほな、ええもんだけ“かっさらう”で」

    軽い口調。


だが―― 総動員。

   その一言で、全てが動いた。


   城下。   商家。 

 蔵。扉が、開く。

鍵は―― 意味を持たない。


 人が走る。影が走る。 問わない。

理由も、対価も。

 ただ――

必要なものだけが、選ばれていく。


 薬草。 乾燥根。 粉末。

            選別は、速い。


    ナギ

「それは捨てろ。純度が低い」

    迷いがない。

「量は要らん。効くものを、最小で揃えろ」


 積み上がるのは、“選ばれたもの”だけ。

時間が、削られていく。


    忍び

「これで、足りますか」


    ナギ

「足りん」

     一拍。

「だが――間に合わせる」

    振り返る。

「クラ」


    クラ

「もう行っとる」

    笑う。


 その裏で、さらに物が動いている。


人の手を渡り、道を飛ばし、距離を潰す。

 異常な速度。

そして――集まった。


 最小。だが、十分。


その時。足音。並ぶ、女たち。町娘の姿。


 くノ一――丙小隊。

先頭。 荻。      言葉は、ない。

        視線だけで、確認する。


  荷。 量。 配置。

すでに、理解している。


    ナギ

「敵は北の大地にあり」


「疫病を討つ」

    短く。


    ナギ

「治療と看護。戻れる保証はない」


     沈黙。


 誰も、動かない。

荻が、一歩前へ出る。


    荻

「……承知」

    小さく。だが、はっきりと。

 頭を、下げる。

それだけ。

 他の者も、続く。誰も、問わない。

覚悟は――共有されている。


 外。  まだ、夜明け前。

荷が運ばれる。静かに。


 整列。   名は呼ばれない。

合図もない。

 ただ――全員が、分かっている。


    クラ

「ほな、頼むで」

    軽い声。


 だが、その目は、笑っていない。


    ナギ

「時間がない」


     一拍。


    ナギ

「――行け」


 その瞬間。空間が、歪む。

      グニャ……

 光が、走る。

      バチッ

 力丸。すでに、そこにいた。


    力丸

「揃いましたか」


    ナギ

「ああ、最小で、最大だ」


    力丸

「ありがとう」

    視線が、荻へ。


     一瞬。


 頷く。それだけで、通じる。


    力丸

「出る」


 全員が、荷を掴む。音が、消える。

風が、止まる。


 次の瞬間――

          消えた。


     静寂。


 残されたのは、何もない空間。


ナギとクラだけが、立っている。


    クラ

「……間に合うんかいな」


    ナギ

「間に合わせる」


     一拍。


    ナギ

「俺たちは、そういう役目だ」


 朝日が、差し込む。米沢は、変わらない。

 だが――

すべては、もう動いている。





       つづく



小次郎生存説。

きましたね。

使わせてもらいました。

少し、前倒しですが、伊達家が揺れる前に

賤ヶ岳参戦のアリバイ工作として、

出家した体で、米沢を空けました。

もう、何者でも無い存在です。

それで良いんでしょーか( ̄∇ ̄)

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