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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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届けられた花

リーリエ視点です。

「お嬢様、ご婚約者様からお花が届きましたよ」


婚約者と花という言葉に一瞬どきりとしてしまった。

まさか、薔薇、ではないわよね?


フワル侯爵令息はいつでも贈ってくれたのは薔薇だった。それも大輪の。

それが一般的な婚約者への花の贈り物だったから、だというのは今になってわかっていた。

当時の浮かれていたわたしは気づかなかったけれど。


サージェス様はどのようなお花を贈ってくださったのだろう?

サージェス様はあまりお花に詳しくはなさそうだった。

サージェス様も婚約者に贈る花といえば、薔薇、かもしれない。

サージェス様は悪くないが、薔薇の花束が贈られてきたら素直に喜べない。


思わず心の中で身構えてしまった。

幸い侍女はわたしの様子に気づかずに朗らかに微笑(わら)う。


「可愛らしい花束ですよ」


そう言って差し出したのはデージーの花束だ。

ピンクと白と赤のデージー。

トワイト家の庭にも咲いていた。


ノークス様なら視界にも入れないような花だ。

それをサージェス様は選んで贈ってくださった。

可愛らしくてつい見ていたのをサージェス様は目に留めて覚えていてくださったのかもしれない。


だとしたら、嬉しい。

ふわりと微笑(わら)う。


「本当に可愛らしいわ。ありがとう」

「こちらが一緒に届けられたカードです」

「ありがとう」


カードを受け取る。

端正で読みやすい文字だ。

フワル侯爵令息とはやはり違う。

彼は華やかな文字を書いた。


そんなことをつい思ってしまいながらメッセージを読む。




『婚約の記念に。これからよろしくお願いします』




なんともサージェス様らしいメッセージだ。

だけれど仰々しいメッセージよりよほど好感が持てる。


思わず口許に微笑()みが浮かぶ。

そんなわたしの様子に侍女が微笑む。


「花瓶に活けてきますね」

「ええ、お願い。わたしはお礼状を書くわ」


一先ずお礼状を書かないと。

後日、何かささやかなお返しをしよう。


やはり婚約者になったからには刺繍入りのハンカチだろうか。

少なくとも一枚は早めに渡したほうがいい。

この婚約は順調なものだと示すためにも。


それとは別に純粋にお礼の気持ちでも贈りたいと思った。

その気持ちが嬉しかったから。


どのような図案がいいかしら?

考えるのもわくわくしてくる。


とはいってもサージェス様の好みはわからないからシンプルな無難なものになる。

一枚目はそれでいいとして、そのうちどのようなものがいいか訊いてみよう。


侍女が花束を持って部屋を出ていく。

わたしは書き物机に向かった。


手持ちの便箋を思い出し、候補を決めているうちに机の前まで辿り着いた。

椅子に座る。


引き出しを開けて便箋を取り出した。

サージェス様ならシンプルなものを好みそうだ。


選んだのは淡い青色のもの。

ただし紙の質は高いものだ。

便箋の質には気を遣っていた。


それも、フワル侯爵令息との婚約が決まってからのことだけれど。

思えば一番初めに注意されたのはそのことだった。

こんなところでも役に立っている。


全ては無駄にならなかったということだ。

失恋の痛みもいつかはあれがあったからこそ成長できたのだと思う日が来るかもしれない。

つきりと胸の奥が痛んだが気づかないふりをする。

いつかこの痛みも感じなくなるだろう。


引き出しを閉めようとしてふと栞が目に入った。

アスターの押し花のついた栞。

グレイス様からいただいたもの。


本に挟んだままだとどの本に挟んだかわからなくなってしまいそうだったので引き出しの中に移したのだ。

フワル侯爵令息との婚約を解消した以上もういつ目に留まっても大丈夫だというのもある。

グレイス様とは何度かお会いしているのでグレイス様からいただいたものだと告げても平気なのだ。


引き出しを閉めかけてふと意識に引っかかった。

もう一度サージェス様のカードに目をやる。

そのカードの端に描かれているものがアスターの花だと気づいた。


グレイス様に聞いたのだろうか?

それともグレイス様の助言だろうか?


さすがに偶然というのは考えられない。

カードの図柄に込められたメッセージ。

グレイス様と同じものならばーー"私を信じて"。


それならばーー。

出した便箋をしまい、別の便箋を取り出した。


花の絵が描かれているその便箋は本来は男性に向けて送る時に使うものではない。

だけれど、この花への返事を書くならこの便箋以外は考えられない。


それとは別に覚え書き用のノートも取り出す。

初めて手紙を書くのにいきなり便箋になど書き出せない。


何度も文章を書き直して、ようやくこれで、という文が出来上がった。

結局は無難な表現に落ち着いてしまった。

だけれど、最初だからこのくらいでいいのではないかと思う。


僅かに緊張しながら便箋に文章を綴る。

書き上げて綴りの間違いなどがないかしっかりと確認する。

初めて差し上げる手紙で綴りの間違いがあったら恥ずかしい。

大丈夫なようだ。

文字も及第点は出せる。

大丈夫だ。


もう一度図柄に視線を落とす。

気づかないなら気づかないで構わない。

ただ勝手に読み取って、それに返事をしたかっただけだから。


インクが乾いたのを確認して折って封筒へと入れた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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