淡い気持ち
再び草原を疾走する。一晩休んだ馬は驚くべきスピードで駆ける。ガクン、ガクンと首が揺れる! あわわわっ、脳が揺れる! 朝食べた物が…逆流してくるよっ!!
「おい、何かいるぞっ!」先行していた別の騎士が後ろを向いて話しかけてくる。
その怪しい男たちを囲むように馬は走る。「あっ! 騎士様っ!! 先行して町に向かっていたエレスト様です!!」と私は伝える。「何? エレストなのか?」と馬を停止させ確認する。
情報交換をすると再び馬は走り出し、今夜の目標である農地に辿り着く。農家が農業兼宿屋を経営するのだ。「名は、ベネツィオと言ったな。お前はここで、エレストと合流し、エレストたちの体力が戻り次第、町へ向かうのだ。明日の朝一で、私達は先に町に行き、討伐隊の要請を出し、救助へ向かう」と今後の予定を教えてもらう。
夜中にエレストたちが到着する。騎士の数は三人だ。農家のお母さん、娘、私で、倒れるように寝てしまった三人の服を脱がして体を拭く。
「ほら、恥ずかしがってるんじゃないよ。騎士様に守ってもらったんだろ? しっかりとお返しをするのさ」
そんなこと言われても…。恥ずかしいよ。あれれ? 男の裸を見て恥ずかしいとか…。女体化が完了したということかも??
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朝一で騎士たちは街に向けて出発してしまった。
一応、寝ている騎士たち三人に監視されていることになっているのだけどね。わたしは宿屋の仕事を手伝うと、農家の仕事も手伝おうとするが、それは拒否されてしまった。「騎士様達に、たっぷりと金貨貰ったからね」
することがないわたしは、農地を見渡しながら、今までのことを振り返る。「わたしが余計なことばかりするから、ドンドンと酷い目に遭っているのかな?」と呟く。
「そんなことはないだろう」といつの間にか隣りにいたエレストが答える。
「あっ…。もう大丈夫なの?」
「あぁ、一応、騎士の訓練で鍛えているからな。それよりも表情が暗いな。何を悩んでいるのだ?」
「わたしが余計なことをしたから。遺跡のトンネルから、蜂蟻が出てきて、騎士が沢山死んでしまった。わたしのせいだ」
「なぜ自分を責める? 騎士は平民を国を守るのが仕事だ。死んでも守れればそれでいい。それに人の命は儚く、死んだからといって、いちいち悲しむものではないだろう? 死んだ人間を悲しんでいたら切りがないだろう?」
そうだ。この世界の命はとても軽い。病気、寿命、餓死、戦死、魔物や盗賊に襲われて…。死ぬ理由なんて、そこらじゅうに転がっている。だけど、知ってる人が死ぬのは嫌だ。
「エレストは私が死んでも悲しくないの?」
「騎士として守るだけだ。騎士には守るべき命とそうでない命がある」エレストは言いながらわたしから離れていく。「だが、個人的には、すごく悲しいさ」と呟いた。
その言葉が嬉しくて背中に抱きつく。「貴族と平民が恋をしても良いことは何もない」と抱きつくわたしを見ずに、抱きついていた手を払いのける。
こうして、わたしの初恋は、一瞬にして砕け散ったのだ。その場にしゃがみ込み、風で揺れる草原の草花をじっと見つめていた。




