お茶会当日の迎えお茶会当日の迎え
リーリエ視点です。
サージェス様が屋敷まで迎えに来てくれた。
玄関ホールで顔を合わせる。
サージェス様はわたしを見てふわりと微笑む。
「とても素敵ですね。柔らかい雰囲気のリーリエによく似合っています」
「ありがとうございます。サージェス様もいつにも増して格好いいです」
お世辞ではなかった。
濃い紫色の上下に、紺色のネクタイ、差し色で私の瞳の色のポケットチーフを合わせている姿が落ち着いた雰囲気のサージェス様によく似合っていた。
黒目黒髪というのはどんな色でも似合うのではないだろうか。
代わりに婚約者の色として取り入れるのは少し大変かもしれない。
だけれど、それはわたし側の問題だ。
どうにかするのはわたしの役目だ。
……グレイス様に相談したら知恵を貸してくださるだろうか?
できそうだったら後で相談してみよう。
それは今は置いておくとして。
いつも似たような褒め言葉で自分の語彙力が残念だ。
これでは上手く伝わってないのではないだろうか。
お世辞と取られてしまう可能性もある。
興味がないから同じような言葉しか出てこないのではないかと思われてしまうかもしれない。
それは不本意だ。
婚約者になった以上はきちんと向き合いたい。
サージェス様がはにかんだように微笑む。
褒め言葉など慣れているだろうに。
「ありがとうございます。リーリエに褒められると自分が本当に格好よくなれた気がしますね」
それはどういう意味なのだろう?
謙遜、なのだろうか?
それとも本気で自分の容姿が整っているという自覚はないのだろうか?
そのようなことが有り得るだろうか?
ああ、でも。
高位貴族は概ね容姿が整っている。
容姿もまた武器の一つではあるので当然といえば当然だけれど。
サージェス様のお付き合いは高位貴族が主だろう。
ノークス様もそうだった。
麗しい方に囲まれていれば容姿に関しての美的感覚が上のほうで標準化していてもおかしくはないのかもしれない。
その基準から言えば御自分は容姿が整っているという判断にはならないのかも。
そうでなければ有り得ないだろう。
まさか容姿を貶されてなどいないだろうし。
思わず心の中で溜め息をついた。
もっとわたしにきちんと語彙力があれば、サージェス様にしっかりと伝わるかもしれないのに。
サージェス様は容姿もよく素敵な男性だと。
そんな気持ちがあったからだろう。
「本当にサージェス様は格好いいですよ? もう少し言葉を尽くして褒めたいほど格好いいです。自分の語彙力のなさが残念です」
ついぽろりと言ってしまう。
「いえ、十分です。嬉しいですよ」
サージェス様は微笑みを深めてそう言ってくださる。
気を遣わせてしまった。
言うべきではなかった。
わたし自身が勉強すればいいだけの話なのに。
だからと言って謝ることもできない。
余計に気を遣わせるだけだ。
そんなことはしていいことではない。
言い訳させてもらえるなら、ノークス様が華美な褒め言葉を好まなかったのだ。
"格好いいです"とか"素敵です"とかくらいで事足りた。
むしろそこに言葉を足すと「言葉が軽い」と叱責されたくらいだ。
それはわたしに対しても同じだった。
"似合うよ"とか"可愛らしい"とは言ってくださっていた。
だけど、それ以上の言葉はなかった。
例えば"花のように"などと言う一般的によく使われるような褒め言葉など言われたことはなかった。
その時に合った服装をしているかどうかのほうに関心が向いていたのだろう。
"似合うよ"とか"可愛らしい"とかは婚約者としての最低限かけなけらばならない義務的な言葉ということだったのだろう。
今ならそう判断できる。
あの当時のわたしはそんな言葉ですら舞い上がっていたけれど。
褒め言葉は言葉が軽くなると忌避するノークス様が告げてくれた褒め言葉だったから。
全くそんなことはなかったのだけれど。
ふと思う。
あの恋人には惜しみ無く賛辞の言葉を捧げているのだろうか?
政略的な婚約者ではなく、真に好きな相手なら……
そこまで考えて慌てて振り払った。
そうだとしても今のわたしには関係ないことだ。
ノークス様が恋人をどう褒めようとも。
今は全くの赤の他人なのだから。
この先個人的に関わることもないだろう。
それでいい。
それに、知りたくない。
そんな気持ちが湧き起こってくる自分に驚いた。
ノークス様のことは振りきったと思っていたのに。
これではサージェス様に申し訳ない。
だからと言ってここで謝罪をするわけにもいかない。
これからはきちんとサージェス様と向き合うと改めて心に刻む。
ノークス様のことは過去にしなければならない。
幸いにしてサージェス様にはそのようなわたしの心の内には気づかれなかったようだ。
わたしが気にしないようにだろう、さりげなく話を戻した。
「リボンも使ってくださったようで嬉しいです」
サージェス様にいただいたリボンは髪と一緒に編み込んでいるもののほかに一部ドレスの装飾として使っていた。
サージェス様がどこまで気づいているかはわからない。
「このような感じにさせていただきましたけれど、どうでしょうか?」
「はい。とても素敵です」
合格点がもらえたようでほっとする。
「よかったです。ありがとうございます」
「さてそろそろ行きましょうか」
肘を軽く差し出される。
「はい」
わたしはその腕に軽く手を添えた。
読んでいただき、ありがとうございました。




