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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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妹が味方で心強いが

サージェス視点です。

しばらくしてアルノーが戻ってきた。


「お嬢様はお部屋におられて、今から来てくれて構わないということでした」

「わかった」


手紙を持って立ち上がる。

手に持った手紙を見る。

別に持っていく必要はない。

そっと書き物机の引き出しにしまった。


後でリーリエからの手紙を入れる箱を用意しよう。

これからリーリエとの手紙のやりとりは増えるし、分けておいたほうがいい。


何故か言い訳のようにそんなふうに思う。

自分に言い訳などする必要はないのに。


自分の思考を不思議に思いながら振り向く。

アルノーが微笑ましそうな顔で見ていた。


「何だ?」

「いえ」


アルノーがすっと真面目な顔に戻った。

深く追及する必要はない。

そう結論づける。


「行くぞ」

「はい」


アルノーを連れて部屋を出た。






誰何と応答のやりとりの後、許可が出たので部屋に入る。

いくら兄妹とはいえ年頃の妹の部屋に入ることはほとんどない。

用事があれば食堂や談話室で話せばこと足りる。


前回は……リーリエのことを頼みに来た時か。

思ったより最近のことだった。


あの日のことが随分と前のことのように感じる。

それだけあの日から今日までの日々が濃かったということだろう。


「お兄様、お座りください」


席を勧められ、向かいに座る。

立って出迎えたグレイスが腰を下した。


「お兄様、どうなさいましたか?」

「グレイス、花言葉の載っている図鑑を持っていないか?」

「ええ、ありますけど」

「貸してくれないか?」

「それは構いませんけど」


グレイスが侍女に指示を出す。

私に視線を戻したグレイスが訊いてくる。


「リーリエ様からお手紙が来ましたか?」

「……何故そう思う?」


慎重に問う。


「お兄様が花の図鑑を借りたいだなんてそれくらいしか思いつきませんわ。リーリエ様はお花がお好きですし」

「……グレイスの言う通りだ」

「まあ! 先日のお花のお礼状ですね?」

「……そうだ」

「リーリエ様は喜んでくださいましたか?」

「そうだな。喜んでくれた、と思う」


慎重に書いたであろう手紙からはたぶん喜んでくれただろう、としかわからない。

そもそも手紙ではいくらでも本心でないことが書ける。


さすがにリーリエが嘘を書いているとは思わない。

思わないが、気を遣っている可能性はある。

気に入らなくても贈ってくれた気持ちが嬉しい、と。


いや、と心の中で(かぶり)を振る。

定型文ではなく、リーリエなりの言葉で綴られていた。

だから型通りのものではない、はずだ。


「よかったですね」

「ああ」


グレイスがわずかに首を傾げる。


「何か不安になるようなことが書かれていましたか?」

「そのようなことはない」

「それならばそのままリーリエ様の言葉を信じて差し上げてください」

「グレイス?」

「リーリエ様の御心を疑わないであげてくださいませ」

「疑ってはいないが?」

「そうですか。ならいいのですわ。差し出がましいことを申しました。申し訳ありません」


グレイスが軽く頭を下げる。


「いや。リーリエのことを思ってくれたのだろう。謝る必要はない」

「リーリエ様は大切なお友達ですから。それに、将来のお義姉様になりますし」


"将来のお義姉様"発言の意図は明確だ。

この部屋にいる使用人にグレイスがリーリエを私の婚約者だと認めていると示したのだ。


後で他の使用人にもその話は広がるだろう。

これで少なくともグレイスの周囲でリーリエが軽んじられることはない。


その辺り、やはりグレイスはそつがない。


「そうか」

「はい。ああ、準備ができたようですね」


グレイスが手を出せば本を持ち控えていた侍女がその本をグレイスに渡す。

本のタイトルを確認してからその本をこちらに差し出した。


「こちらがよろしいかと思います」

「ありがとう」


受け取ってぺらぺらとページを捲る。

これならよさそうだ。


「借りていく」

「ええどうぞ。もしお探しの花が載っていませんでしたら他の本もありますのでおっしゃってください」

「ああ。その時は頼む」

「はい」


グレイスが楽しそうに微笑(わら)う。


「ふふ、それにしても素敵ですね」


その視線は本に向けられている。

わずかに警戒してしまう。

その警戒をグレイスは察したようだ。


「ふふ、安心してくださいませ。手紙を見せろなどと野暮なことは申しませんわ」

「……言われても見せるつもりはない」

「まあ」


上がったグレイスの声はどことなくはしゃいでいるように思えた。

何故なのかわからない。


「個人的な手紙を見せるわけがないだろう」

「ええ、ええ、わかっておりますわ」


何か余計な含みがあるような気がしてならない。

だがここで指摘するのは得策ではない。

流せと本能が告げている。

だからそれに素直に従うことにした。


本を持ち立ち上がる。


「ありがとう。借りていく」

「はい」


扉に向かう。

その途中で立ち上がったグレイスに「お兄様」と呼びかけられ、振り返る。


「もしお困り事がございましたらいつでも相談に乗りますわ。女性のことは女性に訊くほうが解決することもありますから」


確かにそれは一理ある。

からかおうとしなければグレイスは良き相談相手かもしれない。

リーリエの友人でもあることだし。


「ふふ、勿論リーリエ様にバラすようなことは致しませんので御安心ください」

「そこは信用している」

「まあ。ありがとうございます」


ふわりとグレイスが微笑(わら)う。

そこに喜色があるような気がするのは気のせいだろうか。

何故かはわからない。

だが指摘はしないほうがいいだろう。


「邪魔をした」

「いいえ。また何かあればどうぞ」

「ああ」


今度こそグレイスの部屋を後にした。

読んでいただき、ありがとうございました。

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