ベネツィオの選択 その4
わたしはスッと踏み込み銀色のハーフプレートアーマーを着た女の子の心臓に短剣を突き刺した。柔らかい胸を斬り裂き、確かに心臓に突き刺さる感触が手に伝わってきた。
「待って!」というアリスの言葉が後から聞こえたきた。わたしが剣を抜くと、支えを失った人形のように前のめりに倒れる女の子をアリスは受け止め、「天使魔法・白い治癒」と大急処置を始めたのだ。
「アリス? なぜ?」
「この子は、大陸の連合軍の斥候隊であると同時に、とある国のお姫様なのよ」
だから何だというのだ? ベネツィオは短剣に着いた血を払うと、また村長の家に戻った。
「アルジェリカ。開けて下さい。敵はもういません」
「お姉様!!!」と中からアルジェリカが飛び出し抱きついてくる。
わたしはアルジェリカに最果ての土地で暮らさないかと提案した。しかし予想通りアルジェリカは首を横に振った。ここが私の生きる場所なのだと。今回は無事だったが、また南大陸の連合軍はこの村に押し寄せてくるのだ。いつかアルジェリカは死んでしまうと告げる。それでもアルジェリカは、マレカラートと二人の子供と生きていくと譲らない。
「ベネツィオが外の世界で何を見たかわからないわ。楽しいこと辛いことも沢山あったでしょう。それと同じ価値が、この村に詰まっているの。ここが私の全て。例え家族の命が失われても」
アルジェリカの言っている意味がわからない。それは村の外に出てしまったからだ。
「もう少しだけ村にいるから。気が変わったら、村を出ましょう」
そう言い残し、わたしは村を巡回する。知っている顔もいるが、今のわたしの表情を恐れて誰も近づいてこない。無意識に村はずれの小道にたどり着く。なんだかすごく懐かしい。その道をたどると一軒の家を見つけた。
チクリと頭に何かが刺さったように痛い。すごく大切な場所のようだけど思い出せない。ドアに手を伸ばしたが、鍵がかかっているみたいだった。わたしは諦めて村に帰る。
広場に帰ると、アリスが即死に近い状態から治癒した女の子と話していた。女の子はわたしを見るとガタガタと足を震わせアリスにしがみつく。そんなに怖いのなら、村など襲わなければいいのに。
「ベネツィオ。ごめんなさい。今すぐに、ミカズキ姫を神聖国ノ−ブレディッシュに連行しなければならなくなったわ。元からあなたを他の場所に転移させるつもりはないけど、元いた場所ぐらいなら、戻してあげられるけど、どうする?」
「歩いて帰るから、先に戻って」
「そう…。ベネツィオ…。怒りに身を任せないで…」
聖女アリスは言い残すと転移魔法で消えてしまった。
わたしを遠回しに見る村人たち、すっかり居場所が無くなっていることに、今更気が付く。
誰もが声をかけにくい状態なのか? それが何なのか? さっぱりわからない。
村長の家に向かうが、きっとアルジェリカの気持ちは変わらないだろう。
ドアのノブに手をかけたまま、数秒考えると、”夜の森”へ向かって、一人歩き始めた。
捨てた場所、捨てた仲間、捨てた家族。それが捨てたか捨てられたか、あまり関係がないのかもしれない。ただ時間という魔法が全てを変えてしまったのか? こんな気持ちって、眷属だと、これからもずっと続くのかな?




