村での最後の夜
騎士が監視するテント内には、ニール、ニールの両親、村長のバルベルデ、マレカラートとアルジェリカがいた。
「あくまでも、口にしてよいのは、ベネツィオとの…別れの挨拶だけだ」村長のバルベルデが注意を促す。
言いたいことは沢山ある。誰もが喉まで出かかった言葉をのみ込む。当たり障りのない別れの挨拶を聞くわたし。でも…どんな言葉も、何も頭の中に入ってこなかった。
「ねぇ、ニールは…。どうなるの? また新しいお嫁さんをもらえるの?」
気になっていたことを聞く。村の男女比は、圧倒的に女の子は少ないのだ。
「いや…。ニールは、このまま生涯独身だ。女が余れば話は別だがな…」ニールのお父さんは悔しそうに言った。「それじゃ…跡取りも」とわたしは呟くが、「大丈夫よ、ベネツィオちゃんは、自分のことだけを考えて…」とニールのお母さんが安心させるように言ってくれた。
あまりの突然のことに、誰もが話題を出せずにいた。
「アルジェリカ、傷は痛む?」
「大丈夫です」
「ごめんね。あと…テイマリアン・サーガは、大事に取っておいて…。そこがわたしの故郷だから…」
静かな重い雰囲気のテント内に、オルベリックが入ってくる。
「村長。言い忘れていた。ベネツィオは、私の養女、つまり貴族だ。貴族として、身の回りの世話をする者が必要だ。勿論、町の屋敷には侍女はいる。しかしベネツィオにも、元村人の侍女が欲しいだろうと思ってな。なるべく成人前の村人に染まっていない人材を探したのだ。おい、入ってこい」
なんと、シーシー。マーゼの妹だった。
「村長、このシーシーという女も連れて行く。まぁ、こっちは何の権限もないので、村長の意向によるのだが…? 来年以降も、鮭熊討伐を騎士団に頼むのであれば…な」
半ば強制的ではないか! ぐっと怒りを押し殺し、拳を膝の上で固める。それに、シーシーを連れて行くのは、わたしのためなんかじゃない。シーシーを使いわたしを従わせるため、わたしが逃げられないようにするため、きっとそんな理由だろう。
「しかし…シーシーの両親にも…」
「いや、こいつの両親はいなかったぞ? 確か、マーゼとかいう兄だったか? ベネツィオを連れて行くなとか、私に襲い掛かってきてな、不敬罪で処分してやろうと思ったのだが、丁度、このシーシーが、割って入ったころこで、連れて行くことを思いついたのだ。まぁ、兄を助けるための取引だ。問題はないだろう」
「……わかりました。シーシーのこともよろしくお願いします」
「ふむ。悪いようにはしない。約束しよう」
その夜は、シーシーと同じテントで寝ることになる。年下のシーシーを不安がらせるわけにもいかず、わたしは気丈に振る舞う。
「ごめんね。わたしのせいで…。でも、きっと町で、幸せになろうね」
声を殺して泣くシーシーをいつまでも優しく抱きしめるのだった。




