自分でも気づいていなかったが
サージェス視点です。
「うちの庭なんて本当に大したものではないんですよ」
リーリエ嬢はトワイト家の庭でのお茶会に何度か参加しているので気後れしているのだろう。
お茶会をやる一画は来客者用に整えてあるのでいっそう華やかになっているのだ。
奥にある完全な私的な庭はもう少し落ち着いた佇まいになっている。
安心してほしくて微笑んで告げる。
「楽しみです」
だが余計に緊張させてしまったようだ。
「気楽にしてください」
そう告げてもリーリエ嬢の顔から緊張感が抜けることはなかった。
微笑みをうかべてくれるが硬かった。
どうやら言葉選びを間違えたようだ。
言葉少なく庭まで案内してくれる。
庭に着くと侍女とアルノーが少し離れた。
これなら大声を出さない限りは話が聞かれることはないだろう。
これでリーリエ嬢に謝罪したり気持ちを聞いたりとあまり聞かれたくない話ができる。
だがそれよりも何よりまずしなければならないことがある。
「遅くなりましたが、そのドレス、柔らかい雰囲気の貴女によくお似合いです」
今日のリーリエ嬢はペパーミント色のデイドレスだ。裾や袖口に緑色の糸で唐草模様の刺繍が施されている。
装飾の少ない控えめなものだったが質がいい。
装飾品はアクアマリンの小振りな耳飾りのみ。
控えめに編み上げてある髪に結ばれた菫色のリボンが不思議と目を引く。
控えめながらも上品な装いがリーリエ嬢によく合っていた。
本当はもっと早く褒めるべきだった。
だがなかなかその機会が巡ってこなかった。
後で母には叱られるかもしれない。
ユフィニー家の者たちは気づかなかったようだが、屋敷内に招き入れられた時に母に鋭い眼差しを向けられたから。
あれは何故褒めないのだという無言の抗議だったに違いない。
「……ありがとうございます」
リーリエ嬢の言葉は一拍遅かった。
今更だと思われたのだろうか?
不安が心を過る。
気づかれないようにリーリエ嬢を窺う。
よく見ると耳が少しだけ赤い。
照れているだけだとわかってほっとした。
無意識に口許に微笑みが浮かぶ。
リーリエ嬢が私を見た。
礼儀として褒め返してくれるのだろう。
「貴方はいつも素敵です」
まさかそんな返しをされるとは思わなかった。
思わず目を見開く。
私が驚いたことに驚いたのかリーリエ嬢が慌てた様子を見せた。
「本当のことです」
ふわりと微笑む。
「そう見えているなら嬉しいですね。ありがとうございます」
あまり考えずに言ってしまう。
だから本心ではあった。
リーリエ嬢はほっとした様子を見せた。
本心であると理解されたかは残念ながら自信はないが。
これ以上この話題を続けると気まずくなりそうだ。
だから名目上の目的に戻ることにした。
そっと庭を見渡す。
派手さはない。
家人の好みなのか控えめで小さな花が多い。
素朴と言える庭だ。
だが丁寧な仕事がされているのが伝わってくる。
「私はこの素朴さが好ましく思います」
見ていると心がほどけていく気がする。
「私は好きですね。心が柔らかくなる」
感じたまま口にする。
普段ならこのような表現をすることはない。
だが、自然とそう口にしていた。
リーリエ嬢が微笑みを浮かべる。
「そう言っていただけると嬉しいです」
リーリエ嬢はお世辞だと受け取ったようだが、本心だった。
この庭はユフィニー家そのものを表しているようだ。
優しく、そっと寄り添ってくれる、そんな雰囲気を持っている。
いつまでもずっと見ていたい気持ちにさせる。
「このような庭が毎日見られるユフィニー家の皆さんが羨ましいです」
思わずこぼれた言葉だった。
だからこれは紛れもない本心だった。
自分でも気づいていなかったことでもある。
自分で思っているよりずっとこのような庭が好きだったようだ。
できればここでゆったりとお茶でもしたいものだ。
言えば叶えてくれそうな気もするが無理強いはよくない。
「わたしはトワイト家の華やかなお庭も好きですよ」
恐らく気を遣ってくれたのだろう。
だがそこに嘘の気配はないので本心でもあるのだろう。
それは、嬉しい。
「ありがとうございます。庭師も喜ぶでしょう。伝えておきますね」
きっとますます励むだろう。
「はい。うちの庭師にも後で伝えておきます」
ユフィニー家の庭師が誇らしく思って励んでくれるのであれば心のままに告げた甲斐もあるだろう。
読んでいただき、ありがとうございました。




