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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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ノークスに誘導されていたのでは

サージェス視点です。

馬車の中でリーリエと向かい合わせで座っている。

うまく表情を作れているだろうか?

先程のリーリエの言葉が嬉しかった。


「もう少し言葉を尽くして褒めたいほど格好いいです。自分の語彙力のなさが残念です」


だなんて最高の褒め言葉だ。

リーリエにはそんな意識はなかったのだろうが。


言葉が追いつかないほど格好いい、と言われたも同然だ。

嬉しいに決まっている。

言葉を尽くして褒められるよりも余程。


本人は語彙力がないことを嘆いているようだが。

言葉を尽くした表面的に褒められるよりリーリエの素直な褒め言葉が嬉しい。


むしろ語彙力が足りないのは私のほうだ。

リーリエの可愛らしさが全然伝わっていないだろう。

婚約者への義務的な言葉だと取られているかもしれない。

これはこの先の私の課題だ。


婚約者がいなかったから褒めるのは身内ばかりだった。

身内だからこそ甘えがあったのだと思う。

今までのツケがここで出ている。

もっときちんと褒めたいのに。


ドレスにしてもそうだ。

私が贈ったリボンをうまく使ってくれている。

それをうまく伝えられなかった。

たぶん、ドレスのことまで言及していたのには気づいてもらえていないと思う。

だから改めて告げた。


「ゴテゴテに飾り立てずにさりげなくあしらうのが素敵です」


言葉にしてから心の中で頭を抱えた。

あまりいい言い回しではない。


少し考えた様子だったリーリエがおずおずと口を開く。


「サージェス様はシンプルな装いのほうがお好きですか?」


そういうふうに受け取られてしまった。

確かにゴテゴテに飾り立てるのは正直に言ってあまり好みではない。

何もかもが主張が強すぎて品がなく感じてしまう。

だが華やかに飾り立てるのは別に嫌いではないのだ。


ようはきちんと調和していることが大事だと思う。

それさえわかっていれば十分なのだ。


どう言えば誤解されないだろうか?

そんなことを考えながら口を開く。


「いいえ、そういうわけではありません」


思いの外きっぱりとした言い方になってしまった。

リーリエも驚いたのか軽く目を見開いている。


「あ、失礼しました」


慌てて取り繕う。


「あ、いえ」


またもや失敗した。

様子が違うことにリーリエも困惑したようだ。

それでもすぐに微笑む。


「お気になさらず。よろしければどのような装いがお好きか教えてもらえませんか?」


たぶん、気を遣われたのだろう。

だからといって場繋ぎの問いでもないのだろう。

恐らく、参考にするつもりなのだ。


参考にするだけならまだいいが。

もしかしたらそれに添おうとするかもしれない。

ノークスに従ってきたリーリエなら有り得る。


だが私の好みに合わせる必要はない。

そう伝えたい。

だからもう少し言葉を足す。


「リーリエが気に入ったものを着るのがいいですね」

「え……?」


そんなふうに言われるとは思っていなかったのだろう。

瞳が揺れている。

それでもそれが本心だ。


さてどう言えば伝わるだろうか?

素直に言葉にしたほうがいいだろう。

そう思い、真意を説明する。


「自分の好きなものを着ている女性が一番綺麗だと思いますよ」


だが困惑させてしまったようだ。


リーリエの装いは素敵で品がいい。

それに、とてもよく似合っていた。

自分に似合うものをしっかりと把握しているのだろう。


それに使われている布などはきちんとした品質のものだ。

その辺りはノークスの婚約者である時にしっかりと学んだのだろう。

だからそれで問題ない。


あとはその場所にふさわしい装いであれば好きなものを着ればいいのだ。

私の趣味に合わせる必要はない。

衣装を合わせる必要がある時には相談すればいい。

それで十分だ。


もしかしてノークスに趣味を押しつけられていたのだろうか?

あのノークスなら有り得ない話ではない。


ノークスの話をすればリーリエの傷を刺激するかもしれない。

だがこれは曖昧にしておいてはいけないものだ。

意を決してリーリエに訊く。


「ノークスに、自分の趣味に合わせろとでも言われていましたか?」


予想外のことだったらしく驚いていた。

それでもすぐに立て直してしっかりとした口調で否定した。


「いいえ、そんなことはありません」


気づいていないのかもしれない。

無意識のうちに合わせていれば気づかないことも有り得る。

あるいは、無自覚か。


言葉で言われるだけがそうではない。

態度で視線で強制された可能性がある。

リーリエはかなりノークスの機嫌に敏感だった。

無意識にその意志を読み取って従っていたというのは十分に考えられる。


弁えている、ということは言い換えれば従順だ、ということだ。

惚れた弱みということもあるし、家のためもあるだろう。

とにかくノークスの不興を買わないように必死だったのだと思う。

だから全て肯定的に受け入れていたのだろう。


ここはしっかりと確認させてもらおう。


「直接的に言われたわけではないとしても間接的に言われたりはしませんでしたか?」

「と、言いますと?」


意味がうまく取れなかったようだ。

リーリエにしては珍しい。


無意識に自分を守ろうとしたのだろうか?

自分が信じていたものを揺らされると感じたのかもしれない。

それでも私は尋ねた。


「"その服装はフワル家に相応しくない"などと言われたことはあるのでは?」

「……あまりに安っぽい格好は侯爵家に相応しくないと一番初めに言われました」


それには頷く。

その言葉は正しかった。

時期も正しい。

それは確かに一番初めに知っておくべきことだ。


フワル侯爵家にとっても、リーリエにとっても大事なことだった。

初手を誤れば侮られることになる。

評判も落とすことになったはずだ。

それだけは絶対に避けなければならないことだ。


だから基本的なことはまず早めにきっちりと教えたのだろう。

その時は高位貴族の婚約者に相応しいものがどういうものかをきっちりと教えたはずだ。

フワル侯爵家に相応しいものではなく、高位貴族としての装いを。


その後でなら自分たちの意に添う服装にするのは容易だっただろう。

まだよくわかっていないリーリエを操ることは簡単だったはずだ。

こういう服装がフワル侯爵家の婚約者に相応しいと言えばいいのだから。


それでいくつかドレスを贈りさえすればいい。

それが高位貴族の服装だと言われれば信じるしかない。

その服装で問題がなければ気づきようがない。


高位貴族のいるような場は基本的にノークスと一緒だっただろうから面と向かって難癖をつける者もいないだろう。

嘲笑や批判をすればそれはそのままフワル家への嘲笑や批判にもなる。

そんな愚を犯す者など普通に考えればいない。

だから言われるがまま信じたはずだ。


それはリーリエの責任ではない。

ただ、そのままにするわけにはいかない。

ゆっくりと口を開く。


「ある程度はそうでしょう」


そう告げれば不安にさせてしまったようだ。

リーリエの瞳が不安に揺れている。


彼女にしたら自分を導いてくれたのだと思っているのかもしれない。

それも事実ではあるのだから間違ってはいない。


彼女は私の言葉に考えているようだ。

目が遠いところを見ている。

自分で気づくのならそれがいい。

だから少し待つ。


車輪の音だけが響く中待つこと少し。

リーリエから困惑した視線を向けられた。

思い返しても思い当たることがなかったのだろう。


誘導されているほうにその自覚がないことはよくあることだ。

そんなふうにされていると思わなければ尚更のこと。


フワル家やノークスをそれだけ信じていたということでもあるのだろう。

それはリーリエの立場からしたら当然のことだろう。

だから仕方ない面もある。


だがこれはすぐに納得させることはできないだろう。

それならば、ここで一旦話を畳むしかない。


「今は時間がありません。その話はいずれゆっくりと」


馬車の中での時間は限られている。

残念ながらこのことだけを話しているわけにはいかなかった。

これから向かうお茶会についてももう一度確認しておいたほうがいい。


私たちが婚約者になって初めての社交の場だ。

ここはしっかりとこなさなくてはならないのだ。


今日のリーリエの服装は問題ないので今はこれ以上優先させるものではない。

要注意人物などもっと重要な確認事項がある。


今回の話は帰ってから母と、グレイスにも伝えておいたほうがいいだろう。

リーリエは母からの夫人教育も控えている。

その中でリーリエの中の縛りをなくしてもらいたい。


勿論私も協力はする。

だがこういうことは同じ女性の言葉のほうがしっかりと伝わるのではないかと思う。

だからしっかりと頼んでおこう。

きっと二人がいいほうに導いてくれるだろう。


「はい」


リーリエが頷いてくれたので切り替える。


「これから向かうお茶会についてなのですが」


そう切り出せばリーリエの顔が真剣なものになる。

切り替えたのだろう。

私も真剣な顔で口を開いた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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