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砕け散った初恋の後に、最後の恋をあなたと  作者: 燈華


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報告と両親の想い

リーリエ視点です。

長めです。

帰りの馬車の中は穏やかな空気に包まれていた。


「無事にまとまってよかった」

「ええ、本当に」


両親は笑顔だ。


「よいご縁をいただけてよかったわ」


わたしも笑顔で告げる。


「そうね」

「リーリエがそう思えるならよかった。無理はしてないね?」

「もちろんよ」

「ならいい。もし何かあったらきちんと言いなさい」


フワル侯爵令息との婚約時は随分と心労をかけてしまったようだ。


「わかったわ」


はっきりと頷いておく。

だけれど、言えないことがあれば口をつぐむつもりだ。


それは両親もわかっているのだと思う。

それでも伝えておきたいと思ってくれたのだ。


一人で抱え込むな、と。

いつでも相談してくれていい、と。


本当に嬉しく有り難い。

だからこそ迷惑をかけてはならないと思う。


フワル侯爵令息との婚約解消はわたしの我が儘だった。

もちろん両親はそんなことは知らないけれど。

それでも迷惑をかけたことには変わりない。

これ以上は駄目だ。


両親がほっとしたように表情を緩めた。


「お父様たちはどのようなお話をしていたの?」


具体的な提携の話などが出たのだろうか?

それならば是非とも知りたかった。


「まあ、世間話をいろいろと」

「具体的な事業提携の話などは?」

「そちらは資料を揃えて後日ということになった」

「そうですか」


確かにきちんと資料を揃えてのほうがいいだろう。

聞かれて資料がないというのは困る。


「話を詰めるのに時間がかかりそうだから後日に時間を取ってほしいと頼まれたんだ」


そんなにいくつもの事業提携をするつもりなのだろうか?


「まあ、いろいろとな」

「決まったらわたしにも教えてもらえますか?」


前回のように何も知らないのは嫌だった。

知らないままで負担をかけるのはもっと嫌だった。


そんな気持ちが伝わったのか、父がしっかりと頷いてくれる。


「うん、わかったよ」

「ありがとうございます」


これでわたしだけ蚊帳の外ということは防げた。

たぶん。


わたしが両親に話せないと判断したことは話さないように、両親もわたしに知らせないほうがいいと思ったことは話さないだろう。

それは仕方のないことだ。


あとは自分で情報を集めるしかない。

前回はそれを怠ってしまった。

それだけ、浮かれていたということだろう。


今度は大丈夫だ。

浮かれるようなこともない。

だから大丈夫だ。

同じ轍は踏まない。


そう密かに決意していると、母が「一応話しておくわね」と言って告げた。


「私は夫人にお茶会に誘われたわ」

「それは、緊張しますね」


侯爵夫人のお茶会だと招待客は高位貴族が多くなるだろう。

そう思ったのだけれど。


「まずは二人でお茶をしましょう、と」


それは違う意味で緊張する。

まさか初めからそのようなお茶会を催されるとは。

わたしがグレイス様と二人のお茶会をするのとは意味合いが異なる。


当主夫人同士のお茶会だ。

相手は格上の高位貴族の当主夫人だ。

粗相は許されない。

そのうえ大勢のお茶会と違い一挙手一投足見られることになる。


やはりどうしても高位貴族と下位貴族ではマナーに差が出てしまう。

下位貴族の間ならそれくらいは、と許されることでも高位貴族相手では許されないことも多々あるのだ。


フワル侯爵夫人に母が個人的なお茶会に呼ばれた記憶はない。

フワル侯爵夫人はそれをよくわかっていたのだろう。

そして、それを許す気がなかった。

それも高位貴族では珍しいことではない。


わたしもフワル侯爵令息と婚約してからは厳しく直されたものだ。

それがサージェス様との婚約でも活かすことができるのは、無駄にはならなかったという安堵感しか感じられない。


わたしのことは今はいいのだ。

それより母のことだ。

大丈夫なのだろうか?


わたしの顔はひきつっていたのかもしれない。

母が安心させるように微笑む。


「大丈夫よ。頑張ってくるわ」


わたしも何か力になれればいいのだけれど。

マナーの確認くらいなら手伝えると思う。

ただこれは母に求められなければ提案はできない。


「もし何か手伝えることがあれば言ってね」


こう告げておくだけになる。

母を傷つけたくない。


「ええ、ありがとう。必要なら声をかけるわ」

「ええ」

「ふふ、そんなに心配しなくて大丈夫よ」


わたしは顔に出してしまっていたらしい。

それは失態だ。


「ありがとう、リーリエ。気持ちは嬉しいわ」


たぶん情けなく眉が下がっているのだろう。

母が朗らかに微笑(わら)う。


「これでもフワル侯爵夫人に招待された時のことを考えて所作やマナーを見直したのよ。無駄にならなくてよかったわ」


その可能性を考えて母はきちんと準備していたのだ。

母のほうがずっと視野が広い。

視野が狭かった自分を恥じ入る。


「それでもリーリエほどは洗練ではないの。リーリエはよく頑張ったわ」


フワル侯爵令息に恥を掻かせないため、フワル侯爵夫人に認められるためにと必死に頑張った。

彼らはそれを当然のこととして受け止めるだけだったけれど。

それを母は認めてくれたのだ。


「……ありがとうございます」

「リーリエはずっと努力していたからな」


父も認めてくれていた。

両親はずっとそうやって見守ってくれていたのだろう。


わたしはただふわりと微笑(わら)った。

嬉しくて。

それなのに何故か泣きそうになる。


泣けば両親は心配するだろう。

だからただ微笑んでおいた。

それでも両親への感謝の気持ちは伝わるだろう。

それだけでいい。


母が話を戻す。


「せっかくだから仲良くしたいと言われたわ。そうそう無体なことはなさらないわ」

「そうね」


グレイス様とサージェス様のお母様だ。

無体なことはなさらないだろう。

お目こぼしもしてくださると有り難い。


「せっかくだから楽しんでくるわ」

「それがいい。きっと庭も素晴らしいものだろう」

「ええ。トワイト家の庭はとても素敵なのよ」

「まあそれは楽しみね」


恐らくはグレイス様に招待された時に使われる庭のほうでお茶会は催されるのだろう。

あちらの庭も素敵なものだ。

母も気に入ると思う。


場の雰囲気が明るくなったところで父が話題を変えた。


「お茶の定期的な購入もまとまったよ」


わたしとサージェス様が離席している間にだろう。


「よかったわ」


トワイト侯爵家なら信用できる。


「気に入ってくださったのね」

「そうみたいね」

「サージェス様が特に気に入ってくださったようだ」


思わず顔が綻んだ。

先日お見合いした時も気に入ってくださったようだった。


思っているよりずっと気に入ってくださっていたようだ。

それに先程二人で庭の散策をしていた時にも話題に上がった。


「庭の散策中にもサージェス様が褒めてくださっていたわ」

「そうか。それは、嬉しいな」

「ええ」


両親が笑顔になる。


「先程も美味しいと言ってくれていたな。あれは本心だったのだな」

「そうだと思うわ」


どうやら本当にお茶を気に入ってくださったようなのだ。

それは、嬉しい。


是非ともサージェス様にはユフィニー領のお茶を楽しんでもらいたい。

そしてもし何か助言があれば教えてほしい。


そこまでは求めすぎ、だろうか?

まあ、気が向いたら助言してくれたら有り難い。

それくらいの気持ちでいるのはいいだろう。


求められるような立場でもない。

いくらサージェス様が優しいからといっても(わきま)えなければならない。

これ以上の迷惑はかけられない。


ふふと母が微笑(わら)う。


「サージェス様といえばいろいろな表情を見せてくださったね」

「ええ。グレイス様のお陰だわ」

「リーリエはそう思うのね」


きょとんとする。


「違うの?」


両親は顔を見合わせて苦笑する。


「さあ? わからないわね」

「私たちはまだ付き合いの浅い関係だからな」


言われればそうだ。

トワイト家とは特に付き合いはなかった。

だからグレイス様から初めてお手紙をもらった時に家中が動揺したのだ。


「そうだったわね」


つい忘れそうになる。

それはトワイト家の方々が思っていたよりずっと気さくだったからかもしれない。

わたしたちを下に見ている気配がまったくないのだ。


そういうものは隠そうとしても滲み出るものだ。

わたしより経験の豊富な両親は尚更わかることだろう。


「トワイト家の方々は信じられると思うよ」

「私もそう思うわ」


両親の言葉にほっとした。


先日お見合いした時とは違う。

あの時はやはり全幅の信用というわけにはいかなかった。

いや今でも全幅とまではいかないだろうけれど。

それでも信じられるという言葉が出てくる程度には信用しているのだ。

よかった。


父も母も満足そうな微笑みを浮かべる。


「いい関係が築けそうだ」

「そうね」


本当にそうできればいい。

そう思いながらわたしも頷いた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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