再び町へ
「おいエレスト。確か去年、ベネツィオを町と村の往復、護衛したな?」
「はい」簡潔に返事をしたエレストを見上げる。また背が高くなり顔つきも幼さが抜け、一段と男に近づいていた。
「よし。ならば、ベネツィオを馬に乗せ護衛せよ。おい、フェルジル。お前は、このシーシーという女を乗せろ」オルベリックが指示を出し終わると、騎士団は町への出発する。
見送りは不要だと、昨晩、村長のバルベルデに通達したため、村人は誰一人としていなかった。
わたしは、エレストの前に座る。”夜の森”に差し掛かっても、終始無言のわたしに、エレストが話しかけてきた。
「ずっと黙っているつもりか?」
「だって…前にも言いましたよね? わたしは、エレスト様に教えれれたことを守っているだけですよ? ”貴族様には、話しかけるな、近づくなと、恋をするな”です」
「何を馬鹿な。ベネツィオ。君も貴族だ」
「はっ! そうだった…」
「ふっ。少し、貴族のことを教えておこう。イフリアン王国は、いくつかの領地を貴族たちに管理させていてね。その領地の中にも、いくつかの町や村がある。私達の町はヒルブレッド男爵が治めていてね。そのヒルブレッド男爵に認められたのが、私の父やオルベリック様だ」
「えっ!? いきなり難しいよ。王様がいて、領主様がいて、町を治める貴族がいて、その貴族に認められたのが、オルベリック?」
「オルベリック様だ。様を忘れるな。しかしベネツィオの場合は、父上でもあるのか」
「オルベリック様は、戦いの功績を認められ騎士爵を与えられた。私の父は、商いの功績を認められ商人貴族として、一応、貴族を名乗っている。私は、正式には貴族ではないのだがね」
「えっと…つまり、エレスト様より、わたしの方が偉いの?」へへんと笑い出す。
「ぐっ! そ、そういうことになるのか…。オルベリック様は、町のNo.2だからな…。養女ならば、権力も…それなりに高いのか」悔しそうなエレストの声だった。
でも、急に悲しくなる。そんな権力なんていらないよ…と、ぐすんっと泣き出すと、もう止まらない。声が漏れないように顔を両手で押さえる。エレストはわたしが落馬しないようにしっかりと左腕を腰に回してくれた。
まだ幼いベネツィオの心を守るように、新たなスキルがステータスに刻まれた。無常の諦念、つまりは、望むことは叶わずうつりかわるため、諦めることで、心を穏やかにするスキルだ。
■ステータス
・心:努力を惜しまない
⇒獲得心理:命の達観、乙女の心、無常の諦念
力ある故に、心が歪む。この世に生を受けたほどんどの命が、経験できない崇高な体験である。
ベネツィオの心が乱れ壊れる。希望を失った瞳と、無邪気に笑う声、そのどちらが本当のベネツィオなのだろうか?
長い旅路が終わり、町の門が、ベネツィオを迎え入れる。オルベリックは、鮭熊討伐隊を解散させると、正騎士達のみで、騎士団の詰め所に向かった。




