第八話 北の大地(一) 其の三『種を蒔く者たち』
あの艦
久しぶりに出てきましたよっ、と。
さて、あの艦は………
釜石の夜。
波の音が、静かに続いている。
ザァ……
力丸
「役割を、決める」
沈黙。
誰も、言葉を挟まない。
これは――もう、“構想”ではない。
力丸
「まず、中継点」
一拍。
力丸
「蝦夷地に、港を作る」
紅蓮、目を細める。
「……拠点の前段階」
守亮
「補給路、ですか」
力丸
「そうだ」
静かに。
力丸
「樺太へ直接は入るのは困難」
「距離、気候、
そして、補給――すべてが不安定」
一拍。
力丸
「だから、“繋ぐ”」
紫電
「……橋、か」
力丸
「そうです」
波の音。
力丸
「場所は、小樽」
紅蓮へ視線。
力丸
「任せる」
紅蓮
「……私ですか」
力丸
「守亮殿、あなた方の配下から、
一個小隊をつけて頂く」
守亮
「承知」
一拍。
力丸
「条件は一つ」
紅蓮を見る。
紅蓮
「……なんでしょう」
力丸
「目立つな」
沈黙。
紅蓮
「……平和的に、ですね」
力丸
「その通り、港は作る。
だが、“作ったと思わせない”」
紅蓮
「……痕跡を残さず」
力丸
「商いに紛れ、漁に紛れ、
気づけば、そこにある」
守亮、わずかに笑う。
「得意分野ですね」
⸻
力丸
「次に――樺太」
空気が、変わる。
力丸
「北部。オハ」
番忠太(勝家)、腕を組む。
「いよいよか」
力丸
「ここは、厳しい」
「だが――だからこそ、起点にする」
一拍。
力丸
「まずは、港だ」
番忠太
「町ではなく、か」
力丸
「そう。食を繋ぐのは、海」
波の音。
ザァ……
力丸
「漁が安定すれば、人は死なず
死ななければ、増える」
番忠太、頷く。
「分かりやすいな」
力丸
「ここは――」
番忠太を見て。
力丸
「番忠太殿、お任せする」
番忠太
「任された」
一拍。
力丸
「守亮殿の配下から、一個小隊」
守亮
「……承知」
力丸
「拠点は、後。まずは、漁港の整備だ」
番忠太
「腹が先、か」
力丸
「ああ」
⸻
力丸
「そして――」
視線が動く。
力丸
「紫電様、つぐ様」
紫電、口角を上げる。
「来たか」
つぐ、静かに見る。
力丸
「お二人には、別の役目を」
一拍。
力丸
「戦ではありません。支配でもありません」
つぐ
「……ならば」
力丸
「“顔”になって頂きます」
沈黙。
紫電
「顔、とな」
力丸
「はい」
「集落を回って頂く、
道具を配り、困り事を聞く」
一拍。
力丸
「ただ、それだけです」
つぐ
「……それで、良いのか」
力丸
「それが、良いのです」
静かに。
力丸
「“この和人は害ではない”」
「そう思わせる」
紫電
「信頼、か」
力丸
「奪わず、命じず、助ける」
つぐ
「……根回し、じゃな」
力丸、わずかに笑う。
「その通りです」
守亮
「随伴は」
力丸
「一個小隊および、
守亮殿には、護衛兼、補助を」
⸻
力丸
「残り、一個小隊には」
空気が、少し冷える。
力丸
「“草”に、なってもらう」
紅蓮
「……内部潜入」
守亮
「各集落に、ですか」
力丸
「その通り」
一拍。
力丸
「溶け込み、隣人となり、家族になる」
番忠太
「地味だな」
力丸
「これが、この戦略の要」
静かに。
「そして――噂を流せ」
紫電、ニヤリとする。
「儂の、か」
力丸
「ええ」
「“優しい和人がいる”
“助けてくれる者がいる”」
一拍。
力丸
「それでいい」
守亮
「……印象操作」
紅蓮
「土壌を作る」
つぐ
「人の心を、先に耕す」
力丸、頷く。
「その通りです」
⸻
沈黙。
全てが、配置された。
人も、役目も、流れも。
守亮
「……では、貴方は」
視線が集まる。
力丸
「私は――全てを」
番忠太
「は?」
紫電
「全部、とは」
力丸
「土を変え、風を止め、水を引き
そして、場所を作る」
静かに。
力丸
「“生きられる地”を、用意する」
波の音。
ザァ……
紅蓮
「……基盤そのもの」
守亮
「環境支配」
つぐ
「……この男」
紫電
「やはり、面白い」
⸻
夜。 海。
そして――動き出した、国家。
まだ名も無き“器”は、
静かに、確実に、形を持ち始めていた。
波の音が、変わらず続いている。
ザァ……
役割は、すべて定まった。
誰が、どこで、何をするか。
――あとは、動くだけ。
一拍。
紫電
「……ところで」
腕を組み、海を見やる。
「この艦。名は、あるのか」
一瞬。
全員の視線が、海へ向く。
闇の中に浮かぶ、巨大な影。
鋼鉄。異質。
この時代に在ってはならぬ存在。
番忠太
「おお、そういや無いな」
つぐ
「……無かったのか」
守亮
「識別上も、必要ですね」
紅蓮
「呼称は、あった方が良い」
視線が、一人へ集まる。
力丸
「……そうですね」
少しだけ、考える。
風が吹く。
サァ……
海の匂い。
これから向かう先。
海の向こう。
まだ見ぬ、世界。
番忠太
「“勝丸”でどうだ」
沈黙。
つぐ
「却下じゃ」
番忠太
「早いな!?」
守亮、苦笑。
紅蓮、無言で首を振る。
力丸、ゆっくりと口を開く。
「……開世」
静かに、落ちる言葉。
紫電
「……ほう」
力丸
「世界を、開く」
一拍。
力丸
「この艦は、その為のもの」
沈黙。
波の音だけが、響く。
ザァ……
紫電、口角を上げる。
「よい」
つぐ、頷く。
「……分かりやすい」
紅蓮
「理念と一致しています」
守亮
「異論ありません」
番忠太
「うむ……なんか凄そうだ」
力丸
「では」
「“開世丸”とします」
決まった。
名が与えられた瞬間、
それはただの艦ではなくなる。
意思を持つ。 役割を持つ。
――国家の象徴となる。
力丸
「では、行きましょう」
紫電
「いよいよ、か」
つぐ
「……早いのう」
番忠太
「準備は良いぞ」
守亮
「各隊、既に待機しております」
紅蓮
「いつでも」
静寂。
力丸、右手を上げる。
空間が、歪む。
グニャ……
空気が、引き絞られる。
音が消える。
バチッ……
バチバチッ……
守亮、目を細める。
紅蓮、息を呑む。
つぐ、静かに見る。
番忠太、思わず笑う。
紫電――
目を輝かせる。
「何度見ても、面白いのう」
⸻
力丸
「まずは、小樽」
紅蓮へ視線。
「静かに」
紅蓮
「了解」
一瞬。
――消える。
スゥ……
音もなく、姿が消失。
⸻
力丸
「次に、オハ」
番忠太、拳を鳴らす。
ゴキッ
「漁港、だったな」
力丸
「頼む」
一拍。
――転移。
⸻
闇。
吹き荒れる風。
ゴォォォ……
白い息。
凍てつく空気。 誰もいない海岸。
ザァ……
番忠太
「……これは」
つぐ
「厳しいのう」
小隊、静かに展開。
力丸
「ここからです」
足元の土を見る。
カチカチに凍っている。
力丸
「――変えます」
手をかざす。空気が、震える。
ゴ………
⸻
紫電とつぐの隊。
そして、守亮。
転移。
小さな集落。 煙。
痩せた人々。 警戒の目。
つぐ、小さく息を吐く。
「……これが、現実か」
紫電
「よい」
前へ出る。
「笑え」
つぐ
「は?」
紫電
「怖がらせるな」
ニヤリ。
⸻
別の場所。 影の中。
“草”たちが、既に溶け込んでいる。
低い声。
「……来たらしいぞ」
「和人が」
「助けてくれる、らしい」
火が、揺れる。
⸻
海上。開世丸。 蒸気。
ブシュゥ……
重く、静かに動き出す。
鋼鉄の巨体が、波を割る。
ザバァ……
その姿は、まだ誰にも知られていない。
⸻
そして――
すべてが、同時に動き出す。
静かに。 確実に。
誰にも気づかれぬまま。
⸻
国家は、
宣言ではなく、
“動き”によって、生まれる。
つづく
力丸の転移魔法。
すっごく便利ですが、お馴染みの縛り通り。
一度行った場所限定です。
でも、小樽にもオハにも飛びます。
ここ、ツッコまないで(TT)
用意周到な、りっきゅんは、
こうなる前に行ってます。
飛行魔法で。
ふう




