悩めるオルベリック
町の住民に崇拝されつつ畏怖の念を抱かせた血みどろのベネツィオが、屋敷に帰還したのは深夜だったのだが、執事マイラドとシーシー、エフェアリアが出迎えてくれた。
湯浴みをしている最中に、ベネツィオは極度の疲労のためか、意識を手放してしまう。つまりは、シーシーとエフェアリアが、存分にメイドとしての実力を発揮できる情況であった。まぁ、着せ替え人形として、朝まで体を弄ばれた程度ではあるのだが…。
「はぁ…。体が重い…。疲れが、全然取れてない」シーシーにいつものゴスロリ系の衣装を着せてもらいながら言った。
「昨日の討伐では、随分と活躍されていたみたいですね。無茶はお止め下さい」涙目のシーシーに訴えられては何も言えない。無駄な反論はしないのです。
「では、朝食を頂きに、母屋に行きましょうか」としれっと話題をすり替える。わたしは離れに住んでいる。その方が気軽で良いし、魔物たちも自由にできるという理由からだ。だが、家族と溝を作る気はない。積極的に交流を持とうとしているし、決して逆らったりもしない。
あっと、思い出す。昨日討伐直前の忙しいときに、無理やり約束させられていたこと…。
「それと、シーシー。今日の午後に、エリッサお姉様が、離れに遊びに来ます。何か美味しいお菓子でも用意できればと思っています」
「お任せ下さい。ふふふっ」と上機嫌になるシーシー。
メイドに気を使う主など見たこと無いよ…。まぁ、シーシーは妹みたいな存在だからね。
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オルベリックは、書庫から古い文献を持ち出し書斎に篭もると頭を抱えた。
豚者の討伐報告を町の管理者であるヒルブレッド男爵に報告すると、冒険者ギルドを通して領主イッシュベル侯爵への報告を指示された。まぁ、魔物が町を襲う珍しい事案であると共に、ボス級の魔物を討伐したのだ。領主へのポイント稼ぎになると思ったのであろう。
と、そのときは、その程度に考えていた。だが、領主からの返信で、あのボス級は各地の辺境の町や村を襲う災害指定級の魔物であったことがわかった。その魔物は強力な騎士が討伐に来ない、あえて辺境の町や村を襲っていたのだ。また討伐隊を以てしても討伐には至らず、退却させるのが精一杯であったというのだ。魔物のことなど、この際、問題ではなかった。領主からの手紙には、”討伐した者に勲章を与える”とあり、こちらの方が大問題であった。
この国の勲章は、貴族への登竜門である。そして誰から授与されるかが問題なのだ。町の管理者であるヒルブレッド男爵であれば騎士爵や商人貴族止まり、領主イッシュベル侯爵ならば…。私が喉から手が出るほどに待ち望んだ機会であった。それをベネツィオは…。
「勲章ですか? そういうものは騎士団長が受け取るものではないのでしょうか?」想定外の答えだ。
書斎机の上にある資料を手に取る。執事マイラドの報告によると、当初懸念されていたような反抗的な面は一切無く、とても従順であるということだ。
あの村で見せた殺意に満ちた眼。どうにか体裁を整えていたが手足は震え、心臓が握りつぶされそうな感覚であったのだ。そう。恐怖は心に刻まれたのだ。天真爛漫な笑顔を組み入れ制度で廃人のような表情に変え、町では騎士を殺そうとし、貴族への学習は従順であり、家族には自分は戦う道具だと卑下し、町を救い…栄誉を拒むか。
貴族を利用して、成り上がり、私に復讐するつもりではなかったのか?
まったく理解できぬ。どれが本当のベネツィオなのだ?
明日には、町の管理者であるヒルブレッド男爵に報告せねばなるまい…。だがどのように?




