最も深き穴 その4
わたしは覚悟を決めて振り返る。そこにはイーノーベ学園長がいた。
「イーノーベ学園長。もしかして…ハンターとして、わたしを殺しに来たのですか?」
イーノーベ学園長が頭を振って否定した。
「ベネツィオ。お前の考えた通りさ。”南大陸の大地エネルギーを吸い取っている何か”を止めに行けば、黒幕は現れると思っていたんだろう?」
ベネツィオはその言葉の意味を理解し、短剣を構える。
「戦うことは、いつでもできるさ。そうだね…。わたしの力は強すぎてね。記憶を封印するってよりも、消し去るというか、奪ってしまうんだよ」
「あ、あの…何を言っているか、わかりませんが?」
イーノーベは私に右手を向ける。「何…警戒することはないさ」と言って、パチンと指を鳴らす。
頭の中で何かが弾け、そして乾いた砂に水が染み込むような感覚になる。
”欠けた記憶”…それは…イーノーベとの記憶であった…。
「お婆ちゃん…」ベネツィオは短剣を地面に落とし、涙してイーノーベに抱きついてしまった。
イーノーベも優しくベネツィオを抱きしめ返す。
「お婆ちゃん、どうしてのな? どうして…」
お婆ちゃんの胸に顔を埋めながら、聞かずにはいられない質問をする。
「本来だったら…いつもだったら、会話などせずに、殺してしまうんだけどね…。どうしてだろう…。お前だけは特別に思えるのさ。そうだね…どこから話せば良いのか…」
イーノーべは語る。
私も眷属…持ち。いや、本当は支配者さ。渦の支配者…それもカモフラージュで、禍の支配者さ。お前にも渦の眷属がいつの間にか付いているだろ? それは…”渦”ではなく”禍”なのさ。ステータスを改ざんしているのさ。
私もお前と同じで、体がボロボロなのさ。言葉遣いも言動も…上手く制御でないくらいだった。もう数年も誤魔化しながら…この体を維持していた。だから私は、新しい体を探していたのさ。いや、お前の体を狙っていた。だけどね、体を乗っ取るのって簡単だけど、難しいのさ。強引に支配することも可能だが、わたしは精神も心も魂も破壊して、肉体だけが欲しかったんだ。
だがお前は男の子だったろ? 男の肉体ってのは初めてで、中々準備に手間取っていたら、お前は女の子になっちまったじゃないかい。驚いたよ。あの薬にあんな効果があったなんてね。
女の子なら実績はある。だが精神も心も魂も破壊するってのは、多少時間がかかるんだよ。お前はわたしの目の届かないところに言っちまうから、禍の眷属をこっそりと付けてやったさ。どうだい? 何となくわかるだろ? お前のやることなすこと、いつも悪い方へと進んでいくだろ? それが禍の力さ。いちいち根回しも、裏工作も必要ないのさ。勝手に因果的に失敗するのだから。
まぁ、私は世界中の人や物…ありとあらゆるものに、禍の力を振りまいているのさ。特に、お前には、念入りに禍の眷属を付けてやったけどね。それが…お前が心が折れそうになったとき、何でかな…。お前は予想外の行動で回避したり、心の支配者になっちまったりと…。
結局、お前の体は諦めるしか無かった。まぁ、この”南大陸の大地エネルギーを吸い取っている何か”は、わたしが直接、制御しているから…ここに来るしか無かったのだけどね。
さて、これで話も半分くらいかな。




