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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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思いがけない差し出せるもの

リーリエ視点です。

ふとサージェス様が真面目な顔になる。


「私としてはもう少し貴女に心の整理をする時間を差し上げたかったのですが」


申し訳ありません、と小声で謝られた。

わたしは慌てた。

サージェス様が謝られるようなことは何もない。


「いいえ。大丈夫です。謝る必要はありません」


慌てるあまり率直な言い方になってしまった。

改めて微笑んで告げる。


「お気遣いをありがとうございます。ですがもう大丈夫ですから。ありがとうございました」


サージェス様の心遣いには本当に感謝している。

だからそんなことを気に病まないでほしかった。


縁談はサージェス様のものだけではない。

いくつかの縁談が来ていた。


その中からわたし自身が選んで、今日の見合いに(のぞ)んでいるのだ。

強制されたわけではない。

わたし自身の意志だ。


「無理は、していませんか?」

「していません」


本当かどうか探るようにサージェス様が見てくる。

わたしは真っ直ぐにサージェス様を見る。


「両親はわたしの意志を尊重すると言ってくれました。今日の見合いはわたしの意志です」


そう告げれば驚いたようだった。


両親がわたしの意志を尊重すると言ったことだろうか?

それとも、わたしの意志で見合いを受けたことだろうか?


「そうですか」


納得したのかどうか、その声からも表情からもわからなかった。

ただ思考は切り替えたらしく、真っ直ぐにわたしを見てサージェス様は告げた。


「父が乗り気ですからこの婚約はすぐにまとまるでしょう」


わたしは頷いた。

これは予想の範疇だ。

だけれど何故かサージェス様が少しだけ眉尻を下げた。


「ユフィニー家の技術だけではなく、今日出していただいたお茶が気に入ったようですから」


思わず軽く目を見開いた。

まさかここでまたお茶の話が出てくるとは思わなかった。


そこまで何が気に入ったのか正直に言えばわからない。

出回っているお茶に比べて特に優れている、というわけではない。

ただちょっと物珍しいと思われただけではないのだろうか?


半信半疑で訊く。


「そこまで気に入られたのですか?」

「そのようですね。私も好みのお茶でした」

「それならよかったです」


それならばお出しした意味もある。

できれば美味しく飲んでもらいたいし、出すなら好みのお茶がいい。

トワイト侯爵夫妻やサージェス様の好みがわかればそちらを用意したのだがわからなかったのだ。


グレイス様に訊けばすぐにわかっただろう。

だけれどグレイス様とも釣書が来てから一度もお会いしていない。


手紙で問い合わせることも考えたけれど、どこで漏れるかわからないから手紙では教えてもらえないかもしれなかった。

手紙というのは紛失の危険性が常にある。

そこから情報の漏洩に繋がることもある。


好みのお茶の情報一つとて(あなど)れない。

その情報がどう使われるかわからないからだ。


直接赴き、見合いの場で出したいのだと言えば教えてくださったかもしれないけれど。

その機会がなかったので仕方ない。

今度機会があれば聞いてみてもいかもしれない。

この婚約がまとまれば教えてくれるだろう。


ほっとして少し笑みがこぼれた。


「こちらから差し出せるものがあってよかったです」


技術だけだと似たような技術がある家に負けることもある。

フワル侯爵令息との婚約解消もそうだろう。


サージェス様がユフィニー家に代わる家をフワル家が提携できるように手配してくれたはずだ。

恐らくそれが婚約解消の決め手になったはずだ。

事業提携以外でわたしとの婚約の利点はなかったのだから。


だから利益として差し出せるものは複数あるほうがいい。


「十分過ぎるほどですよ。むしろうちのほうが足りないかもしれません」


さすがにそんなはずはない。

侯爵家との縁で得られるものは計り知れないのだ。

そのことを当事者だからこそ気づかないのかもしれない。


「そんなことはありません」


しっかりと否定する。


フワル侯爵家は残念ながらユフィニー家から搾取していたが、トワイト侯爵家はサージェス様がいらっしゃる以上はそんなことはなさらないだろう。

トワイト侯爵夫妻が実際はどんな方々かはわからないけれど、サージェス様は信用できる。

サージェス様なら両家にとっていい形で契約を考えてくださるだろう。


サージェス様は軽く首を振った。


「その話はおいおい。きちんと確認してからのほうがよさそうです」


どうやら認識の齟齬が起きているようだ。


「わかりました」


きっとわたしたちの間だけで確認しただけでは駄目なのだろう。

さすがにそれはわかった。

ユフィニー家とトワイト家の間で齟齬があっては困る、ということなのだろう。


このまま婚約まで進むのならその齟齬はいらぬすれ違いの原因にもなりかねない。

それを懸念したのだろう。


問題の芽は早めに摘み取ってしまわねばならない。

それにはきちんとした確認が必要だ。

だからサージェス様の言葉は正しい。


具体的な齟齬はわからないけれど、両親にもこのことは伝えておいたほうがいいだろう。

両親たちの元に戻った時になるか、トワイト家が帰った後になるかはわからない。

それはサージェス様の判断に任せようと思う。


両親たちの元に戻った時に話すのならそれでいいし、一度持ち帰るのであれば両親に話しておけばいい。

とりあえず今はそれでいいだろう。

どのみち両親たちのもとに戻らないとどうするかはわからない。


それよりも今は他に確認することがある。


読んでいただき、ありがとうございました。

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