遠い町の路地で
「えっ? わ、わたし一人で、村に帰るの? えっ!? う、嘘でしょ…」
少女? 幼女一人と魔物3匹は、誰も知らない町に放り出された。
「ベネツィオ」声をかけられた方を向くと、エレストがいた。わたしは会釈をすると、足早にその場から逃げようとしたのだが、片腕をエレストに掴まれたしまった。
「おい、逃げるなよ」
「貴族様には、話しかけるな、近づくなと、教えてもらいました。あと…恋をするなとも…」
「貴族を無視することは、もっと駄目だ。はぁ、とりあえず、家に来い。帰りの段取りを考えよう」
「あの…。平民を…町の市民権も持たない、村の娘などを…め、迷惑なのでは?」
「それも含めて、全部、考えるから、着いてこい。ここでは目立つ」
***** ***** ***** ***** *****
エレストの家は、家ではなかった。わたしの中の家は村の家であり、エレストの家は、村で一番大きい村長の家の何倍もの大きさと豪華さを誇っていた。とういうか庭のある家なんて村では見たこと無い。大きな門の先には、石畳の通路と、手入れされた庭園。噴水まであり、ここは天国かっ!? と思ってしまった。
「エ、エレスト…。わたし、やっぱり帰る。ここ、天国すぎて怖い」あまりにも場違いな雰囲気に腰が引ける。
「エレスト様と呼べ。それにな…何処に帰ると言うのだ? 今から帰る相談をするのだ」
屋敷と呼ばれた、そこに入ると、メイドやなんやらが沢山いて、なんて挨拶をするべきか、わからぬがまま、部屋に通された私は、エレストのお母様と二人きりになる。勿論、お母様には護衛が複数人付いているのだけれど。
「エレストから、大体の事情は聞いております。大変でしたね。ベネツィオさん」
「は、はひぃっ!」
「ふふふっ。そんなに緊張されては、会話もできません。エレストからは、村では貴族と接する機会もないため、教育も受けていないと聞いております。私達、シリギデン家は、貴族の中でも下級の貴族であり、平民と接する機会も、町から離れた集落の人々と話す機会も多いのです。それぞれの立場を理解できる貴族と自負しておりますから、どうぞマナーなど気にせずに、リラックスしてください」
「あ、ありがとうございます。あ、あの…、わ、わたし、エレスト様や、シリギデン家の皆様に、た、大変ご迷惑をかけていると…わかっております。で、ですから…お、怒られる前に、お屋敷を出ていきたいのです。ど、どうにか、ひ、一人で村に帰りますから…」
「なるほど。エレストが、あなたに興味を持つのも、この短時間で理解できました。純粋で欲がなく、まず他人を気にかける心のある人物ということですか。まずはあなたからの質問の回答ですが、怒っていませんよ。でも最初に質問があります。ベネツィオという名ですが、男の名前ですよね? あなたは女性ではないのですか?」
膝の上で拳をぎゅっと握る。どうする? どうする? 本当のことを言うべきか?
「い、今は女性です。どうか、それ以上は聞かないで下さい」
「いまは…ですか。私もあなたに興味が湧いてきましたわ。遺跡のトンネルの蜂蟻、あれは町でも大変、問題になっています。しかし、なかなか駆除できずに、今も冒険者たちが、次々と投入されている情況です。まだ時間はあります。あなたに嫌われるかも知れませんが、私はあなたの秘密が知りたい。貴族として命令します。すべてを話しなさい」




