この場を最大限に活かさなければ
サージェス視点です。
同席の相手と当たり障りのない挨拶を交わす。
同席者は同じような立場だ。
爵位差のある婚約、それも令嬢のほうが低い爵位だ。
令嬢はほとんど子爵令嬢と男爵令嬢だ。一人、伯爵令嬢がいる。
主催者の配慮、だろう。
同じような立場の者でしかわからない話はある。
このような場では話せなくとも顔繋ぎだけしておけば後日会うこともできるだろう。
すぐには無理でも付き合っていくうちに相談相手にお互いになることは十分有り得た。
さすがに敵対していたり仲のあまりよくない家同士で同席はさせていない。
今ここに同席している者ならリーリエが付き合いを持っても大丈夫だ。
比較的良好な関係を築けている家ばかりだ。
そういう配慮は見習わなければならない。
ここは社交の場であり、勉強の場でもある。
それをきちんと理解できたものだけが得るものを得られるのだ。
それは所作一つとってもそうだ。
身につけた所作の実践の場であると同時に高位貴族からその所作を勉強できる場である。
令嬢たちならこの席には伯爵令嬢がいる。
勿論席を移れば侯爵令嬢や夫人だっている。
所作を見て勉強する相手には事欠かない。
その中でもリーリエの所作は伯爵令嬢に引けを取らない。
もともと侯爵家の嫡男の婚約者で夫人教育を受けていたのだ。
きちんとした所作が身についていないとリーリエの評価が下がる。
今まで何を学んできたのか、それとも呑み込みが遅いのかと言われてしまうのだ。
それと同時に夫人教育を施していたはずのフワル侯爵家の評判も落とすことになりかねなかった。
一体何を学ばせていたのか、と。
その点、リーリエはしっかりと身につけられている。
フワル侯爵家の面目も保てている。
そしてリーリエは子爵令嬢でもここまでの所作を身につけられるといういい見本でもある。
同席している令嬢は今回初めて高位貴族の婚約者になった者のほうが多数だ。
彼女たちはリーリエに希望を見るかもしれない。
あるいは自分には無理だと思うか。
もしそうなら早めに婚約解消となるだろう。
それが双方のためだ。
令嬢が潰れてからでは双方への傷が大きい。
その辺りの判断材料を与えるためにもこの席順なのだろう。
そのような配慮も上に立つ者の責務だ。
元公爵令嬢の伯爵夫人はその辺りは当然しっかりとしている。
生まれながらに上に立つ者だからその辺りは骨の髄まで身に染みついているのだろう。
一番初めだけ席が決められており、その後で席の移動が自由なのもより多くの者と交流できるようにだ。
初めて一緒に社交する私たちにとっても有り難い。
より多くの者と交流して婚約したことを周知しなくてはならないのだから。
そしてその婚約を円満だということもだ。
それだけで変な横槍を減らすことができる、はずだ。
それでも横槍を入れてこようとする相手は厄介な相手ということでもある。
それは心しなければならない。
勿論そんな横槍に屈するつもりはないが。
この場に参加している者たちがどう行動するか。
静観するのか。
祝福するのか。
積極的に交流を持とうとするのか。
無視するのか。
それとも、横槍を入れようとするのか。
見極めることができるのは有り難い。
お披露目と牽制と観察、それに人脈作り。
私たちだけでもそれだけのことを為すことができる。
他の者たちにとってもそれぞれいくつもの目的を達することができるだろう。
そのように一つの場で複数の思惑を同時に満たすことができる。
それも主催者の力量だろう。
いずれ、リーリエもこのような場を設ける側の立場になる。
本人にそこまでの意識があるかどうかはわからないが、いい勉強の場になるだろう。
それにしても他のテーブルからの視線が少々うるさい。
私たちの関係を探っているのだろうか?
それとも既に粗捜しを始めているのだろうか?
どちらもありそうだ。
リーリエはさすがだ。
控えめに微笑みながら会話を交わしている。
不躾な視線すら何でもないことのように流している。
この辺りはフワル家で鍛えられたのだろう。
フワル家の夫人教育は一流だ。
それは確かなことだ。
それをリーリエはしっかりとものにしている。
それはリーリエが優秀なことの証左でもあった。
教育を受けることとそれをものにできるかはまた別の問題だ。
それは本人の努力と資質による。
リーリエにはその両方が備わっている。
私も負けてはいられない。
リーリエの婚約者として力不足だと言われないようにしないと。
改めて心の中でそっと決意をした。
読んでいただき、ありがとうございました。




