主催者の配慮
リーリエ視点です。
使用人に案内されて席に着く。
最初は席が決められているようだ。
ガーデンパーティーに近いということなので、後で席を移ったり、庭を散策していいということなのだろう。
同じテーブルを囲むのは高位貴族を婚約者に持つ爵位差のある婚約をしている者ばかりだった。
最初は似たような者同士を同じテーブルにしたようだ。
主催者の配慮だろう。
わたしたちは婚約者としての披露の場となる。
その辺りも考慮されたに違いない。
気づかれないくらいにそっと辺りを探る。
探るような、あるいは不思議そうな視線は思ったより少ない。
その視線も同じテーブルではなく別のテーブルからのものだ。
同じテーブルの方々は事前に知らされているのか、自分たちも通った道だと見守ってくださっているのかもしれない。
そうだとしたら有り難い。
そうでなくとも別に構わない。
わたしのやることは変わらない。
わたしの振る舞いも変わることはない。
この場でサージェス様の婚約者に相応しい振る舞いをするだけだ。
それにしても。
気配だけ周囲を探る。
わたしとサージェス様が婚約をしたということを掴んでいる方もいるようだ。
情報が早い。
正式な場に二人で参加したのが初めてなのに。
正式な場ではなくとも二人で出掛けたことはなかった。
大々的に婚約を発表する家もあるけれどわたしたちはそういうこともしていない。
それでも情報を掴んでいる家はあるということだ。
本当に目端の利く家の情報網というのは凄い。
トワイト侯爵家のほうである程度の情報を流しているのかもしれないけれど。
それでも流す先は考えられているだろう。
だから情報を掴んでいる家は有力な家ということだ。
ユフィニー家は意図的に情報を流したりはしていない。
領内のまとめ役など必要なところに報告したくらいだ。
そこから領内に広がり、商人の口を通して貴族の家に情報が流れた可能性は否定できないけれど。
商人とはそういうものだろう。
有益な情報ならご贔屓の家にさりげなく流す。
口止めしているようなことなら信用問題に関わるのでやらないだろうけれど特にそのようなこともしていない。
別に隠すようなことは何もない。
何の疚しいこともないのだ。
どちらかが強引に結んだものではない。
双方にきちんと利がある婚約なのだ。
その割合には差があるにしても、だ。
だから堂々としている。
横槍を入れようとしてももう婚約は成立しているのだ。
今更横槍を入れることは無理だ。
後は正当な手順で婚約解消を狙うしかない。
とはいえ、婚約が成立した直後というのは時期が悪い。
本当に狙うのなら粛々と準備をして時機を見て仕掛けてくるだろう。
そういうことはフワル侯爵夫人に習った。
子爵家ではそこまでは学ぶことはできない。
下位同士の貴族の婚約など、そこまでして壊そうとされることは滅多にない。
よほどその家か当人に魅力がない限りは。
高位貴族が権力を持って無理強いすることは恥ずべきこととされている。
表向きは。
実際はわかりやすく権力をちらつかせての無理強いこそ恥ずべきことと冷ややかに見られるけれど、じわりじわりと圧力をかけたりして思い通りにしようとすることは普通に行われている。
ようはあからさまにやらなければ見逃されるというのが実際だ。
しっかりと身分差がある国であるのでそればかりは仕方ない、と思うしかない。
だからこそ権力を持つ側のやり方を教えてもらえたことは有り難い。
知らなければ対処もできないから。
とにかく今はあまり歓迎していない視線もあるということだけ確認できれば十分だ。
意識を同席者に戻す。
今は彼らとの交流が第一だ。
知り合いがいたとしても席を立って挨拶に行くのはお茶会が始まって一杯お茶を飲んでからということになる。
それが暗黙の了解だ。
先に挨拶に行っても別にマナー違反と咎められることはないけれど空気も読めないと眉をひそめられることにはなる。
考えられてのこの席次なのだ。
ここは主催者の意図を汲んで同席者と交流するのが正解だ。
一人が口を開き、その話に次々に乗っていく。
そうやって主催者が現れるまでは同席の方々と当たり障りのない話をしていた。
椅子が埋まった頃、主催者の伯爵夫人が姿を見せた。
彼女は伯爵夫人ではあるが、元公爵令嬢であり、社交界での影響力も強い。
さらにこの伯爵家自体、力のある家だった。
見くびれば足元を掬われる。
それもじわりじわりとやられるだろう。
気がついた時には既に手遅れになるように。
それだけの技量と力があるのだ。
爵位だけで判断するのは危険だといういい例だった。
これもフワル侯爵夫人に教えられたことだった。
だから注意しておきなさい、と。
その教えが今役に立っている。
もちろんわたしもサージェス様も爵位で侮ったりはしないけれど。
そもそもわたしは子爵令嬢だ。
爵位で侮れる立場ではない。
むしろ侮られる側だ。
だからといってただ侮られるだけのつもりはなかった。
それでは家にもサージェス様にもトワイト家にも迷惑がかかる。
それは避けなければならないもの。
かといってむやみに敵を増やす必要はない。
あくまでもこの場に相応しい振る舞いをしていればいい。
ごくごく当然のことをしていればいいのだ。
わざわざ目立つようなことをしなくていい。
夫人は華やかな微笑みを浮かべてゆっくりと歩いてくる。
その視線がさりげなく会場中を見回し、不備がないかを確認していることに気づいた。
わたしはたまたま気づいたけれど、本来なら気づかせないほど気遣いだ。
特に問題はなかったようで夫人は微かに頷いていた。
そのまま夫人は爵位の高い者を集めた席に着いた。
静かに侍女たちがそれぞれにお茶とお茶菓子を饗していく。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。心ばかりのお茶とお菓子をご用意致しました。どうぞ楽しんでくださいませ」
和やかな雰囲気の中でお茶会は始まった。
読んでいただき、ありがとうございました。




