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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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装いのこと

リーリエ視点です。

向かう馬車の中でわたしたちは対面に座っている。

まだ婚約したばかりの男女としては正しい座り位置だ。


「リーリエはセンスがいいですね。差し上げたリボンをこのように使ってくださるとは」


先程の話はまだ終わっていなかったようだ。

時間が迫っていたのだろう。

このくらいの話なら馬車の中でもできる。


サージェス様の視線はわたしのドレスに向いている。

どうやらしっかりとドレスに使われたリボンのことにも気づいていたようだ。


それとも向かい合わせに座ったことで気づいたのだろうか?


「ありがとうございます」


サージェス様は褒めてくださったけれどごく一般的なリボンの使い方しかしていない。

胸元に飾ったり、袖口にも少し使わせてもらった。

細いリボンを胸元に飾り、レースのリボンを同じ細いリボンと合わせて袖口の飾りにさせてもらったのだ。


侍女たちや母と相談しながら決めた。

ああでもないこうでもないと相談しながら決めるのは楽しかった。


「ゴテゴテに飾り立てずにさりげなくあしらうのが素敵です」


サージェス様はあまり飾り立てないほうがお好きなのかもしれない。


そういえばトワイト侯爵家の屋敷は品の良いものが飾られていた。

そのような家風なのかもしれない。

でもこれは間違っていたら困るのでしっかりと確認しておかないとならない。

だから訊いた。


「サージェス様はシンプルな装いのほうがお好きですか?」


サージェス様なら率直に訊いたところで怒り出すことはないからできたことだ。


「いいえ、そういうわけではありません」


存外きっぱりと言われて驚く。


「あ、失礼しました」


サージェス様自身、驚いたようだ。

少し慌てたように謝罪された。


「あ、いえ」


それにも驚いてうまく返せなかった。

気を落ち着かせて改めて伝える。


「お気になさらず。よろしければどのような装いがお好きか教えてもらえませんか?」


できればサージェス様のお好みの装いをしたい。

特にこのように(おおやけ)の場では。

そう思ったのだけれど。


「リーリエが気に入ったものを着るのがいいですね」

「え……?」


まさかそんなふうな答えが返ってくるとは思わなかった。


サージェス様にこだわりはない、ということなのだろうか?


わたしが戸惑っていると察したのかサージェス様が言葉を足す。


「自分の好きなものを着ている女性が一番綺麗だと思いますよ」


これは、どう考えればいいのだろう?

好みはないということだろうか?

それとも好きなものを着ればいいという遠回しな許可だろうか?


どう判断していいのか迷う。

サージェス様が何故かはっとした顔になった。


「ノークスに、自分の趣味に合わせろとでも言われていましたか?」


どうやら余計な心配をかけてしまったようだ。


「いいえ、そんなことはありません」


ノークス様の名誉のためにもきちんと否定する。

だけどサージェス様は納得されなかったようだ。


「直接的に言われたわけではないとしても間接的に言われたりはしませんでしたか?」

「と、言いますと?」


思わず問い返す。


「"その服装はフワル家に相応しくない"などと言われたことはあるのでは?」

「……あまりに安っぽい格好は侯爵家に相応しくないと一番初めに言われました」


だけどそれは仕方のないことだ。

低位貴族である子爵家と高位貴族である侯爵家では求められるものも普段の生活も違ってくる。

その辺りの認識は早めに変えなければならないものだ。


フワル侯爵夫人もノークス様もその辺りはしっかりと把握されていて、見放すことなくしっかりと教えてくださったのだ。

強制されたのではない。

必要なことを教えてくださったに過ぎないのだ。


それは、侯爵家の嫡男の婚約者としてわたしが最低限身につけなければならなかった高位貴族の常識だった。

だからしっかりと否定できる。


「高位貴族のことがよくわかっていませんでしたので、いろいろと教えてもらえて助かったのです」


だけどサージェス様はまだ難しい顔をされたままだ。


「ある程度はそうでしょう」


それだけではないと言っているようだ。

でも本当に侯爵家の婚約者として相応しいかどうかをしっかりと見て教えてくれただけだ。

駄目だった時はきちんと説明をしてくださったので納得できたし、次からは同じ間違いをしないで済んだのだ。


本当に感謝している。

それなのに。


わたしの振る舞いが何かサージェス様に誤解を与えてしまったのだろうか?


自分たちの恥にならないようにということは前提にはあっただろうけれどリーリエ自身も恥を掻かなくて済んだのはフワル侯爵夫人がきちんと教えてくださったからだ。

ノークス様もしっかりと助言をしてくださった。

今のわたしがあるのもお二人のお陰というのは間違っていない。


その時の経験があるからこそ、サージェス様の婚約者になっても右往左往することがなく済んでいるのだ。

経験がきちんと活きている。

そのはずなのに。


サージェス様は何に引っ掛かっているのだろう?


わたしは困惑した視線をサージェス様に向けた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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