花言葉の勉強をしなければ
サージェス視点です。
リーリエからお礼状が届いた。
相変わらずきちんとした文字を書く。
これもリーリエの努力の跡だろう。
文字から緊張も伝わってくるから失礼のないようにと気を遣ってくれたのだろう。
よく考えれば初めてもらった手紙だ。
無理もないことだ。
私も花束につけるカードを書く時には緊張した。
今まで数多のカードを書いてきたというのに。
やはり婚約者相手のものというのはそういう相手とは違う。
婚約者とは特別なものだ。
リーリエもそういう心境だったのだろう。
特に初めの一通目というのは緊張感が違う。
初めというのは肝心だ。
お互いにあまり知らない状態での手紙になる。
文面や筆跡によってもいろいろと伝わる。
ここで失望でもされたら挽回に骨が折れるだろう。
だからたった一枚のカードでも疎かにできない。
リーリエの手紙はその点では文句ない。
改めて文面に視線を落とす。
花のお礼と私への気遣い。
また会える日を楽しみにしている、という締めの言葉。
あまり長々と書かないようにしたのだろう。
簡素になりすぎないようにしながら便箋一枚に収められている。
それでいて過不足ない。
最後まで目を通し、署名の隣にある花の図柄が気になった。
男性に贈るものに花の図柄の便箋を使うだろうか?
あの気遣いのできるリーリエが?
内心で首を傾げーー
はっとする。
この便箋に描かれている花にも意味があるのだろうか?
もし、私がカードに込めた意味に気づいたのならーー。
便箋に描かれている花に視線を落とす。
……何の花だろう?
一般的に見る花ではない。
便箋の地の色は浅葱色だ。
花色は紫色か、いや紺色か……紺色の花などほとんどないからやはり紫色だろう。
すらりと伸びた茎の先に大きな花がついている。
花びらは外側の大きな三枚に中側に小さな三枚がある。
大きな花びらは外側に大きく反り返っている。
葉もすらりと細長いものが茎の下部辺りから伸びている。
本当に何の花なのだろう?
見当がつかない。
私の記憶の中にはない。
たぶん。
それほど花に興味がなかったので、見ていたとしても覚えていないだろう。
それでも便箋の絵柄として流通しているのだから見る人が見ればきちんとわかるということだろう。
……ノークスにもこの便箋を使ったのだろうか?
考えた端から否という答えを出す。
いくらリーリエが花が好きだからといってノークスに花の便箋を使って手紙を送るとは思えない。
ノークスがリーリエの好きなものを共有しているとも思えないし、何より礼儀[作法、場に応じた振る舞い]を重んじる男だ。
どちらかというと女性向きのこちらの便箋を自分宛に使うなど許すはずがない。
だから友人用だったのだろう。
それを今回メッセージが合うからと選んだのだろう。
そもそもの話としてだ。
花に興味のなかった私は当然花言葉に関しては全くわからない。
薔薇が愛の言葉の花言葉を持っていて黄色は避けるべきだということしか知らない。
だからもう少し一般的な花だったとしても花言葉はわからなかっただろう。
あまり一般的な花ではなかったから知らないと言い訳が立つ。
いや、言い訳など誰にする必要もないのだが。
今まで回避してきたことがここに来て悔やまれる。
友人は花を贈る時には花言葉にまで気を遣うと言っていたが他人事のように捉えていた。
友人は呆れて「いずれお前も必要になるぞ。今のうちに勉強しとけよ」と言ってくれていたのだがそれも流してしまっていた。
素直に友人の忠告を聞いておけばよかった。
ついつい必要になった時に調べればいいと思ってしまったのだ。
だから今回のことは実は難易度が高い。
花言葉の勉強をしよう。
重々しく決意する。
後で本を購入しよう。
友人に付き合ってもらって助言も貰おう。
呆れながらも付き合ってくれるだろう。
からかわれるかもしれないがそれも甘んじる。
友人には後で手紙を書こう。
今はこちらが優先だ。
あまり気が進まないが、グレイスに図鑑を借りてこよう。
花言葉の載っている図鑑を持っているはずだ。
控えているアルノーに視線を向ける。
「今日グレイスは屋敷にいるか?」
「確認して参ります」
「いるようなら部屋を訪ねていいかも聞いてきてくれ」
「承知しました」
一礼してアルノーが部屋を出ていく。
改めて便箋の花に視線を落とす。
リーリエは私に通じると思ってこの便箋を選んだはずだ。
それとも通じなくてもいいから伝えておこうと思ったのだろうか?
前者なら私はその期待に応えられなかったことになる。
まあ調べることも込みで通じると思ったのかもしれないが。
それに思った以上に忸怩たる思いが湧き上がってくる。
恐らくそんなことでリーリエは私に失望はしないだろう。
だが残念だ、と思われたくはなかった。
リーリエはそのように思ったところで表には出さないだろう。
だからこそそう思われたくない。
失望されてもそれがわからなければ挽回のしようがない。
ふぅと息を吐く。
初めて婚約者を持つことになったから関係の構築に慎重になっているようだ。
とりあえず今はこの花が何であるのか知ることだ。
記憶にある花ならば記憶を探ることができるが全く見当のつかない花なのだ。
今私にできることは何もない。
じりじりとしながらアルノーが戻ってくるのを待った。
読んでいただき、ありがとうございました。




