なかなか難問なのだが
サージェス視点です。
応接室にはトルソーにかけられた二着のドレスがあった。
どちらもシンプルなものだ。
「決めた後でサージェス様が贈ってくださるリボンに合わせて刺繍やレースなどの装飾を施すつもりなのです」
「そうだったのですね」
「はい。ですのでご迷惑でなければそちらの相談もしたいのですが」
「私でお役に立てるかどうか」
あまり役に立たないだろう。
こういうことがこの先もあるようならそちらのほうも勉強しなくては。
友人たちはこういう経験を何度もしているのだろうか?
今度話を聞いてみたいものだ。
からかわれたり呆れられたりするかもしれないが、リーリエに恥を掻かせるよりはましだ。
だがそれは後でのことだ。
今はここを自力で、いやリーリエと二人で乗りきらなければ。
リーリエがふわりと微笑う。
謙遜だと思われたようだ。
訂正することはやめておいた。
礼儀としてお茶が出される。
お茶菓子はない。
これからドレスを選ぶから当然だ。
万が一にも汚してしまったら大変なことになる。
対面に座ったリーリエが微笑む。
「どうぞ、まずはお召し上がりください」
「ありがとうございます」
ティーカップを手に取り、口をつける。
私が好きだと言ったからだろう、ユフィニー領のお茶だ。
その細やかな気遣いはさすがだ。
雑談がてら軽くお互いの近況を話す。
十分喉が潤ったところでティーカップを置いた。
「そろそろ始めましょうか」
「はい」
リーリエがティーカップを置いて立ち上がる。
私も立ち上がってドレスの近くに寄った。
リーリエがドレスの隣に立つ。
「それで、どちらがよろしいでしょうか?」
問われて改めてドレスを見る。
一着は水色のデイドレスだ。上品なレースが控えめに飾られている。
もう一着は淡いピンク色のもので裾や袖口に控えめに濃さの違う紅色の糸で刺繍が入っている。
どちらも控えめなものだ。リーリエらしいと言えばリーリエらしい。
グレイスからはリーリエに似合うほうを選べばいいと言われてはいた。
だが柔らかな印象のドレスはどちらもリーリエによく似合いそうだ。
思っている以上に難問だった。
これはもう主催者に合わせるしかない。
頭の中で主催者の家の情報を並べ立てる。
それに合っているほうはーー
迷っているように見えたのか、リーリエがおずおずと言う。
「ドレスを当てるか着るかしましょうか?」
はっとする。
確かにどちらが似合うかは実際に着てもらうか、せめて身体に当ててみてもらわなければわからない。
何度かドレスを作ればそんなことをしなくても似合うものはわかるかもしれないが、ドレスを選ぶのはこれが初めてなのだ。
センスのある者なら見ただけでもわかるかもしれないが、私には無理だった。
「そうですね。お願いできますか?」
「もちろんです」
リーリエが侍女に合図する。
合図を受けた侍女がトルソーに近づき、ドレスを外す。
ふと気づく。
当てるだけより実際着てみてもらったほうが判断しやすい。
「よろしければ着ていただいても構いませんか?」
「あ、はい。わたしは大丈夫ですよ」
リーリエは心配そうに訊く。
「お時間のほうは大丈夫ですか?」
忙しいと心配してくれたようだ。
安心させるために微笑んで告げる。
「大丈夫です。今日は一日空けてありますから」
次の予定が入っていれば慌ただしくなって選ぶのが適当になってしまうかもしれない。
そう思って今日は他に予定を入れてはいなかった。
「わかりました。では着替えますのでしばらくお待ちくださいませ」
「はい。急がなくて大丈夫ですので」
「はい。一応選んでおいた小物も合わせてきますね」
そうだ。
ドレスだけではない。
合わせる小物も必要だ。
ドレスだけでいっぱいいっぱいでそこまで気が行っていなかった。
「はい、お願いします」
「小物のほうも変更点があればおっしゃってください」
「わかりました」
「では一度失礼します」
リーリエは侍女を連れて退室していった。
私は思わず深く息を吐いた。
緊張していたのだとわかる。
きちんと選ばないと、と知らず気を張り詰めていたようだ。
アルノーがどことなく微笑ましそうに見ているが無視する。
アルノーは私がこういうことに慣れていないことを知っている。
立場を弁えているのでからかってくることはないがその視線は少し、居心地が悪い。
扉が叩かれた。
もうリーリエが戻ってきたのだろうか?
だとしたらかなり急がせてしまったのではないだろうか?
心配したがどうやら違ったようだ。
今部屋にはアルノーと私しかいないので対応に行ったアルノーが扉を開けて招き入れたのはティーワゴンを押した侍女だった。
「失礼します」
侍女はそっと私の前のお茶を差し替えた。
そのまま壁際に控える。
余計なことを言わない姿勢は好ましい。
お茶を一口飲む。
やはりほっと一息つける味だ。
リーリエが戻るまでしばし気を緩めてお茶を楽しんだ。
読んでいただき、ありがとうございました。




