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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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婚約者としてやることは

サージェス視点です。

分けられなかったので長いです。

ユフィニー家の方々を見送った後、そのまま家族会議のために各自着替えてから再び集まった。

並んで座る両親の対面に座った。

グレイスは一人がけのソファだ。

念の為ヤレムを残して人払いする。


「無事に婚約が成ってよかったな」


父がほっとしたように言った。

それは断られる可能性も考えていたということだろうか。


「そうね。ほっとしたわ」


母も声に安堵を滲ませている。

私が見た限りは危なげなく婚約が結ばれたようだったが。

気づかない何かがあったのだろうか?

確認したほうがいいだろうか?


「お父様もお母様も心配性ですね」


グレイスが声に笑みを滲ませて言う。


「だって初めてうまくいけばいいと思ったのだもの」

「初めて、ですか?」

「そうよ。今までのご令嬢方とは相性がよさそうなら、というくらいだったわ」


初耳だ。

ということは今までの令嬢たちと私の相性は母から見てあまりよくなかったということか。

どうりでまとまらなくても気にした様子がないはずだ。


「そうだったのですか」

「ええ。今回は初めてサージェスが積極的だったから無事にまとまってくれてよかったわ」


積極的、と言えば確かに積極的に動いてはいた。

別にこの婚約をまとめるためではなかったし、婚約を解消したリーリエとどうにかなるつもりはなかったのだが。

最初は本当に。

だが今は、婚約が無事にまとまってほっとしている自分がいた。


「言っておきますけどお兄様、これからですからね」


グレイスが厳しい声で告げてくる。

今まとまったばかりの話だというのに何のことだろうか。

グレイスが溜め息をつく。


「これからきちんと婚約者として寄り添っていかなければなりません」

「そうよ。婚約なんて簡単に解消できてしまうんですからね。気をつけなさい」


はっとする。

確かにその通りだ。


婚約解消は簡単なことではないが、それほど困難ということでもない。

事実、ノークスは、フワル家は、あっさりと婚約を解消したではないか。


私は神妙な気持ちで頷いた。


「はい」


むしろこれからが本当の始まりだ。

これから関係を築いていくのだ。

末長く寄り添っていくために。

それにはお互いの印象だって大事だろう。

特に今の段階では。


それならば。

父に視線を向けた。

これだけは早々に訊いておかなければ。

場の空気的に訊けないという事態は避けたい。


「父上、先程の質問はどういう意図でしたものですか?」

「ん?」


父は何についてかわからないという顔だ。

はぐらかしている、わけではなさそうだ。


「私のエスコートについてです」


ああ、という顔になる。

それから軽い口調で言った。


「お前には婚約者がいなかっただろう? だからきちんとできたのか心配だっただけだ」

「……婚約者がいなくとも女性をエスコートする機会はありましたよ?」

「そうだったな。すまない」

「リーリエ様は微笑ましそうでしたから問題ありませんわ」


それはどうだろう?

いまだに父親にエスコートを心配されるなど情けないと思われたのではないだろうか?


さすがにこれは確認できない。

たとえ本当にそう思っていたとしても正直に言えるはずがない。

私の矜持を考えて褒めてくれるに違いなかった。

現に父に訊かれたリーリエはそのように対応していた。


途端に自分のエスコートが不安になる。

一度おさらいしておいたほうがいいだろうか?

リーリエに恥を掻かせるわけにはいかない。


「サージェス」


母に呼ばれ、そちらに視線を向ける。


「婚約者になったのだからすぐに花くらいは贈っておきなさい」


そのような事柄が頭に浮かばなかった。

やはり一度その辺りをしっかりと確認したほうがよさそうだ。


「はい……」


やはりリーリエに好きな花くらいは訊いておくべきだった。

後悔しても遅い。

ただ、ノークスがよく贈っていた花は避けたい。


あの男はリーリエの好みの花を知っていたのだろうか?

ふと疑問に思う。

知らなそうだな。

すぐに結論が出る。


恐らくノークスはリーリエのことを何も知らない。

どのようなものを好んでどのようなものを苦手としていたか。


贈っていたものは婚約者に贈るものとしてごくごく一般的なものか、贈る必要のあったものだろう。

だから贈っていた花もごくごく一般的に婚約者に贈る花に限られているはずだ。


婚約者に贈る一般的な花はーーと記憶の片隅から知識を引っ張り出そうとする。

私には婚約者がいたことがないのでその辺りは知識頼りになってしまう。


「お兄様、薔薇は避けてください。フワル侯爵令息はよくリーリエ様に薔薇の花を贈っていたそうですから」


グレイスは何度かリーリエをお茶会に招待している。

その場で話題になったか訊いたかしたのだろう。


さすがグレイスだ。抜け目ない。

だが今回は有り難い。


「わかった」


薔薇だとうちの庭にも咲いている。

リーリエはその薔薇を見ても大丈夫だったのだろうか?

特にグレイスが使っていたお茶会を開く庭には庭を華やかに彩るために何種類もの薔薇が植えられていたはずだ。


もしかしたらその時にぽろりと言ったことがあったのかもしれない。

あるいは一瞬だけでも悲しそうな様子を見せていた、とか?


あり得そうな話だ。

まだリーリエは表情操作には未熟な面がある。

下位貴族にしてはよくできているほうだが。


ノークスと婚約してから身につけたのだろうから、かなり努力したのだとわかる。

それでもちょっとしたことで本音が垣間見えてしまうこともある。


私の前だけならそれでも構わないが、(おおやけ)の場では少し困ることもある。

本人も自覚しているようだったから改善されていくだろう。

私もフォローするつもりだ。


それに友人の前で気を許してぽろりと出てしまうこともあるだろう。

相手はグレイスだ。

うまく聞き出されてしまった可能性もある。

経験値の差は仕方ない。

今はそれで助かった。


さてノークスはどのような薔薇を贈っていたのだろうか?

今後も同じような薔薇は絶対に贈りたくない。


薔薇といっても色も種類も豊富だ。

だがあのノークスが小輪のものや一重のものを贈るとは思えない。


リーリエと散策した庭には小輪の薔薇や一重咲きの薔薇も植えられていたが、リーリエは可愛いと言うだけで特に何かを思い出してつらそうな様子はなかった。

ノークスとの思い出がなかったのだろう。

それは幸いだった。

それでも薔薇という名のものは避けたほうがいいだろう。


そうすると何がいいだろうか?

そこまでグレイスに相談するのは情けないが……

ふと思いつく。


「庭の花でもいいでしょうか?」


母とグレイスが顔を見合わせる。

二人の顔に微笑()みが浮かぶ。

揃って私を見た二人はどこか楽しそうだ。


「二人で散歩したものね」

「リーリエ様が目を留めた花を贈るなんて素敵だと思いますわ」


グレイスには見透かされている。

確かにリーリエが目を留めた花を贈ろうと思っていた。


薔薇ではない。

いくら思い出がなくとも同じ薔薇となるといい気はしないだろう。

誤解もされかねない。


薔薇は婚約者に贈る一般的な花だ。

何も考えていなかったら贈ってしまったかもしれない。

グレイスがいてくれて本当によかった。


「メッセージカードも忘れては駄目よ」

「お兄様、婚約者に贈るにふさわしいカードを持ってまして?」


言われて固まる。


女性に送るようなカードは一応用意してある。

婚約者ではなくとも付き合いや世話になったお礼を贈ることはあったから。

だが婚約者に送るのに相応しいかどうか判断できなかった。


友人が婚約者へのカードを買うのに付き合った時にもっとしっかりと見ておけばよかった。

今更悔やんでも遅い。


「……女性に送る用のカードはある」

「そうですか。後で確認してみましょう」


どうやらグレイスのチェックが入るようだ。

まあそのほうが安心できる。


「頼む」


軽く目を見開いたグレイスはすぐに微笑んだ。


「はい。お任せを」


父は余計なことは言うまいと黙っている。

余計なことを言って被弾したくないようだ。

賢明な判断だろう。


だが後で父に密かに母上との婚約時代のことを聞くことにしよう。

先程の仕返しでは決してない。

参考にさせてもらうだけだ。


こほんと一つ咳をして父が話題をずらした。

何かを察知したのかもしれない。


「ユフィニー家のお茶をうちで定期購入することになった」

「本当ですか?」

「ああ。頼んで了承をもらった」


頬が緩むのが自分でもわかる。


「お兄様嬉しそうですね」

「ああ、嬉しい」


普段そのようなことを言わないので家族が驚いたような顔をする。

だがすぐにその顔に微笑()みが浮かぶ。


「そうか」

「よかったわね」

「はい」


グレイスがくすりと微笑(わら)う。


「よっぽどお好きなのですね」

「ああ、好きだ」

「そこまではっきりと述べられるのも珍しいですね」


確かに私は普段そこまで好みを口に出したりはしない。

そもそもあまり好き嫌いというものがない。

だから確かに珍しいことかもしれない。


「そうかもしれないな」


だがまあ家族の前でなら別に構わないだろう。

特に小言を言われる気配もない。

それどころかどことなく顔が綻んでいるように見える。


「わたくしもようやく念願叶って飲むことができましたわ」


念願とはさすがに大袈裟だろう。

確かに先日は自分だけが飲めなかったと悔しそうではあったが。

とはいえそれを指摘すれば三倍にもなって言葉が返ってくるだろう。


「よかったな」


無難な言葉を返すにとどめる。


「はい」


グレイスの顔に綻ぶように微笑みが浮かぶ。


「お客様にお出しするより日常的に飲みたいようなお茶でしたね」


同感だ。

客に出すなら難しい話し合いを終えてほっと気を緩めた時がいい。


「そういえばお兄様は先日そのようにおっしゃっていましたね」


思い出したようにグレイスが言う。

似たようなニュアンスのことを確かに口にした。

だから一つ頷く。


「納得ですわ。これはそのようなお茶です」


大々的に売り出すような目の引くものではない。

それよりはひっそりと口伝えに売るほうが合っていそうだ。

だからそのように売っているのかもしれない。


「そうだな」


父はグレイスと同意見のようだ。

だが販売については私とは別の意見のようだ。


「売り出すとしたらその辺りを全面に出すといいだろうな」

「うちのほうで販路を作ることにしたのですか?」

「いや、まだだ。具体的な話はお互いに資料を揃えて別の日に話し合うことになっている」

「そうですか。同席しても?」


意外そうに父が片眉を上げる。


「別に構わないが」

「ありがとうございます」


リーリエの婚約者は私だ。

しっかりと関わっていきたい。

あと父の無茶振りがあれば止めなければ。


しっかりと胸に刻んだ。


読んでいただき、ありがとうございました。

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