母と娘の疑似体験
エレストのお母様の目を見ると、卑下する目ではない。興味が抑えきれず興奮した目であり、口調は、とても怖い貴族のそれだった。
「あ、あの…。わたしは、教育など受けていませんので、話が上手くありませんし、長くなるのですが、お許し頂けますか?」
「勿論、そんなこと気にする必要はございません。私の我儘で、あなたの秘密を聞こうと言うのですから」
少女の秘密ということで、護衛達も部屋から追い出された。わたしは覚悟を決めて、記憶の限りをエレストのお母様に話した。
「元々は男の子。そして今では、心までも女の子に…。そんな不思議なことがあるのですね。私が考えるに、毎年来る男性は、ベネツィオの本当の父親ではないでしょうか」
「本当の父親…。そ、そんなこと考えたこともありませんでした」その推理に私は驚く。
エレストのお母様はお茶を一口飲むと黙り込んでしまう。わたしはエレストのお母様の邪魔をしないように静かに待つ。
「はぁ…。エレストは下級貴族の三男です。貴族の繁栄のために、より大きな貴族や大商人の娘と結ばれなければなりません。残念ですが愛だけでは生きていけないのです。ですから、ベネツィオさん。私の娘になる気はありませんか?」
突然の申し出だが、答えは決まっていた。
「大変ありがたいお話だと、身に余るお話だということもわかっております。しかし、わたしには夢があります。テイマーとして生計を立て、この魔物と共に、自然豊かな村で暮らすことです」
エレストのお母様はニコリと笑う。「そのように答えることも、わかっておりました」
エレストを部屋に呼ぶ。思ったよりも話が長引いていたため、大変心配してくれていた。
そんな二人を横目に、エレストのお母様は、ご自身が考えた計画を話す。
「明日、シリギデン家専属の冒険者たちは、依頼を終え町に戻ってくる予定です。一日休暇を与えた後、エレストを加え、ベネツィオを村まで送ることにします」
「あ、あの…そんな…冒険者を雇う費用は、わたし出せません」
「いいのですよ。ベネツィオさん。これは投資です。あなたは希少な魔物を3体も保有する優れたテイマーです。この先、あなたの力を貸して頂くときもくるでしょう。正式な契約書は交わしません。私とあなたの友情を契約としましょう。それでいいですね?」
「は、はい。あ、ありがとうございます」
「エレスト。騎士団からには、私から休暇の申請を出しておきます。大義名分を持って、村から連れてきた少女を村に返すのです。堂々と護衛をしてきなさい」
「はい。お母様、ありがとうございます」
出発は明後日に決まった。丁度、追加の冒険者が遺跡のトンネルに出発するので、その冒険者たちと移動することになった。
それまで、わたしは、女の子に恵まれなかったエレストのお母様の鬱憤を晴らすように、町へ繰り出すと、きせかえ人形の如くいろいろなドレスを着せられたり、女の子が喜ぶようなスイーツを堪能したり、悲劇のヒロインが叶わぬ恋をする劇を何度も見たりと、お金と時間の無駄遣いの限りを尽くしていた。
そして出発の朝が来る。
「それでは、エレスト。必ず無事にベネツィオさんを送り届けるのよ」




