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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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社交界のルール

リーリエ視点です。

しばらくして席を移り出す者たちが出てきた。

サージェス様に動く様子はない。

それならばまだしばらくはこの席で交流を続けるということだろう。


同席のうち二組は席を離れていった。

知り合いのところにでも挨拶に行くのだろう。


残った方々とまだ交流したいのだろうか?

まだサージェス様の考えていることを読み取ることはできない。

だからサージェス様の動きに合わせることしかできない。

動く時にはわかるように合図してくれるだろう。


離席した椅子に別の方々が移ってきた。

当たり障りなく挨拶が交わされていく。

皆それほど親しい相手ではないようだ。


わたしたちも流れに合わせて挨拶を交わした。

サージェス様にとっても親しい相手はいないようだ。


そのまま無難な会話が交わされるかと思われたのだけれど。

席を移ってきた同年代くらいの令嬢がわたしとサージェス様を見て微かに眉根を寄せた。


何か不愉快になるようなことをしただろうか?

さすがに座っているだけでそれはないと思う。


それならサージェス様に想いを寄せていた、とか?

サージェス様は身分も高いし、容姿も性格もいいので想いを寄せている令嬢がいてもおかしくはない。

そう思ったのだけれど。


「あらリーリエ様の婚約者はフワル家のご子息ではありませんでしたか?」


言外に浮気ですか? と訊いてきている。


まさかそのような方向から言われるとは思っていなかったので驚く。

貴女など認めないという遠回しな嫌味だろうかと思ったのだけれど、その顔を見る限りは本気で言っているようだ。

つまり、知らないのだ。


演技だったら凄い。

まだその可能性は残っている。

浮気だと思って咎めているのか、サージェス様に想いを寄せているから攻撃してきているのか、あるいは両方か。


だとしてもわたしが告げることは変わらない。

わたしは敢えておっとりと微笑(わら)った。


「その婚約はもう解消されています」

「え?」


本気で驚いた顔をしている。

すっとぼけて嫌みを言っていたわけではなく本当に知らなかったようだ。


サージェス様との婚約はともかくノークス様との婚約が解消になったことはフワル侯爵家が発表していたから広く知れ渡っていた。

だからまさか知らない人がいるとは思わなかった。

情報を得ることもしていないのか、できていないのか。

社交界では致命的だ。


「今は私の婚約者ですよ」

「あ……」


彼女はようやく周囲からの冷ややかな視線に気づいたようだ。

その顔から血の気が引く。

自分が盛大なマナー違反をしたことに気づいたのだろう。

新しい婚約を披露する場でそれに批判的なことを言うのはマナー違反なのだ。


「も、申し訳ありません」


わたしはおっとりと微笑んだ。


「知らなかったようですから仕方ありません。気になさらないで」

「あ、ありがとうございます」


彼女は安堵したようだった。

周囲の視線も和らぐ。


ここはわたしを立ててくれたのだ。

嫌みを言われたわたしが許したから。


だから今ここで彼女が当て擦られたり嫌みを言われることはない。

そんなことをすれば今度は自分が空気を読めない人間だと言われることになる。

そのような機微まで読めないと社交界では生きていけない。


だけれど残念ながら彼女は情報に疎い令嬢だとこの場にいる者たちに判断されてしまっただろう。

それがどこまで広がっていくかはわからない。

悪意があればどこまでも広がっていくだろう。


令嬢だけではない。

家も同じだ。

令嬢が情報を持っていなかったということは家も持っていなかったか、知らせていなかったかだからだ。


情報収集能力が低いか判断が甘いのか。

あるいは、令嬢が冷遇されているか、だ。

まあこの様子だと冷遇はされていないようだけれど。


その辺りの情報だって今後の社交にとっては重要なのだ。

気づけば中心から遠ざけられることだってあるのだ。

良縁だって望めなくなる。


社交界の恐ろしいところだ。

その匙加減も上位の者の機嫌次第だと言うことも恐ろしい。


彼女は気づいているのだろうか?

今は目の前のことで精一杯で気づいていなさそうだ。


それも無理はないことかもしれない。

それほどのやらかしだった。


ここで収めておかないと最悪の場合、トワイト侯爵家とユフィニー子爵家、それに泥を塗られる形となった今日の主催の伯爵家から抗議をされることになったかもしれないのだ。

それがそこまでの事態に発展はしなかったことで安堵しているはずだ。


だから、今は他に気が回らないのだろう。

だから後で気づくのかもしれない。

いや、気づかないとまずい。

手遅れにならないといいけれど。


薄情かもしれないけれどわたしには傷が浅いことを祈ることしかできなかった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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