第八話 北の大地(一) 其の四『水を撒く』
小樽、オハに上陸。
この世界になかった国造り。
出来るハズのない場所に
ありえない国が
力があるとはいえ、簡単に出来るでしょうか
北の海。
空は低く、風は重い。
ゴォォ……
白い息が、絶え間なく吐き出される。
足元は凍り、土は硬く閉じている。
だが――
ザァ……
海は、生きている。
⸻
オハ近海。
粗末だった入り江に、変化が生まれていた。
木材が組まれ、
簡素ではあるが“形”になり始めた構造物。
番忠太
「ほう……形になってきたな」
腕を組み、満足げに頷く。
忍び
「はい。足場は安定しました。
これで船の接岸も可能になります」
番忠太
「よし。漁が出来ねば、話にならんからな」
⸻
海岸。
現地の者たちが、距離を取りながら見ている。
警戒。
疑念。
そして――わずかな期待。
つぐ、静かに前へ出る。
「……怖がらせるでない」
番忠太
「おう」
だが声は大きい。
つぐ
「声が大きい」
番忠太
「すまん」
つぐは、ゆっくりと腰を落とす。
目線を、合わせる。
つぐ
「取って食うわけではない」
柔らかい声。
布を差し出す。
厚手の、防寒用の衣。
つぐ
「寒かろう」
現地の女が、戸惑いながら受け取る。
指先が、触れる。 冷たい手。
つぐ
「……生きておるな」
小さく、笑う。
⸻
紫電は、少し離れた場所から見ている。
紫電
「よい」
その視線は、鋭いまま。
だが、口元は緩んでいる。
⸻
別の場所。
小さな囲い。地面が、掘り返されている。
守亮配下の忍び
「ここまでは、予定通りです」
力丸
「……」
土を手に取る。
砕けない。 凍り付いている。
力丸
「では」
手をかざす。
ゴ………
空気が、変わる。
見えない何かが、地面へ沈む。
ミシ……
ミシミシ……
凍土が、わずかに緩む。
忍び
「……!」
力丸
「まだ浅い」
静かに。
「だが、足りる」
⸻
別地点。
小さな集落。 煙が、少し増えている。
粗末だった小屋に、変化。
補強された壁。
隙間を塞ぐ布。
紫電
「どうだ」
言葉を交わす。
相手は、まだ警戒している。
だが――
頷いた。
つぐ、小さく息を吐く。
「……通じたか」
⸻
影の中。
火を囲む数人。
草の忍び
「見たか」
「寒くない布を持ってきた」
「食も、増えるらしい」
囁き。
「……あの男」
「偉い者、らしいぞ」
火が揺れる。
⸻
小樽。
静かな港。まだ、何も起きていない。
だが――
船が一隻、また一隻と入る。
音を立てずに。
コト……
紅蓮
「……順調です」
守亮(通信越し)
「了」
紅蓮
「だが……」
視線が、港の外へ向く。
「静かすぎる」
⸻
オハ。
再び。子供が一人、港の近くに来ている。
魚を、見ている。
番忠太
「食うか?」
差し出す。
子供、躊躇。
つぐ
「……大丈夫じゃ」
静かに。
子供が、受け取る。 一口。
目が、変わる。
番忠太
「はっはっは!うまいだろう!」
つぐ
「声が大きい」
⸻
その光景を、少し離れた場所から見る者。
年老いた男。
何も言わず、ただ見ている。
その目は――警戒ではない。
“測っている”
⸻
力丸は、立っている。
風の中。すべてを、見ている。
港。 土。 人。
一拍。
力丸
(動き出した)
だが――
(まだ、繋がっていない)
⸻
波の音。
ザァ……
風の音。
ゴォ……
人の声。 微かに、増えている。
⸻
確かに、前に進んでいる。
だがそれは――
まだ、“点”に過ぎない。
国家になるには、 “線”が要る。
北の大地。
風は、変わらず厳しい。
ゴォォ……
だが――
人の気配が、増えていた。
オハ周辺。 港。
木材が組まれ、船が寄る。
ザァ……
魚が、上がる。
番忠太
「よし、いいぞ!」
つぐ
「声が大きい」
⸻
別の集落。
地面。黒い土が、露出している。
湯気。
民
「……温かい」
手を当てる。凍っていない。
その中央に――一本の、案山子。
粗末な作り。
だが、どこか異質。
分からないが、不思議な力が感じられる。
民
「……あの男が、置いていった」
別の民
「“守る”と言っていた」
少し離れた場所。
紫電
「うむ」
腕を組み、満足げ。
つぐ
「……本当に、効いておるのか?」
紫電
「知らぬ」
一拍。
紫電
「だが、効いておる」
つぐ
「なんじゃそれは」
⸻
別の地。
囲い。木で組まれた柵。
その中――
羊。
メェェ……
民
「……逃げぬ」
別の民
「囲われている」
草を食む。生きている。
紫電
「増えるぞ」
民、ざわつく。
⸻
さらに別の集落。
干された魚。積まれた皮。使いきれない量。
民
「……余るな。どうしたものか」
そこへ――
紫電、一歩前へ。
「預かろう」
民
「……?」
紫電
「代わりに、これを」
袋を差し出す。穀物。
民
「……食べられる」
紫電
「うむ」
一拍。
紫電
「持っていけぬ物は、持たぬ方がよい」
「必要な物に、変える」
⸻
別の場所。
別の集落。
民
「魚はある。だが……穀が無い」
そこへ、同じ袋。
民
「……!」
⸻
さらに別の集落。
民
「着る物が、足りぬ」
⸻
別の品が届く。
⸻
それぞれが、足りぬものを補う。
誰が運んでいるのか。誰が繋いでいるのか。
明確には、分からない。
だが――
民
「……あの男だ」
民
「紫の者」
噂が、流れる。火を囲み。
夜の中で。
声
「持ってくる」
「繋げる」
「困らぬようにする」
影の中。
草の忍び
「……広がっている」
別の忍び
「名が、先に行く」
⸻
小樽。 港。
コト……
静かに荷が積まれ、降ろされる。
紅蓮
「流れが、出来ている」
配下
「はい」
一拍。
紅蓮
「……誰も、逆らわぬ」
⸻
オハ。
子供たちが走る。笑い声。
魚を持つ。パンをかじる。
笑顔。
つぐ、それを見る。
「……変わったな」
紫電
「うむ」
一拍。
紫電
「良い」
⸻
遠く。
複数の集落。煙が、増えている。
灯りが、増えている。
そして――
それぞれの集落に、
“違い”が生まれていた。
ある地は、穀を育てる。
ある地は、魚を獲る。
ある地は、獣を飼う。
それぞれが、“得意”を持つ。
そして、それぞれが、 “足りない”を持つ。
ゆえに――繋がる。
力丸は、遠くからそれを見ている。
力丸
(形になっている)
一拍。
(だが――)
⸻
線は、まだ細い。切れれば、終わる。
風が吹く。
ゴォ……
波が打つ。
ザァ……
それでも、人は、もう知ってしまった。
“繋がる方が、楽に生きられる”
国家は、まだ無い。
だが――その“前段”は、
確実に、出来始めている。
じゅんちょー
このまま何事もなく
平和な国造りができますように




