殺意
えっ!? よ、養女? わたしが? えっ!? 拒否権がない? はっ!?
「ふ、巫山戯んなぁっ!!」とわたしは叫ぶ。
わたしの怒りのリミッターが外れる。うさ角とメタフォも、わたしの感情に連動するように戦闘態勢に入る。その殺意に満ちた雰囲気に、騎士団の乗る馬は、軍馬の教育を受けていたにもかかわらず、暴れ出し騎士たちを落馬させていく。
短剣を抜く。目の前にいる理不尽な男を殺すために!!
わたしが踏み込むと、何者かが割り込んできた。「お姉ちゃん!!」と割り込んできたのが、妹のアルジェリカが、だと気づいたときには…。アルジェリカの腹部に、わたしの短剣が刺さっていた。
「アルジェリカ!! ダ、ダンモフ、お願い!!」
短剣を抜くと、血がドバっと溢れ出す。ダンモフの新芽により、傷口はあっという間に塞がる。
「お、お姉ちゃん、駄目よ…。騎士様に、貴族様に逆らっては…。逆賊として、領主様に、お国に…。処分されてしまうは…。お姉様も、私も…。村も…。お願い、辛いけど…た、耐えて」
アルジェリカ は、わたしの腕の中で、気を失ってしまった。 アルジェリカをマレカラートに託すと、一触即発の雰囲気の中、わたしはオルベリックと名乗る男の提案を受け入れることにした。
「わ、わたしは去年、ある人に恋をしたの。そしたら身分が違うから無理だとか、結婚相手は親が決めると言うし。その恋を忘れて、ニールと結婚したばかり、結婚も…他人が決めた相手、でも努力して愛せるように頑張った。頑張ったら…好きになってきたの。そしたら今度は、養女になれですって!? わかりましたよ…。もう…好きにしてください…」泣き叫びたい気持ちも、馬鹿らしくなり、涙がドバドバと溢れ出すだけだった。
そんなわたしの様子を無視し、オルベリックと名乗る騎士は、話を進める。
「うむ。では組み入れ制度を行使し、ベネツィオを私の養女にする」と再度宣言する。オルベリックは篭手を外すと、右手小指にはめた指輪を光らせる。貴族が行使できる魔法が封じられた魔道具である。指輪の明かりが消えると、一枚の紙がひらひらと、地面に落ちる。「ベネツィオ、拾いなさい。それが契約の内容だ。またその紙を破っても契約破棄にはならんからな。あくまでも内容を記載した紙だ」
わたしは紙を拾い契約内容を読んだ。読み終えると突如、紙は燃え上がり消えてしまった。
「オルベリック様、どうかベネツィオと…。最後の別れのため、一晩、家族と共に過ごす時間を頂けないでしょうか?」村長バルベルデが懇願する。
「ならん。しかし…そうだな。我らの野営テント内でなら許そう。だが護衛の騎士は外すことはできぬぞ?」
「そ、それでも…。ありがとうございます」
「それでは、村長バルベルデよ、私達は明日の朝一で、この村を発つ。特に我らに対するもてなしなどは不要だ。前年度、王国騎士団第三部隊副隊長レギルス様と交わした約束であり、そのときに報酬なども頂いているのでな。さて、ベネツィオよ。我らと共に来い。荷物などは不要だ。すべて必要なものは町で買い与えるのでな」
「はい…」わたしは力なく返事をする。
こんな理不尽からもお婆ちゃんは守ってくれていたのかな? お婆ちゃん、今何処で何をしているの? 助けてくれなくてもいいから、最後に、逢いたかったよ…。
オルベリック率いる騎士団の後に続き、とぼとぼと野営地へ向けて歩くのであった。




