お茶会のパートナー
リーリエ視点です。
「お茶会のパートナーですか?」
「はい。急で申し訳ないのですが」
対面に座るサージェス様は本当に申し訳なさそうな顔をしている。
そんな顔をする必要はないのに。
わたしたちはきちんと書面を交わした婚約者同士なのだ。
それくらい遠慮なく言ってくれて構わない。
わたしは微笑んで告げる。
「もちろん大丈夫です」
「ありがとうございます」
恐らく婚約者になったと周囲に告げる意味合いもあるのだろう。
婚約解消が普通に有り得る我が国では王命で結ばれたり他国の者との縁組みでなければ婚約披露の夜会などは開かないのだ。
他国の者との縁組みだと相手の瑕疵になるためそう簡単には婚約解消などはできず、お相手の足場固めや何かと横槍など入れられないように婚約披露の場を設けるのが一般的だ。
一般の貴族の婚約は二人で一緒にお茶会や夜会に行き、挨拶をしながら婚約したことを報告していくのが通常だ。
その時に前の婚約のことを持ち出すのは品がない行動とされている。
だからそのお茶会でフワル侯爵家との婚約解消について言われることはない。
言われるとしたら、その次に参加するものからになるだろう。
婚約解消してから割とすぐに婚約も調った。
しかも相手はまた侯爵家という高位貴族だ。
妬みが向けられることはわかりきっている。
これが解消してしばらくしても次の婚約が決まらなければそれはそれでリーリエに瑕疵があったから婚約が解消になったのだと言われたりするのだ。
その塩梅が難しいわけではない。
どんなことに対してもケチをつけたい人間は一定数いるというだけの話だ。
「お茶会と言っても、移動が自由でガーデンパーティーに近いものだそうです」
「わかりました。ありがとうございます」
その情報は有り難い。
席が固定のお茶会と移動が自由でガーデンパーティーに近いものとなるとドレスコードが少し異なる。
その情報がなければ、少し浮いた服装になるところだった。
それではサージェス様に恥を掻かせてしまうことになっていただろう。
それに、フワル侯爵令息と比べられて批判を受けてしまいかねなかった。
フワル侯爵令息はその辺り細かいところまできっちりと情報をくれた。
それは、フワル侯爵家が舐められないようにするためだったけれど。
そのお陰でわたしも恥を掻かなかったことは事実だ。
それからいくつか質問してどのようなお茶会か、どのような人物が招待されているのか必要な情報を得ていく。
一通り必要だと思われる情報をもらって質問を終える。
「他に知りたいことはありませんか?」
「たぶん大丈夫だと思います」
「もし何かあればいつでも言ってくださいね」
「ありがとうございます」
もし何か見落としていることに気づいたらその時に訊けばいい。
それを許してくれる相手だから大丈夫だ。
フワル侯爵令息はその辺りは厳しかった。
必要なことだからと教えてはくれたが必ず苦言を呈された。
まあ基本的には必要な情報はきちんと説明してくれて与えてくれたからそう滅多にあることではなかったけれど。
だけどあの時は落ち込んだ。
今はフワル侯爵令息のことは関係ない。
目の前にいるサージェス様に集中しないと。
サージェス様が眉尻を下げた。
どうかしたのだろうか?
「ドレスの用意が間に合いません」
「それはこちらで」
日にちを聞いた時から当然自前で用意するつもりだった。
「申し訳ありません。せめて髪に飾るリボンを用意させていただけませんか?」
婚約者となって初めてのお茶会ならそれくらいが妥当だ。
わたしが婚約解消をしてすぐでなければドレスを準備してもらっても構わなかった。今回は時間がなかったからどのみちできなかったけれど。
あまり間を置いていないためドレスまで贈られれば婚約解消前から懇意にしていたのではないかと疑われかねない。
そのようなことは絶対に避けなければならないのだ。
「はい。ありがとうございます。あの、リボンの色は何色でしょう?」
リボンの色に合わせてドレスを決めなければならない。
「ドレスに合わせます。急に言われてすぐには決められないでしょう。ドレスが決まったら一度見せていただけますか?」
「はい。わかりました。なるべく早くご連絡しますね」
「はい。無理を言って申し訳ありません」
「いえ、これくらい大丈夫ですよ」
安心してもらいたくて微笑んで告げた。
フワル侯爵令息と婚約をしていた時もこういうことは普通にあったことだ。
本当に気に病むほどのことではない。
サージェス様がほっとした顔になった。
「ありがとうございます」
「気にしないでください」
サージェス様は気を遣い過ぎているように思える。
そこまで気を遣わなくてもいい。
あまりに気を遣い過ぎては疲れてしまうだろう。
だから告げた。
「あまり遠慮しないでくださいね。わたしたちは婚約者なので」
「ありがとうございます」
きちんと伝わっただろうか?
伝わっていないようならその都度伝えればいい。
どうしても伝わらないようならグレイス様に相談しよう。
グレイス様なら力を貸してくださるだろう。
そう決めて一先ずこの件は終わりにする。
そこで思い出した。
まだきちんとお礼を言えていなかった。
「先日はお花をありがとうございました」
「気に入っていただけましたか?」
「はい。とても可愛らしいお花でした」
微笑んで告げる。
「それならよかった」
サージェス様はほっとしたように微笑んだ。
「いただいたカードも素敵でした」
意味が通じたのか、サージェス様の微笑みが深くなる。
やはりあのカードの絵には意味があったのだ。
無事に気づけてよかった。
「リーリエからの手紙も嬉しかったですよ。絵柄は、少し驚きましたけど。でも嬉しかったです」
サージェス様には通じたようだ。
気づかなくてもいいと思っていたのに。
サージェス様は花には詳しくなさそうだった。
だけれど何か意味があると思って調べてくれたのだろう。
それが、嬉しい。
口許に微笑みが浮かぶ。
「男性に送るので迷いましたが、あのレターセットを使いたかったのです」
サージェス様が微笑む。
「ああいうものもたまにはいいですね」
それは何かあった時にまた秘密のメッセージとして使いたいということだろうか?
それともそういう暗号や謎解きとかがお好きなのだろうか?
いずれにせよそれならばもう少し花のレターセットを集めたほうがいいだろう。
「それならいくつか用意しておきますね」
「よければ一緒に買いに行きませんか?」
わたしは目を瞬かせてしまった。
まさかそんなふうに誘われるとは思わなかった。
フワル侯爵令息とはそのように必要なものを一緒に買いに行ったことはなかった。
商会を屋敷に呼ぶか、購入したものを贈られるかだけだった。
だから驚いてしまったのだ。
だけどその仕草を誤解されたようだ。
サージェス様の眉が下がった。
「お嫌ですか?」
「いえ、嫌ではないです。少し驚いてしまって」
「そうでしたか。嫌でないのならよかったです。その時にリーリエの好みの図柄も教えてくださいね」
「わかりました。わたしにもサージェス様の好みのものを教えたくださいね」
「私の、ですか?」
「はい。わたしもサージェス様の好みが知りたいのです」
ふわりとサージェス様が微笑む。
「嬉しいです」
わたしも微笑み返した。
こうやって一歩一歩歩み寄っていけたらいい。
そうすればお互いに穏やかな関係が続けていけるだろう。
「ではお茶会が終わったら一緒に出掛けましょう」
「はい。楽しみにしていますね」
「私も楽しみにしています」
「ではお誘いしますね」
「はい。お待ちしています」
それから少し雑談をしてサージェス様は帰っていった。
読んでいただき、ありがとうございました。




