尋問 後編
「奴隷? 奴隷って?」村でも町でも奴隷を見たことないベネツィオは奴隷を知らなかったが、執事マイラドがわかりやすく教える。
「なるほど…。でも、わたし…春から領地内の都市の学園へ行くんだけど?」
「ほう。そういえば言ってましたね。ならば都合が良いのでは? 敵の正体もわからず、学園では誰もベネツィオ様を守れない。ならば、ウーラを護衛とすれば良い」フィプスアローも前向きだった。
「では、ウーラには自身の命よりもベネツィオを優先して守ること。ベネツィオを裏切る・嵌めるようなことは禁止。ベネツィオへの絶対服従などを条件に含めるべきだな」筋肉ムキムキのジブリックは、条件を並べる。
「だけど…お父様、学園には高額な費用がかかりますが…」
「それは問題ない。私がウーラの分を出資しようではないか」フィプスアローが提案する。
「全く、この忙しい時期に…。領地内の都市への出発まで、後二週間しかないのだぞ?」とお父様が項垂れた。
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領地内の都市へ向かう三台の幌馬車を守るように騎士団が並走して走る。護衛に騎士団を連れ出したため、町の防衛を上級冒険者に託すことになる。上級冒険者は、領地内の都市より招くためかなりの出費となるのだが、町を管理するヒルブレッド男爵の同席を理由に、町の来年度の予算から歳出することになった。
馬車の中では、それぞれの思惑が交差していた。
オルベリックは、勲章を自身が受け取ると、ヒルブレッド男爵に伝えたのだが、万一のためベネツィオも同席させるつもりだった。もし仮に領主イッシュベル侯爵が、ベネツィオの存在気が付き、勲章を与えるのならば、後から何を要求されるのか、全く予想も出来なかった。またベネツィオの暗殺事件の情報を手に入れたならば、保護を言い出すかも知れない。そもそも長男のエリックが、ヒルブレッド男爵に功績を認められ騎士爵になるまでは…ベネツィオを表に出す気など無かったのだ…。
ヒルブレッドは恐ろしくて仕方なかった。この何の特徴もない町を管理して数十年。この町を手放さなければならない危機など一度のなかった。だが今回、ベネツィオが、領主イッシュベル侯爵から、爵位を授与されるか、町の管理を任されたのならば…。自身の立場が危ういのだ。
「と、お二人はお考えでしょう」と執事マイラドは、わたしに説明する。
「あの…。一応、マイラドさんの雇い主は、お父様ですよね? それなのに、なぜ? わたしにそのようなことを教えてくださるのですか?」前々から疑問だったことを尋ねる。
「はい。一刻も早く、貴族の謀略・策略などを学んで頂きたいのです。ベネツィオ様の才能は、ずば抜けています。それを証拠に、街に来て数カ月も経たないうちに、既に領主イッシュベル侯爵の眼にとまってしまったではないですか。確かに雇い主はオルベリック様ですが、私はベネツィオ様の執事でございます」
「わたしが話を聞いたところで、軽々しく誰にも話すこと無く、それを利用できないとわかっているのですね」
「はい」と執事マイラドはニッコリと笑う。
「ベネツィオ様は…一体…何者なのですか?」と奴隷になったウーラが訝しげに尋ねる。
「わたしが…何者か? ですか? わたしにも、よくわかりません」
いつか、その答えがわかるのだろうか? 自分の故郷である村から、どんどんと離れていく人生に怖さを感じながらも、ベネツィオの心の奥底にあるテイマリアン・サーガへの憧れが強くなるのであった。




